【新型試乗記】AMGの“漢気”をロータスの感性で包んでみた。星を継ぐ者「エミーラ・ターボSE」とは 東京車日記第232回

  • 写真&文:青木雄介
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ボンネット内のダクトで前輪上の乱流を整え、アンダーボディ全体でダウンフォースを発生させる空力パッケージ。

ロータスの2L直列4気筒エンジン搭載モデル、「エミーラ・ターボSE」に乗った。エンジンはメルセデスAMGのM139。かつて“4気筒として世界最高のパワーを引き出すエンジン”という勇名を轟かせた名機だ。

“漢気”と呼びたくなる、狂気の直4ターボ

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8速デュアルクラッチ(DCT)を採用、ミドシップ後輪駆動レイアウトで、0-100 km/h加速約4.0秒をマークする。

最高出力をたたき出すために最大効率を目指したその構造は、着想自体を狂気、もとい漢気と呼びたいのね(笑)。特にラリーやホットハッチ好きなら一度は味わっておきたい、夢の400馬力超え4気筒ターボである。

そんなM139が、エミーラの後輪駆動ミドシップに積まれたらどうなるか? それは先行して導入されていたV6モデルに乗ると、間違いないのは明らかだった。さらに「SE」と名付けられた特別モデルは、かつて“世界最強のロータス”をうたった「エスプリ・ターボSE」の精神的後継、いわば“星を継ぐ者”ですよ。

そんな気合いを拳にこめて(笑)、ロータスはM139の吸排気の取りまわしを全面的に変更し、ECUも独自の味付けを施した。同じエンジンを積む「メルセデスAMG GT43」よりパワーは控えめだけど、360kgも軽い。この設計思想の違いが乗り味の違いを生むのね。AMGが精度で速さをつくるとするなら、ロータスは軽さと感性で速さを創るといえるはず。

感性が導く、ロータス流ハンドリングの極致

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機能と素材美を融合した最新ロータス流のコクピット。ドライバー中心に配置されたメーターと控えめな艶消しトリムが、軽量化と操作性を両立している。

乗ってみれば、嗚呼、想像通りのハンドリングマシーン。どこでもフラットで、わずかに食い気味のオーバーステア。ステアリングを切るたびに、フロントが地面を噛み、リアがしなやかに追従する。短いギア比から繰り出すトルクは鋭いパンチのようで、8速DCTが完璧なコンダクターとしてそのすべてを制御する。

ステアリングの初期応答、ペダルの節度、フレームを伝っていく振動の一つひとつが、エンジニアの手の内にある意識的な現象だと分かる。カーブで踏み込むアクセルがフレームにしなやかな力を与え、車体をギュンギュンとしならせながら、コーナー出口へ押し出していく。ロータスによるECUセッティングの勘所であり、動的バランスのなかで車体全体が楽器みたいに鳴っているようにも感じられるんだ。

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M139をミドシップ用に搭載。吸気を前方、排気とタービンを後方に置く専用レイアウトで、熱効率とレスポンスを最適化した。

ライトウェイトに乗ると、どうしても原理主義的に「さらに軽く」を求めたくなるもの。エリーゼやエキシージのオーナーからすると「軽さが足りない」と感じるだろうけど、車重1450kgという数字は、この味わいからすると絶妙な重さ。

価格に応じた高級感と快適性を確保しつつ、ロータスらしいピュアな挙動を維持するギリギリのラインでね。軽さを絶対と崇めた時代のロータスとは違う。フレームとエンジン出力にほどよい重さを載せて、現代スポーツカーの在り方を提示する。それがこのターボSEの本質なのだと思う。

軽さと快適性を両立した、現代ロータスの最適解

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サテンシルバー仕上げのアルミ製バッジは、往年の「エスプリ・ターボSE」をオマージュしている。

さらにSE専用の「トラックモード」に切り替え、横滑り防止機能は解除されても挙動はほとんど変わらない。つまり、車体はニュートラルで、電子制御を入れなくても素性のよさでピュアスポーツ性を際立たせることが出来る。剛性としなやかさを自然に備えてるという意味で、マクラーレンにも通じているんだな。

エンジンは低音で荒々しいビートを刻みつつ、その名の通りタービン音がキュンキュンと鳴く。常用域でも快楽値が高く、同じエミーラのV6モデル(3ペダル)と比べると、圧倒的に乗りやすく、速さも引き出しやすい。

余談になるけど、ターボとV6モデルは全然キャラが違うのね。V6モデルは往年のロータスみたいにハンドルが重くて、シフトもカッチリしていてドライバーの技量を試すようなキャラクター。“メカを操る喜び”そのものだけど、ターボSEは“動力とシンクロする悦び”で勝負している。 

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前後重量配分は44:56を実現。トランスアクスル化と部品の集中配置により、旋回中の慣性モーメントを大幅に低減している。

さらに余談だけど(笑)、英国のファンサイトでは「V6の3ペダルを選ぶ」という声が多い。それで言うなら個人的にはV6の3ペダルは“終のクルマ”に、そしてターボSEを“いまこそ乗りたいクルマ”に選びたいと思った。

グレードはともかくキャラクター的にライバルといえるポルシェ「718ケイマン」やアルピーヌ「A110」とも、棲み分けができている。「718ケイマン」が精密機械だとするなら、「A110」は現代ライトウェイトの王道ですよ。その点からいくと、「エミーラ・ターボSE」は実用的でコンパクトなスーパースポーツというポジションを狙っていて、それ自体がロータスの夢なんだとわかる。内燃機関の最後の輝きをミドシップに宿し、過去から未来へのブリッジになる。このクルマはその矜持を鮮やかに描き出していると思う。

ロータス・エミーラ ターボSE

全長×全幅×全高:4,412×1,895×1,225mm
エンジン:直列4気筒ターボ
排気量:1,991㏄
最高出力:406ps/6,500 rpm
最大トルク:480Nm/4,500-5,500 rpm
駆動方式:MR(ミドシップ後輪駆動)
車両価格:¥18,231,400
問い合わせ先/ロータス
www.lotuscars.com