由布院が世界のゲストの目的地になる? オーべルジュの最新系「ENOWA」が登場

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    日本各地の心ある生産者を訪ね、東京・神田から、その素晴らしさを伝えていた「the Blind Donky」の原川シェフが、九州に拠点を移したのは2020年の12月だ。前は海、後ろは山、その真ん中で吹き出している長崎・雲仙の小浜温泉。そこで、種採り農家をしている岩崎政利さんの野菜が持つ生命力に惹かれて、原川シェフは移住を決心、「BEARD」を開いた。

    東京での長い修行を経た後、糸島と唐津の食材に心を奪われて、福岡と唐津を結ぶローカル線、筑肥線の近くに「四世同堂」を開いた中華の山本シェフも九州移住組だ。最近は「eatrip」を主宰する野村友理さんも宮崎県でワークショップを開催した。九州の豊かな食材と自然そのものが大きな注目を集める中、九州リゾートの頂点とも言える別府・由布院で画期的なオーベルジュの創生が進んでいる。

    ①小カブ ズッキーニリブ ズッキーニ花.JPEG
    間引きカブやズッキーニの茎など、一般に広く食さないものを使い、農家へのサポートとフードロスをなくすことを込められたひと皿。

    ⑧平飼い玉子 枝豆ささなば 旬雑草.JPEG
    旬の雑草のサラダも、ENOWAらしいメニュー。別府の鈴木養鶏場で平飼いされた鶏卵を使用。彼らが食べている雑草を5種集めて、大分産のバジルオイルで。

    2022年12月、大分県由布院に開業予定のオーベルジュ「ENOWA(エノワ)」は、ボタニカル・リトリートをコンセプトに、旅路の果てにこの上ない食体験を過ごせる場所を目指している。10室のヴィラと9室の客室を備えた施設内には、雄大な自然に抱かれた露天風呂やレストラン、インフィニティ温泉プールを建設し、身も心も癒される非日常空間を提供する。

    ②自家製シャルキトリー.JPEG
    サラミ、コッパハムは、すべて平飼いの沖田黒豚を使った自家製シャルキトリー。ズッキーニの花の茎のピクルスを添えて。

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    ENOWAでは、地元の人を積極的に雇用して、地域の活性化に貢献していく。これからのラグジュアリーに欠かせないものは、地域共生に他ならない。
    ボタニカル・リトリートとは、四季折々の中で植物に包まれる隠れ家。人は、そこで本来の自分を取り戻し、未来に還って行く場所を見つける。近年、注目されているFarm to Tableの一歩先に進むために、ENOWAでは地元の農の匠・石割照久氏の指導の元、既に野菜やハーブ、果物の栽培を始めている。しかも、その食材に生命を与えるシェフも、既に昨年、ニューヨークから来日しメニューの試作を繰り返している。その一端に触れるための試食会で、ENOWAの料理の片鱗が披露された。
    Tashi Gyamtso.JPG
    中国四川省・チベット自治区出身。生まれた頃から当たり前のように自給自足をする環境で育った。

    エグゼクティブシェフのTashi Gyamtso(タシ・ジャムツォ)は、ニューヨーク郊外の敷地内に広大な農園と牧場を持つ星付きレストラン「ブルーヒル・アット・ストーンバーンズ」出身。店での朝はいつも、畑での野菜とフルーツの収穫から始まったという。当然、ENOWAでもできるだけ多くの素材をレストランの敷地内で、スタッフたちと共に可能な限りの自然状態で育み、できるだけ早く客席のテーブルに載せる。

    2020年春に日本に移住して以来、野菜や果物の生産者や漁港、完全放牧で豚を育てる牧場などを回り、素晴らしい食材との出会いを重ねた。加えて、Tashiシェフが力を注いだものが完全無農薬の有機栽培米を無添加で醸造する酒蔵、「寺田本家」での研修だ。そこでは酒造りだけでなく、発酵の素晴らしさについて学んだ。チベットの山岳地帯で生まれ、搾りたてのミルクで作ったバターと、チベットのオーガニック野菜で磨かれた食の美意識と世界観が由布院の地でさらに大きく開花するはずだ。

    ③パンコントマテ ビーツ.JPEG
    ENOWAの農園で夏にたくさん収穫したトマトを秋〜冬においしく食べるためセミドライトマトに加工。ビーツをソミュール液に漬け乾燥させたビーツグミが楽しい。

    ④マコモカルパッチョ アルプス乙女.JPEG
    マコモダケをスライスしてカルパッチョにするという、Tashiシェフならではの才気あふれるひと皿。トマトのエキスでマリネし、別府産のアルプス乙女を添えて。

    例えば、由布院の畑で獲れた4種類のジャガイモと出会った時、Tashiシェフの類い稀なる感性が爆発する。ジャガイモサラダには和牛のラルド(脂)と鴨の首肉を混ぜ込み、全体にじゃがいものピクルスを乾燥させたものをゼストする。コンフィにはサワークリーム、鴨皮と脂をカリカリにしたチップスを添える。肉と皮の間の脂までを使い切り、可能な限り食材ロスをなくす素材の命を活かし切った調理の真骨頂だ。

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    由布院の畑で獲れた4種類のジャガイモを、それぞれサラダ、ジュリエンヌヌードル、コンフィ、チップスに加工した楽しさ溢れるひと皿。

