小山薫堂さんと新型レンジローバーで訪ねる、長崎・島原と雲仙の食の伝統と豊かさ

  • 写真:平川雄一朗
  • 文:葉山 巧

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新型レンジローバーでの旅を考えたとき、そのヒントになったのは、20世紀のモダニズム建築を牽引したドイツの名建築家、ミース・ファン・デル・ローエの遺した言葉だった。彼の言葉に導かれるように、放送作家の小山薫堂さんとともに新型レンジローバーで長崎への旅に出かけた。

ミース・ファン・デル・ローエの言葉
─「昨日ではなく、明日でもない。できるのは今日だけなのだ」 

20代後半に購入したレンジローバー・クラシックをいまも所有している放送作家の小山薫堂さん。最新レンジローバーで、長崎県、島原半島の2軒を訪ねた。

1軒目の「pesceco(ペシコ)」は、島原半島東岸の波打ち際に佇むレストラン。「都会と隔絶した場所にこんな素敵な店があるなんて、すごく面白いなと思ったのがきっかけです」と3年前の出合いを薫堂さんが振り返る。

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店内はテーブルとカウンターの2種類。テーブル席からの眺めは、写真のように有明海を手前に熊本の山並みが一望できる。ゆったり3~4時間かけて、コース料理と滞在を楽しみたい。

ここの主役は「里浜ガストロノミー」と呼ばれる海鮮をちりばめたコース料理。アミューズの「エタリ」はカタクチイワシを塩辛にしたアンチョビ状のもので、島原の先人たちから受け継ぐ伝統の発酵保存食だ。

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カタクチイワシを発酵させた「エタリ」。アンチョビにも似た郷土料理で地元でも製法を知る人は少なくなった。店を象徴するスペシャリテ。

これを皮切りに、ウニや岩ガキ、ズッキーニの花とあわせたクルマエビなど、自在な技法で魚介と野菜から滋味を引き出す“海辺のご馳走”が続く。魚も野菜もすべて地元産で揃え、昔ながらの調理を参考に、誰もが食べられるようていねいにアップデートされているのも印象的だ。食べ進むにつれ、このコースが故郷の魚食文化の記憶をたどる旅であり、なによりも島原の人々の誇りそのもののように思えた。

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左:「ガザミ」と呼ばれるワタリガニは島原そうめんとともに。凛々しい麺の食感と、カニの殻で取った絶品の出汁が陶酔ものの旨さを生む。 右:マダコを吸盤・皮・身に分け、別々に調理した後に再構成。魚醤と胡麻油の風味が効果的。

オーナーシェフ、井上稔浩さんは「“自分らしさ”とはなにかと考えた時、それは技術でも経験でもないと気づきました。それより地元・島原にあるものを熟知し、継承・発展させることが僕の最大の個性になると思ったんです」と話す。自身のルーツを極め、磨きあげた努力は、やがてミシュランの星に結実した。

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井上稔浩(中)●1986年、長崎県生まれ。高校卒業後に全国を旅した後、鮮魚店(現在はペシコに隣接)を営む父親と居酒屋を経営するため帰郷。2014年に「ペシコ」を開業。18年に現在の場所に移転し、独自のスタイルを確立する。19年、料理人コンペ「RED U-35」にてGOLD EGG受賞。

奥様の井上景子さん(右)とともに店を切り盛り。「食欲だけでなく、心の底から幸せになれる店」を目指す。薫堂さんも「井上さんの仕事にはまわりの人を動かし、同じ志の仲間を集める力がある。地元のスターシェフとして期待しています」とエールを送った。

井上さんの仕事は生産者と消費者をつなぐかけ橋となり、子どもたちには「胸を張れるものが島原にはあるんだ」という発見の場を与えるだろう。もしかしたら、衰退する地元の漁業や農業を活性化させる糸口が見つかるかもしれない。そんな郷土愛が、36歳のシェフを今日も突き動かす。

「こうやって10年、20年と店を続けるなかで、地元の生産者や住民の方と影響しあい、次につながる“なにか”を生み出せるレストランでありたいですね」と井上さん。「そんな意味でも、僕は新しいことというより“未来につながる仕事”をしているのかもしれません」

もてなす客は1日6名、しかも昼のコースのみと間口は狭い。けれども井上さんの料理は、島原の伝統に根ざした魚食文化の素晴らしさを世界へ向けて高らかに歌いあげていた。

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住所:長崎県島原市新馬場町223-1
TEL:0957-73-9014
営業時間:12時~16時(昼のコースのみ)
完全予約制 6席
旬の鮮魚料理を中心に10品前後で構成されたコース料理「里浜ガストロノミー」¥19,800~
休日:日、月
https://pesceco.com

