世界の奇妙な風景を収集した写真集、『奇界遺産』シリーズで知られる佐藤健寿の写真展「世界 MICROCOSM」が、銀座・ライカギャラリー東京、ライカ GINZA SIX、ライカギャラリー京都の3箇所で同時に開催されている。それぞれ「#places」「#people」「#landscapes」というテーマのもと、佐藤が20年にわたり世界各国で撮影してきた作品群の中から、厳選された42点の作品を展示。同名の写真集も12月15日に発売される予定だが、その内容は、一枚一枚の写真が強い存在感を示す『奇界遺産』シリーズとは異なり、旅の中で撮影した何気ない風景や日本の風景など多くの未発表写真を含んでいる。5月にシリーズ最新作となる『奇界遺産3』をリリースしたばかりで、ますますその作風が世間から注目を集めている今、あえて全く新しいアプローチに挑戦した理由を、佐藤本人の口から語ってもらった。
「約20年にわたって、世界中を旅しながら『奇界遺産』シリーズを撮影してきましたが、実際に世に出る写真は、旅の中のほんの一部分――目的地でのクライマックスを切り取った物に過ぎません。その他の大部分を占める旅路の途中でも常に写真を撮り続けていますが、これまではそういうランダムな写真をまとめて発表する機会がなかなかありませんでした。でもこの2年間は新型コロナの影響から、ほとんど旅ができずに家に閉じこもっていたこともあり、この機会にしっかりと腰を据えて、一度自分の旅を振り返り一つの形にしてみようと思ったのが、そもそものきっかけです」
佐藤の写真は、旅の中で生まれる。旅の醍醐味が目的地以外にもあるのと同じように、写真もまた、切り取りかた次第でまた新たな魅力を発露させる。
「目的地で撮る写真は、最終的に本にするとか、テレビで紹介するとか、常に具体的な目的がある写真だから、第三者を意識した分かり易い内容になります。一方で、旅の過程で撮った写真は、どこまでもパーソナルで、邪念がなく、だからこそ明確なメッセージなどもない抽象的な写真が多いです。でも、個人的に旅のことを後で振り返った時に思い出すのは、ふらっと通り過ぎた市場とか、バス停とか、目的地以外のなんでもない風景だったりするんですよね」
今はインスタグラムなどのSNSの影響もあり、写真は「誰かに見せるために撮る物」という意識が定着しつつある。その傾向がこのまま強まっていけば、ランダムに写真を撮ることの意味はなくなり、極端にいえば旅自体も、「誰かに見せる写真」を撮るための作業となってしまうだろう。
「自分自身も、少なからずそういう感覚に埋れていくような居心地の悪さがあり、それを一度取り払ってリセットしたくて、何か「奇界遺産」シリーズとは違う表現に挑戦したいと考えるようになりました。そもそも僕が写真を始めたころは、写真を撮ること自体が目的ではなくて、まず旅が目的で、その副産物として写真がありました。そのころの素直な気持ちに立ち返ることで、また「奇界遺産」シリーズの表現にも、一層深みが増していくのではないかと考えています」
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佐藤健寿写真展「世界 MICROCOSM」
■ ライカギャラリー東京 (ライカ銀座店2F)
世界 MICROCOSM #places
東京都中央区銀座6-4-1 Tel. 03-6215-7070
会期:〜2022年1月25日(火)
■ ライカギャラリー京都 (ライカ京都店2F)
世界 MICROCOSM #people
京都府京都市東山区祇園町南側570-120 Tel. 075-532-0320
会期:〜2022年2月3日(木)
■ ライカGINZA SIX
世界 MICROCOSM #landscapes
東京都中央区銀座6-10-1 GINZA SIX 5F Tel. 03-6263-9935
会期:〜2022年1月12日(水)
※好評につき当初の予定から会期延長