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    Tashiシェフの目の前に置かれた野菜とハーブのブーケは、やがてENOWAを代表するひと皿にメタモルフォーゼする。

    試食会の夜、我々の目の前には旬の野菜とハーブのブーケが飾られていた。ENOWAを擁する由布院の自然を伝えるために活けられたものだと、多くの客たちは理解していたはずだ。しかし、いつの間にかブーケは片付けられ、炭火のオーブンで焼かれ始めた。それは、由布院の畑でその日いちばんの旬の野菜とハーブだけを選んで奏でられる、Tashiシェフならではの地球の恵みのシンフォニーだったのだ。

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    日本のスタッフたちに的確な指示を与えながら、毅然と俊速で料理を仕上げていくシェフの所作の美しさも試食会のメインステージ。

    ⑥野菜ブーケ ハーブ.JPEG
    由布院産のアスパラは、今年最後のもの。農家さんが初めて温室栽培で育てたものだと言う。農家の安定的な収穫を考えてハウスという試みも導入。

    やがて、目の前に届けられた皿には、ビーツのヨーグルトソースで作られたピンクのソースに彩られた野菜たちが登場する。そこには、近年のサステイナブルの1つのエッセンスとも言えるホエイを使ったヨーグルトソースも加えられている。ローストした野菜のソースと塩漬けのうずらの卵をアクセントに、マコモダケやニンジン、カブ、九条ネギ、レモングラス、遠くにはルッコラの香りもある。

    ⑦自家製プッラータ ポーポー.JPEG
    酪農家・浦田健治郎さんの牛乳を使いTashiシェフが作った自家製プッラータと、大分産の幻の果実、ポーポー。鬼灯も、ENOWA農園で収穫されたもの。

    ⑩熟成合鴨 ブルーベリー 生クルミ.JPEG
    大分県・九重の田んぼで育った合鴨を使用。胸肉は20日間熟成され、ジュと内臓を使ったソースで。生くるみ、ブルーベリーも大分産の地産地消。

    ⑨栗 伊勢海老 マリーゴールド.JPEG
    栗と栗のピューレが入ったアニョロッティ。伊勢海老ソースのビスクとマリーゴールドの泡で、栗と伊勢海老の風味が融合する。

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    ⑪秋レタス パンプキンシード 自家製チョリソー.JPEG
    サニーレタス、ハンサムグリーン、小白菜、ベビーポクチョイ、青梅甘露煮、ルッコラ、ベコニア。野菜だけで作られる鮮烈なメイン。

    フォアグラやキャビアは高級食材と呼ばれるのに、どうして大地の恵みの野菜たちは高級食材になり得ないのだろう。コースのメインとしてラストに登場したのは、「秋レタス パンプキンシード 自家製チョリソー」と記されたひと皿。サニーレタスやハンサムグリーン、小白菜などを生ハムの油でソテーし、生の小白菜、ルッコラ、ハーブと合わせていく。レタスのローストと生野菜を一緒に食べることで、口中に野菜そのものの爽やかな苦味を含んだ滋味が広がっていく。まさに、TashiシェフならではのENOWAのメインを体現したひと皿だ。ゼストされた沖田黒豚の自家製チョリソーも、野菜たちの競演に見事な句読点を打っている。

    デザート 寺田本家酒粕スフレ.JPEG
    寺田本家ならではの骨太で饒舌な酒粕の風味に圧倒されるスフレが、新しいオーベルジュ誕生を祝う夜の終焉として登場。

    デザートは、Tashiシェフに深い感銘を与えた寺田本家の力強い酒粕を使ったスフレ。ENOWAの語源でもある「円の輪」に因んで、ご縁でコースを締めるという意味合いが込められている。

    フードロスやトレーサビリティー、サスティナビリティー、そしてダイバーシティーなど、大自然の恵みと循環に深い敬意を込めた新たなオーベルジュの誕生で、日本を代表するリゾート地である由布院は、世界のゲストたちの旅の目的地になるはずだ。

    MAIN KV.jpg

    『ENOWA(エノワ)』

    大分県由布市湯布院町川上 丸尾 544


    https://enowa-yufuin.jp/

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      森 一起

      文筆家

      コピーライティングから、ネーミング、作詞まで文章全般に関わる。バブルの大冊ブルータススタイルブック、流行通信などで執筆。並行して自身の音楽活動も行い、ワーナーパイオニアからデビュー。『料理通信』創刊時から続く長寿連載では東京の目利き、食サイトdressingでは食の賢人として連載執筆中。蒼井優の主演映画「ニライカナイからの手紙」主題歌「太陽(てぃだ)ぬ花」(曲/織田哲郎)を手がける。

      森 一起

      文筆家

      コピーライティングから、ネーミング、作詞まで文章全般に関わる。バブルの大冊ブルータススタイルブック、流行通信などで執筆。並行して自身の音楽活動も行い、ワーナーパイオニアからデビュー。『料理通信』創刊時から続く長寿連載では東京の目利き、食サイトdressingでは食の賢人として連載執筆中。蒼井優の主演映画「ニライカナイからの手紙」主題歌「太陽(てぃだ)ぬ花」(曲/織田哲郎)を手がける。

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