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「島原半島の西側に、もうひとつ紹介したい店があります」と薫堂さんが言う。雲仙市のオーガニック野菜専門直売所「タネト」である。店内の野菜を見た瞬間、ハッとした。あるものは驚くほど巨大で、あるものは溌剌と艶めく力強いものばかりなのだ。

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旨味の濃い伝統野菜が並ぶ「タネト」。有機野菜の販売スペースには子どもたちが描いた絵画や、タネを採取したあとの枯れた野菜も陳列され、アートを感じさせる空間に。町で唯一の本屋である、古本屋「千々石書店」も併設。
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左:選りすぐりの地元食材が素材の「タネトの丼定食」。 右:「地元のお客様に“こんな野菜があったのね“と再発見してもらえる瞬間がうれしい」と奥津さん。販売にはセロファンやプラスチックをできるだけ使わない「プラフリー」を採用。水を張ったボールの中に野菜を入れるなど、販売方法にも気を遣っている。

「ここの野菜の多くは、在来種のタネで栽培したものです」と店主の奥津爾さんが説明する。かつて日本の農家では、収穫後の野菜から優れた株をいくつか残し、次に蒔くためのタネを自家採取していた。だが現在、国内のタネの9割以上が外国産だという。

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左:江戸時代に渡来した人参をルーツにもつ黒田五寸人参。タネが採取できるようになった状態。自家採取は忍耐とセンスを要する作業で、40年以上も在来種を守る岩崎さんの技術はまさに神業だ。 右:自家採取したさまざまな野菜のタネ。その1粒1粒に、雲仙の大地の歴史や風土が遺伝子情報として残されている。「自分では限界だ」と感じた県外の農家が、岩崎さんにタネを託すことも多いという。

「真の意味での地産地消は、もう日本には存在していないんです」

以前は東京の吉祥寺をベースにオーガニックをテーマにしたイベントを主催していた奥津さん。だが、とある農家との出会いで人生は一変する。その人こそ、雲仙で自家採取に取り組み、たったひとりで80種もの在来種を守り続ける岩崎政利さんだ。

「僕にとっては神様ですね」と奥津さん。岩崎さんの孤高の生き様に魅了されて雲仙に移住し、岩崎さんや近隣農家の有機野菜を扱う「タネト」を開いた。「在来種を守ること」をテーマにした稀有な直売所。同じような店が地域に根付き、全国に増えることを目指す。

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奥津 爾(右)●1975年、東京都練馬区生まれ。農業家、岩崎政利さんの野菜に惚れ込み、2拠点生活を開始。やがて雲仙移住を果たし、2019年、野菜直売所「タネト」をオープン。他に料理教室や、全国120軒とのオンラインコラボイベントなども主催。 小山薫堂(左)●1964年、熊本県天草市生まれ。大学在学中から放送作家として活躍。脚本家、ラジオパーソナリティ、企業ブランディングなどマルチな分野で活躍中。京都芸術大学副学長も務める。2025年大阪・関西万博のプロデューサーを務める。

「生計を立てながら在来種を守るってすごく難しいことなんです。だから岩崎さんは、僕のなかではまれに見る農業の巨人です(笑)」。農業について語りだすと、途端に表情が輝く奥津さん。

「地方の発展には、物事のリテラシーを上げてくれる奥津さんのような人材が必要なんです」と薫堂さんもその活動に共感する。

「効率重視の近代農業も否定はしません。でも僕は、岩崎さんたちと昔から続く畑の風景を守ります。何世紀も循環する命のサイクルの中にいるのは、とても心地がよいことですからね」

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雲仙移住10年目の奥津さんと薫堂さん。イベントを通じて在来種を守る同志も着実に増えており「いますごくよいグルーヴを感じています」と語る。

ミース・ファン・デル・ローエは「昨日ではなく、明日でもない。できるのは今日だけなのだ」と言葉を残した。それを実践するように、島原半島の2人は信念をもって前進を続けている。環境問題により激変する自動車業界のなかで、「モダンラグジュアリー」を模索する新型レンジローバーに彼らの姿がシンクロした。

タネト

住所:長崎県雲仙市千々石町丙2138-1
TEL:0957-37-2238
営業時間:10時~16時
休日:水
www.organic-base.com

Range Rover Autobiography P530 LWB(レンジローバー・オートバイオグラフィー P530 LWB)

●サイズ(全長×全幅×全高):5265×2005×1870㎜
●排気量:4394㏄
●エンジン:V型8気筒DOHCツインターボ
●最高出力:530PS/5500-6000rpm
●最大トルク:750Nm/1850-4600rpm
●駆動方式:4WD(フロントエンジン4輪駆動)
●車両価格:¥22,610,000~
●ランドローバーコール TEL:0120-18-5568
www.landrover.co.jp

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※この記事はPen 2022年9月号「レンジローバーで走れ!」特集より再編集した記事です。
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