【空を歩く公園】ソウルの新名所、“浮かぶ島”ノドゥルが話題。1.2kmの空中散歩で絶景を堪能

  • 文:青葉やまと
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SEOUL ソウル/韓国

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photo:Devisual

ソウルの漢江(ハンガン)に浮かぶノドゥル島が、魅力ある公園に生まれ変わる。これまで見向きもされなかった中州が、ニューヨークの「リトルアイランド」を手がけたヘザウィック・スタジオの設計で変貌する。

探検心をくすぐられる空中散歩

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photo:NOD

ソウル市街を東西に貫く、漢江。全長は500km近くに及び、流域面積では約3万6000k㎡で韓国最大を誇る。

その中州のひとつ、ノドゥル島が、新たに観光スポットとして生まれ変わる。イギリスの建築事務所ヘザウィック・スタジオが手がける「サウンドスケープ」だ。

施設最大の見どころは、島をぐるりと囲むように上空に張り巡らされる全長1.25kmの空中散歩道だ。草木に覆われた安らぎの散歩道を進むと、いつしか複数の建築棟の屋上に設けられた空中庭園を次から次へと巡り歩く形に。島全体を隅々まで探索できる趣向だ。

散歩道は単なる一本道ではなく、ゆるやかに高さを変えながら、島に設けられた建築物間のいくつもの層を結ぶ。限られた小島でありながら、果たしてどこへ誘われるか、先行きの分からない期待感を演出する。

折り重なる山並みがヒントに

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photo:NOD

サウンドスケープは、まるで折り紙の作品をいくつも重ねたような、複雑でユニークな造形だ。

建築メディアのニュー・アトラスは、ソウル周辺の山々の地形から着想を得た設計だと紹介。複数の「小島」が浮遊するように空中に突き出しており、空中の遊歩道を進めば、ソウル市街や川岸を見渡す絶景に出会う。

建築メディアのパラメトリック・アーキテクチャーも、訪問者は高低差のある道を歩きながら、刻々と変化する視点で島や都市の風景を体験することになる、と期待を寄せる。

水面に緑豊かな小島を登場させ、複合施設としての機能を持たせる構造はさすがだ。ヘザウィック・スタジオは、ニューヨークに2021年5月に誕生した野外劇場付きの水上公園、リトル・アイランドを手がけている。

「忘れられた島」からの再生

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photo:Devisual

舞台となるノドゥル島は、かつて「忘れられた島」と呼ばれていた。漢江に浮かぶ人工島であり、数十年にわたりゴミ置き場として使われてきたのだ。島は柵に囲まれ、一般人の立ち入りは長い間禁じられてきた。

そこへソウル市は、この島を魅力ある場へと作り替えるコンペを実施。ヘザウィック・スタジオによる本案「サウンドスケープ」が見事勝利を収めた。自由に行き交うことのできる遊歩道で人と人とのつながりをもたらす優れた設計に加え、周囲の山々の景観を織り込んだデザインが評価された。

こうして、かつて廃棄物で荒れ果てていた漢江の中州は、緑豊かな憩いの場へと再生の道を歩むことに。建築メディアのアーキ・デイリーによると計画は順調に進んでおり、今年10月21日に起工式が行われた。

もっと多くの市民に響くアートを目指して

 

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photo:Devisual

空中散歩道の下には、多彩な文化施設が並ぶ。地上レベルには公共のビーチが整備され、植樹により快適な環境が生まれる予定だ。

さらに、ニュー・アトラスによると、録音スタジオ、アートセンター、コンサートホール、カラオケバーなど、多様な文化施設を収容。ほか、水辺には円形の劇場が建設され、K-POPの体験施設やカフェがオープンする。

音に関連する施設が多いが、実はサウンドスケープのデザインは周囲の山並みだけでなく、波打つように広がる音波の形状にも着想を得ている。

ヘザウィック・スタジオの創設者トーマス・ヘザウィックは起工式に寄せ、「人々が文化という言葉を使うとき、美術館やギャラリーを意味しがちですが、そうしたものは限られた市民の心にしか響きません」と説明。

「そうではなく、ノドゥル島はあらゆる市民が楽しめる、最も公共的な場の1つとなるのです。そこでは音が、あらゆる体験の中心になります。風景やインスタレーション、そしてプログラムを通じて」と、市民や観光客に開かれた施設であると強調している。

芸術関連の施設といえばこれまで、いかにも高尚な文化ホールなど、一般の人々にとって気軽に足を運びづらいケースもあった。ソウルに誕生するサウンドスケープは、訪れてわくわくするような多層状の公園にアート体験の場を設け、古い常識を覆そうとしている。

廃棄物の島だったノドゥル島は今後、3年をかけてゆっくりと変貌する予定だ。2028年の完成が待たれる。

青葉やまと

フリーライター。1982年生まれ。大手メーカー系企業でのシステムエンジニア職を経て、2010年から文筆業に転身。IT・アートから国際政治・経済まで、幅広くニュース記事の執筆を手がける。ウェブサイト『プレジデントオンライン』などに寄稿中。