長い歴史を有するウォッチブランドが迎えるアニバーサリーモデルは、単なる祝祭のための存在ではない。これまでブランドを支えてきた偉人たちへの敬意と伝統への回顧、そして未来への展望でもある。創業180周年を迎えるグラスヒュッテ・オリジナルの新作は、まさにその精神を象徴するタイムピースのひとつだ。
2025年は、名門ブランドの周年や象徴的コレクションの節目が重なる年となった。ドイツ時計産業の聖地・ザクセン州グラスヒュッテで誕生したグラスヒュッテ・オリジナルもまた、今年で180周年を迎える名門ブランドのひとつである。そして、その記念すべき節目に登場したのが新作「パノマティックルナ アニバーサリー・エディション」だ。
特筆すべきは、ブランド初となるアベンチュリン文字盤の採用である。17世紀、イタリア・べネツィアのムラーノ島でガラス工芸職人が偶然、溶解中のガラスに金属粉を混入させたことから生まれたこの素材は、まさに“セレンディピティ”の産物。その煌めきは、夜空に瞬く無数の星を思わせる幻想的な美しさを放つ。一方で、加工が難しいことでも知られるアベンチュリンを見事に時計へと昇華させたのは、熟練職人の手仕事と伝統技術の継承、そしてムーブメントから自社一貫で製造を完結させるマニュファクチュールとしての矜持があってこそだ。
またこのモデルは、単なる技術の誇示ではない。時計製造が確立する以前、夜空の観測が時間計測の礎となっていたように、グラスヒュッテはその起点へと立ち返る。精度を築き上げた先人たちへの敬意、そして時計づくりにおいて永遠のインスピレーション源であり続ける“星”への畏敬を、アベンチュリンの輝きに託したのである。
さらに、「パノマティックルナ」として初めて自社製自動巻きムーブメント「Cal.92」を搭載した点も見逃せない。最新世代であるこの機械式ムーブメントは、温度変化や磁場の影響を受けにくいシリコン製ヒゲゼンマイを採用し、毎時28,800振動という高精度を実現。加えて100時間のロングパワーリザーブを備えることで、日常使用にも優れた実用性を発揮している。アニバーサリーモデルとしてのコレクションにとどまらない、実際に手に取って使う喜びをも両立させた逸品といえるだろう。
グラスヒュッテ・オリジナルは、180年という長い歴史の中で、革新と伝統を絶えず融合させてきた。本作「パノマティックルナ アニバーサリー・エディション」は、まさにその集大成であり、過去への敬意と未来への希望を、星の輝きを思わせるアベンチュリンに託したタイムピースである。
時計製造が確立する以前、人々が夜空に瞬く無数の星へ想いを馳せていたように、いま腕でその思いに触れてみてはいかがだろう。