希少種のフクロウを追って、ロシアの辺境を旅する大冒険譚『極東のシマフクロウ 世界一大きなフクロウを探して』

  • 文:瀧 晴巳(フリーライター)

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【Penが選んだ、今月の読むべき1冊】
『極東のシマフクロウ 世界一大きなフクロウを探して』

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ジョナサン・C・スラート 著 大沢章子 訳 筑摩書房 ¥3,300

常日頃“冒険”という言葉を忘れてはいないだろうか。この本は冒険のかたまりだ。しかも、とびきりの大冒険である。

アメリカの大学院生がロシアの辺境で絶滅危惧種のシマフクロウの捕獲に挑む。なんでそんなことになったのか。「最初はのんきなバードウォッチャーだった」著者のジョナサンは振り返る。バードウォッチングは大学生の時に趣味で始めたことだった。都会育ちの彼は9歳の夏、父親のお供で初めて訪れて以来、ロシアの沿海地方の自然に魅了されていく。大学時代には地元の鳥類学者と友達になり、ロシア語も上達。初めてシマフクロウを目撃したのはこの時だ。

「わたしにとってシマフクロウは、言葉にできない美しい思考のような存在だった。シマフクロウは、本当はよく知らないのに、ずっと訪れたいと思っている遠いどこかを思うときのような不思議な憧れをわたしの心に呼び覚ました」

これはもう恋だ。そんな彼の目の前にシマフクロウは一瞬だけその姿を現すと不機嫌そうにホーと一声鳴いて、瞬く間に飛び去る。広げた羽根の長さは180㎝。本物の鳥にしてはあまりにも巨大。かつてアイヌの人々が「コタンクルカムイ(村の守り神)」「神の鳥」と呼んだただならぬ佇まいに一瞬にして魅了されたジョナサンは、2006~10年までの5年間にわたり、シマフクロウの生態研究を目的とした旅をすることになる。

相棒はロシア人のセルゲイ。ウォッカの瓶を開けたら空になるまで飲むのがマナーの国で、ソリに乗り、氷結した川の上をひた走る。希少種ゆえ滅多なことでは巡り合えない。生息地を理解するには「森を感じながら動くこと」。世界最大のフクロウが水先案内人となる、とびきりのフィールドワークの旅をご堪能あれ!

※この記事はPen 2024年5月号より再編集した記事です。