生きることの喜びと夢を描き続ける。世田谷美術館で目の当たりにする塔本シスコのめくるめく絵画世界

  • 写真・文:はろるど

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『ふるさとの海』1992年 熊本市現代美術館蔵 熊本県八代郡郡築(ぐんちく)村 (現・八代市郡築) に生まれた塔本シスコ。養父が夢見ていたサンフランシスコ行きにちなんで「シスコ」と名づけられた。故郷、熊本の海での漁や海水浴などの光景を鮮やかな色彩で描いている。

1913年に生まれ、全くの独学ながら53歳にして油絵を描きはじめ、2005年に91歳で世を去るまで絵筆をとり続けた塔本シスコ。いま、必ずしも良く知られた画家ではないかもしれないが、シスコが丹精を込めて描き残した作品を紹介し、その魅力を広く伝えようとする展覧会が、東京の世田谷美術館にて開かれている。

『塔本シスコ展 シスコ・パラダイス かかずにはいられない! 人生絵日記』にて公開されているのは、シスコがキャンバスや板、段ボールなどに描いた膨大なる油彩やアクリル画だ。加えて色鉛筆やペンによるスケッチやガラス瓶に油彩を施したオブジェ、さらに和装の人形や絵柄を手描きした着物なども展示している。その数約200点。多くは極彩色ともいえる輝かしい色彩を伴いつつ、生命感に満ち溢れていて、熱気さえ帯びている。『シスコ・パラダイス』、すなわち楽園と呼ぶのもあながち誇張とは思えない。

1966年に画家を目指していた息子の賢一が家を出て働きはじめると、シスコは残された作品の油絵具を包丁で削ぎ落とし、その上に見様見真似にて自分の作品を描くようになる。そうしたシスコの行為に賢一は驚きつつも独特な絵画に心を打たれ、制作の後押しをしようと決意。こうしてシスコの絵描きとしての生活がはじまり、自身の体験や旅先の光景、また身近な人や庭の植物、それに愛したネコなどを絵日記を付けるように次々と描いていった。

自身の目で見た生命を描きつづけたシスコは、特に家族を重要なモチーフとしていた。しかし実際の光景だけでなく、着物姿の幼いシスコと姉妹が孫と一緒に遊ぶ『古里の家』といった、異なる時代を1つの画面に表す作品もあって、時間や空間を超えた自由なイメージを構築している。また『NHKがやって来た』には、大勢の近所の人たちに囲まれながらテレビの取材を受ける様子が描かれていて、まるでお祭りのような高揚感がにじみ溢れている。

『ふるさとの海』を制作するシスコを映したホームビデオが見過ごせない。そこでシスコは絵の説明をざっくばらんに語りながら、キャンバスを前に絵筆をとっていて、心から楽しそうに絵を描いている。それを見ているとシスコにとって絵を描くことが人生と生活そのものであり、また喜びと夢の体現であったように思えるのだ。展示は世田谷での会期を終えると、約1年にかけて熊本、岐阜、滋賀の各県の公立美術館へと巡回する。多幸感に満ちた作品が多くの人々に鑑賞されることで、ひょっとすると今後「シスコ・ムーブメント」が来るかもしれないと予感するほどに心を惹かれるのだ。---fadeinPager---

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『長尾の田植風景』 1971年 息子の賢一と同居するため、1970年に大阪府枚方市へ引っ越したシスコ。庭の周りにひまわりを育てた景色と故郷の田植の風景を重ね合わせている。この作品が公募展に入選すると、絵を描くことに自信を深めていった。

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左:『古里の家(シスコ、ミドリ、シユクコ、 ミア、ケンサク)』 1988年 右:『桜島』 1970〜1988年 70歳を過ぎてから熊本で過ごした子ども時代を振り返って制作した作品。『桜島』では火山灰をまるで花火のように丸や三角で描いている。

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『NHKがやって来た』 1995年 作品に「シスコのおまつり」と裏書きされている。すでに60歳代前後から京都や大阪のギャラリーで作品を発表するなどして活動していたが、この年、初めて故郷・熊本で個展『塔本シスコはキャンバスを耕す』(熊本県立美術館分館)を開催した。

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『絵を描く私』 1993年 80歳を超えても制作意欲は衰えず、家族に「また新しかキャンバスを持って来てはいよ」と話しては絵を描き続けていたという。そして2001年に認知症を患うも、亡くなる前年まで制作は続き、2005年に91歳の人生を閉じた。

連載記事

『塔本シスコ展 シスコ・パラダイス かかずにはいられない!人生絵日記』

開催期間:開催中~11月7日
開催場所:世田谷美術館
東京都世田谷区砧公園1-2
TEL:03-3415-6011
開館時間:10時~18時 ※入館は閉館30分前まで
休館日:月
入場料:一般¥1,000(税込) ※日時指定制
※臨時休館や展覧会会期の変更、また入場制限などが行われる場合があります。事前にお確かめください。
https://www.setagayaartmuseum.or.jp/exhibition/special/detail.php?id=sp00206

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