初めてアメリカに渡った女子留学生、津田梅子の愛用品を彷彿とさせる金色の懐中時計

  • 文:小暮昌弘(LOST & FOUND)
  • 写真:宇田川 淳
  • スタイリング:井藤成一

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モデル名は「サボネット #T83455313」。懐中時計=ポケットウォッチは創業以来、同社が今日までつくり続けている名品中の名品。美しい装飾が施されたゴールドのケースにシンプルなローマンインデックスの文字盤がクラシック。ケースサイズは長さ48.5mm、厚さ10.4mm。重量62g。ケース素材はイエローゴールドPVDコーティング316L ステンレススチールケース。ムーブメントはスイス製クオーツ。¥57,200/ティソ

「大人の名品図鑑」紙幣の偉人編 #2

今年の7月30日から3種類の新紙幣が発行される。紙幣のデザインが変わるのは2004年以来、20年ぶりのことだ。一万円札に渋沢栄一、五千円札に津田梅子、千円札に北里柴三郎が描かれる。今回は、新紙幣に加え、これまで発行された紙幣の肖像になった偉人たちにまつわる名品を集めてみた。

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2004年(平成16年)、現在発行されている五千円札の肖像に起用された樋口一葉に代わって、今回の新札発行で新五千円札の“顔”となるのが津田梅子だ。津田は女子英学塾(現・津田塾大学)の創設者として多くの人に知られているが、彼女が日本で最初の米国女子留学生として岩倉遣外使節団と共に渡米したのは1871年(明治4年)。一緒に留学した5人の女性のうち、彼女は最年少、まだ6歳だったと記録されている。

彼女たちが留学した明治の初期といえば、女性は実家の仕事を手伝うこと以外で、外出で働くことなど想像すらできない時代だった。ならばなぜそんな時期に女性が留学することになったのだろうか? 『津田梅子』(大庭みな子著 朝日文庫)の巻末で評論家の鶴見俊輔は「彼女たちをアメリカに送って教育することは薩摩の有力者・北海道開拓使黒田清隆の個人的な思いつきであり、それをうけついでいかす政策を、十年後の明治政府はもっていなかった」と書く。

事実、11年間の留学を経て帰国した津田に受け入れ先はまったく用意されていなかった。もったいないことである。ようやく新設された華族女学校で英語教師の職を得るが、女性の地位向上のためには自分自身の学校をつくりたいと考え、再び渡米、ブリンマー・カレッジで生物学を専攻し、その後オズウィゴー師範学校にも学び、1892年(明治25年)に帰国する。そして華族女学校や女子高等師範学校(現・お茶の水女子大学)で教鞭をとった後、1900年(明治33年)に女子英学塾を創設、自らが塾長となる。37歳のことだ。以来、生涯を通じて女子の地位向上と、女子高等教育のために尽力した、まさしく偉人だ。

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資料館で津田梅子の愛用品を発見

そんな津田にまつわる名品はないかと検索してみると、東京・小平市の津田塾大学内にある「津田梅子資料室」に彼女の愛用品と思われる金色の懐中時計を発見した。実際にその資料室を訪れてみると、懐中時計は閉じられた状態で展示されていて、中を見ることはできなかったが、「梅子は、蓋の裏にU.Tと刻まれたこの懐中時計を英学塾の授業中常に首にかけていた。元学長粕谷よしは、『津田塾大学オーラル・ヒストリイ・シリーズ』で、いい加減な準備で英作文の授業に臨むと先生は時計の長い鎖をたぐって怒った、と思い出を語っている」と解説が添えられていた。

前述の大庭みな子が書いた『津田梅子』にも「先生は(日常たいてい)着物。袴をつけて、ここ(胸元)に時計をつけて、鎖をこうしてさわっているのがくせだった」と、女子英学塾第5回卒業生の岡村品子さんの話が載っている。実は帰国後、彼女は日本伝統の着物の良さに目覚める。『小説 津田梅子 ハドソン川の約束』(こだまひろこ著 新潮社)には、「梅子は、洋装の時のように、ウエストを締め付けるコルセットを着けずに着られる着物をとても気に入った」とある。着物の胸元に時計を忍ばせて教壇に登るのが津田のいつものスタイルだったのだろう。

そんな津田が使用した時計を彷彿とさせるのが、1853年にスイスで創業されたティソの懐中時計だ。現存する時計メーカーの中でも古参に当たる名門として知られるが、驚くことに現在でもクラシックな懐中時計をつくり続けている。今回紹介するのは「サボネット」というモデルで、ノスタルジー溢れるデザインの中に、同社の長い歴史と伝統に裏打ちされたクラフツマンシップが感じられる懐中時計=ポケットウォッチだ。風防を保護するための蓋が付いた「ハンターケース」が備わったモデル。この仕様は上流階級のスポーツであったハンティングの乗馬等で、衝撃で時計が壊れやすかったために上蓋を設けたことが由来と言われている。リューズをプッシュすると蓋が開き、時刻が確認できる仕組みだ。津田もそんな風に授業の合間に時刻を確認していたのだろうか。

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白文字盤にはブランドの名と、1853年の創業年もあしらわれている。

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裏蓋の造形も美しく、高いクラフツマンシップが感じられる。

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本体と同色のウォッチチェーンが付属されている。昔の紳士たちはスリーピースのインナーのベストにこのチェーンを掛けて、懐中時計を使っていた。

ティソ(スウォッチ グループ ジャパン) 

TEL:03-6254-5321
www.tissotwatches.com/ja-jp/

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