フェラーリが新しく世界市場に投入したV8エンジンのグランツーリスモに「ローマ」と名付けたのはなぜだろう。デザインのコンセプトになったという、1960年公開のフェデリコ・フェリーニの作品『甘い生活』を観ながら、ローマのローマたるゆえんに思いを巡らせた。映画を観てわかったことだけど、ローマという名前の重さは、ゆめゆめ軽く流してはいけないのだ(笑)。
デザインは、フラビオ・マンゾーニ率いるフェラーリ・スタイリングセンターによるもの。前後のホイールハウスにそった豊かな曲線、フロントエンドに取り付けられたグリルが艶めかしく、官能的な走行フィーリングを予感させる。なににも似ていない未経験なデザインに、エレガントなオーラが佇んでいるんだな。まさに『甘い生活』における女優アニタ・エクバーグのように、世界を虜にする自信に満ちあふれている。
ステアリングを握れば、美しい見た目とは裏腹なハードな走行性能に瞠目させられる。ほぼミドシップされたエンジンの重量配分、しなやかでキレのあるシャシー、リニアで扱いやすい3・8ℓのV8エンジンが、迫力のある低音のエグゾーストノートを奏でる。後輪駆動でなおかつオーバーステア気味のハンドリングにはスリリングな操作感があり、コーナーを攻めるとグランツーリスモであることを完全に忘れてしまう。
特に素晴らしいのはステアリングのインフォメーションだ。タイヤから伝わる路面状況はもちろん、爆発的な出力のエンジンの鼓動まで手のひらで感じることができる。無駄がなく、ストイック過ぎないこのフィーリングこそ、フェラーリの最新グランツーリスモであるローマの完成度を物語る。
そんなローマをひと言でいえば、「新世代」という言葉がふさわしい。その名前は、ローマ以前と以降のグランツーリスモを明確に分けるためにあるのね。フェリーニの『甘い生活』がオマージュされているのは、デザインを説明するための体のいい口実ではない。「映画のストーリーは関係ない」とフェラーリは言っているけど、ここに真意が見え隠れするんだ。『甘い生活』におけるローマのライフスタイルはタイトルほど甘くはないのだ(笑)。
主人公のマルチェロ・マストロヤンニが演じる新聞記者は、英国製スポーツカーであるトライアンフTR3を好んで乗っている。文学への情熱を胸に秘めたまま、刹那的で享楽的なローマの生活を謳歌しつつ、英国車に乗っている自分はローマに染まっていない、とも感じている。
主人公は大都市ローマのもつ不条理と魔性に、半ば屈するカタチでラストを迎えるのだけど、その姿を見守る少女の眼を通して、新しいローマの姿がロマンティックに希求されてもいるんだ。そのピュアな眼差しに、光と影のせめぎあいが見え隠れしている。
フェラーリがローマに託した「新しい甘い生活」とは、古都ローマで繰り返されてきた光と影の相克の歴史の上にありながらも、未体験の“甘い生活”へと誘う新世代へのメッセージに他ならない。そのハイコンテクストなコンセプトも一段、頭が抜けているんだな。
---fadeinPager---
フェラーリ·ローマ
Ferrari Roma
サイズ(全長×全幅×全高):656×1974×1301㎜
エンジン:V型8気筒ツインターボ
排気量:3855cc
最高出力:620PS/7500rpm
駆動方式:FR(フロントエンジン後輪駆動)
車両価格:¥26,760,000(税込)
www.ferrari.com/ja-JP