「お金の貸し借り」が、破綻を招く理由

  • 文:川畑明美

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シェイクスピアの四大悲劇の『ハムレット』。作中で行われるお金の貸し借りについてのやり取りは、人間関係と借金へのデメリットを伝えている。istock

「金の貸し借りをしてはならない。金を貸せば金も友も失う」とは、悲劇『ハムレット』のセリフだ。シェイクスピアが1601年頃に書いた悲劇の中でもタブーとされている。お金の貸し借りで、友人をなくすことは昔からあったことなのだ。


それでも友人から「お金を貸して」と言われたらあなたは、どうするか? 貸すか貸さないかは、理由や金額によっても違ってくると思う。株式会社Clamppyが、全国の20歳以上の男女300人を対象にた『友人とのお金の貸し借りに関するアンケート』を参考にしてみよう。


どのくら貸せるのか聞いたところ5000円未満の少額が最も多い回答だった。また、貸してもいい理由の1位は、飲食代。割り勘にしてお釣りがなかった時や会計時にお財布を忘れていたなど仕方ないと思うようだ。ただし、毎回そういうお金を払わない人とは、一緒に食事に行かないという意見も多く寄せられていた。

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太宰治の解釈はもっと強烈

ハムレットについて調べていたら太宰治が現代風に解釈した『新ハムレット』のセリフもあった。ここに引用してみよう。『貸すこともならん。お前から借りた男は、必ずお前の悪口を言う。自分で借りて肩身が狭く、お前をけむったいものだから必ずどこかで、お前の陰口をたたきます。かなわち、やがて不和の基』。太宰治の解釈は、そこまでいう? と、いうくらいだ。そのくらいお金の貸し借りはやはり避けた方が良いようだ。

前述のアンケートでも、貸すくらいなら「おごり」と思える5000円以下というのも納得する金額だ。ちなみにアンケートでお金を返してくれなかった場合、相手との関係は続けるかという問いに5人に1人は「縁を切る」と回答している。さらに65%以上の人が「続けるが積極的な付き合いは避ける」とう回答となった。


「お金の切れ目は縁の切れ目」ということわざもある。中にはある程度仲良くなってお金を貸したら行方知らずになってしまうという、半分詐欺的な方もるので、お金の貸し借りには注意したいところだ。

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人間関係を考えると断り方が難しい

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お金を貸してしまったら友人を失ってしまうことが分かっていても断り方は難しい。istock

では、友達や恋人に「お金を貸して」といわれたら、どのように切り返したらいいのだろうか。そもそもお金を貸してしまうと「お金を貸した側」と「お金を借りた側」の上下関係が生まれてしまう。借りた側の人が、なんとか返したいと思っていても、なかなか返せないでいると結局は、疎遠や破局になっていってしまう。


友人や恋人にお金を貸してといわれても10万円や20万円など大きな金額の場合、持ち合わせがないからと断ることもできる。難しいのは、普段お財布に入っているであろう5000円や1万円の金額だ。「貸して」といってくる人の中には人からお金を借りることに抵抗のない人や何とも思わない人、クセになっている人もいる。そういう人にお金を貸すと、返ってこない可能性が高いのだ。それでも人間関係を考えると断り方に悩む人もいるだろう。

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デキる人の断り方はオウム返し


そういう場合は、相手のセリフを「オウム返し」で切り返すと上手くいく。例えば、「今日、飲み会が入ってしまってお金がないから貸して」と、いわれたら「ごめん、俺も今日、急な飲み会なんだ」と、返すのだ。自分もあなたと同じ状況だからお金を貸せないと、伝えることで、やんわりと断ることができる。


できる大人は「断り上手」でなくてはならない。上手に断ることができるのも、デキる人なのだ。そもそも、ATMにいけば24時間引き出せるところもある。飲食代の場合は、お店の人に無理をいえば、ご自身の分のみクレジットカードで支払うこともできる。友人との関係を考えれば、そもそも「貸してくれ」という人の方が無神経なのだ。断る方の迷いや苦悩、葛藤に思いが至らない人とは、距離をおいた方がいいのだ。

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金を借りれば倹約が馬鹿らしくなる

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「お金を借りれば倹約が馬鹿らしくなる」のはリーマンショック前のアメリカの風潮のようだ。istock

また、ハムレットのセリフの「金の貸し借りをしてはならない。金を貸せば金も友も失う」の続きがあることをご存じだろうか。続きは、次の通りだ。「金を借りれば倹約が馬鹿らしくなる」これは、言いえて妙だ。リーマンショックを引き起こしたサブプライムローンを彷彿させる。サブプライムローンとは、ローンの信用度が劣る低所得者を対象とした住宅ローンのことだ。


一般の住宅ローンよりも金利が高めなのだが、そのぶん審査基準が緩和されていた。どうして金利が高いのにローンの借り手が多かったのか不思議に思うかもしれない。なぜかというと、借入れ当初の数年間は、金利が低めに設定されていたのだ。その後、金利が高くなる頃に値上がりした住宅・不動産を売却して借入れを返済したり、値上がりした住宅を担保にローンを仮換えればよいと考え、多くの人がお金を借りたのだ。


不動産価格が上昇していれば、金利が上がった時に住宅を売却したり借り換えることで返済ができたが、住宅バブルは続かなかった。住宅バブルの崩壊と共にローン返済が出来なくなってしまった人が急増したのだ。

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家もローンで購入、家具や家電でも借金

住宅価格は高額だから、ローンを借りるのはわからなくもないが、広い家に引っ越して、家具や家電も大きなものにローンで買っていた人も少なくなかったのだ。家もローンならば、家の中にあるモノも全て借金で購入したものだった。当時のアメリカでは、「ローンはどんどん借りればいい。ローンでローンを返す生活でも大丈夫。給料は毎年上がるし、不動産もどんどん値上がりするから」という風潮だった。


ハムレットのセリフのように「金を借りれば倹約が馬鹿らしくなる」を具現化したものだったのだ。お金を借りて購入するクセがついてしまうと、家計が破綻することにつながる。給料がでたら、そのほとんどが借金の返済で消えてしまう。そして月末に近付くとお金がなくなるから、さらにお金を借りてしまうのだ。


クレジットカードは、上手に使えればとても便利でお得だが、使い方には気を付けたい。自転車操業だけでなく分割やリボ払いにすると金利がとても高く、永遠に借金が終わらない地獄に足を突っ込んでしまうことになる。

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【執筆者】
川畑明美●ファイナンシャルプランナー 「私立中学に行きたいと」子どもに言われてから、お金に向き合い赤字家計からたった6年で2000万円を貯蓄した経験をもとに家計管理と資産運用を教えている。HP:https://www.akemikawabata.com/