マクラーレンGTにデザインカーが誕生。アートに込めた無限の可能性とは

  • 写真:高木康行
  • 編集:青山鼓
  • 文:穂上愛

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イギリス発のラグジュアリーなスポーツカーメーカーとして知られる、マクラーレン・オートモーティブ。F1で知られるマクラーレンをルーツとする同社のクルマは、アルティメイト、スーパーカー、GT(グランドツアラー)の大きく3つのカテゴリーに分類される。

2019年に発表された、マクラーレン・オートモーティブ初のGTカーである「マクラーレンGT」は、レースコンストラクターならではの圧倒的な動力性能を備えつつも、快適性や利便性も徹底的に追求し日常使いも難なくこなす、特別なスーパーカーだ。

昨年、マクラーレン・オートモーティブでは「モダンラグジュアリー」をテーマに、アーティストと積極的にコラボレーションを行った。マレーシアではペインターのKarwai Chan(カーウァイ・チャン)と、ドバイでは抽象画家のNat Bowen (ナット・ボーウェン)とアートコラボレーションを行い、日本では11月に、グラフィックアーティストのYOSHIROTTEN(ヨシロットン)とともにアートカーを制作し、公開している。

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YOSHIROTTENデザインのMcLaren GTアートカー。特徴的なディヘドラルドアにも、YOSHIROTTENが施したグラフィックが映える。

YOSHIROTTENは、音楽、ファッション、アート、ストリートカルチャーなどのリアルなシーンで縦横無尽に活動するアーティストだ。これまでにグラフィック、映像、インスタレーションなど、さまざまな表現方法で作品を世に送り出している。

近年ではエルメスとのコラボレーションのほか、写真家・森山大道の「新宿」シリーズのリワークや、香港のギャラリーで個展を開催するなど、国内外問わず、メインストリームでの活躍も顕著だ。そんな活動と並行して、学生時代から続けてきたDJを始めとする音楽活動は、東京を中心としたアンダーグラウンドなシーンで変わらず続けている。メインストリームであってもアンダーグラウンドであっても、垣根なく活動することで生まれるYOSHIROTTENのリアルなクリエイティブは、常に人々の心を惹きつける、東京を代表するアーティストのひとりだ。

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YOSHIROTTEN/グラフィックアーティスト、アートディレクター●1983年生まれ。グラフィック、映像、立体、インスタレーション、音楽など、ジャンルを超えたさまざまな表現方法での作品制作を行う。また国内外問わず著名ミュージシャンのアートワーク制作、ファッションブランドへのグラフィック提供、広告ビジュアル制作、店舗空間デザインなど、アートディレクター、デザイナーとしても活動している。2015年にクリエイティブスタジオ「YAR」を設立。https://www.yoshirotten.com/

YOSHIROTTENは「マクラーレンGT」のアートコラボレーションというテーマに対して、アーティストとしてどのような思いで、どんなアプローチで取り組んだのか。

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アートカー誕生の経緯

90年代のネオクラシック車のオーナーであるYOSHIROTTENは、以前からデザイン的な視点でクルマを数多く見てきた経験を持つ。そんなYOSHIROTTENが「マクラーレンGT」を最初に見たときの印象は、「無駄がなく、彫刻のように美しいクルマ」だった。ある種、すでに完成されたデザインを前に「こんな美しいクルマに対して、自分にやれることがあるのか」と思ったほどだという。「後に知ることになるんですが、クラフトマンシップがあるからこそ、こういう美しい形を生み出せるんですよね。それは技術と機能があってこそ生まれるクルマならではのデザインだと思います」

アートカーのデザイン制作に入る前のコンセプトワークでは「あえて事前情報を入れず」、実際に試乗し、乗ったときの目線や機能的な作り込みであったり、素材感であったりを、体感することから始めた。

「六本木からお台場までの道を実際に走行すると、東京の街の光のなかを抜けていくような感覚になりました。街にはいろんな光があって、それらが体のなかに入ってくるような感覚から、デザインの着想を得ました」

アートカーには「マクラーレンGT」が本来から持つ美しさを、YOSHIROTTENの視点を通じて、さらに広げていく「引き算」のデザイン表現が施されている。もとはブルーだったボディの色を、ラッピングにより黒一色にすることで、「マクラーレンGT」が持つ、美しいボディのシルエットをより強調した。また、グラデーションのラインの位置は、「マクラーレンGT」のCGを使い何度もシミュレーションを行い、一番美しく見える配置を決めていった。

象徴的な流線型のボディに一直線に施された、グラデーションのラインについて、YOSHIROTTENは次のように語った。

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車体を一周するレッドとグリーンのラインが、グラデーションでボディに溶け込んでいく

「そのうつり変わる景色をグラデーションで表現しました。グラデーションは日本の伝統的な職人の技法として染め物などで古くから伝わってきたものです。そんな古くからある技法を使い、“未来の形”で表現することを、今回のデザインの中でやってみたかったんです」

複数のラインは車体のカーブのエッジに沿ってコントラストがつくようになっているが、照らされる光によって「東京の街を走り抜けて行くときのさまざまな光の色が混じり合いゆっくりと淡く変わっていく」グラデーションの状態が、デザインに落とし込まれている。

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グラデーションの中央を車体の造形のエッジに沿わせてコントラストをつけている。

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「東京の未来感」を伝える映像作品とインスタレーション

今回のコラボレーションは、アートカー単体のデザインだけではなく、映像作品と実車を展示したインスタレーションによって、YOSHIROTTENが思い描く「東京の未来感」を、より深く伝えるものとなっている。

映像作品は、「未来の東京のガレージ」をイメージした真っ白な空間に、点滅する巨大なモジュラーシンセと、アクリルのオブジェが置かれたフューチャリスティックな世界観が表現されている。モジュラーシンセから放たれる電気信号音とともに、上下する白色の光にアートカーが照らされる様子は、夜の街を映し出す光のようにも、朝の光のなかを走り抜ける光のようにも見える。

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後方から見たグラデーションのラインは、立体的な車両後方の造形とのバランスも考慮したという。

「今回“東京の光”というのがイメージのはじめにあったので、東京のこれからの未来、なにかがつくられていくであろう、これからの空気感を表現しました」

昨年の11月からスタートした実車の展示は、東京をはじめ、名古屋、大阪、京都、福岡と、約1カ月をかけて全国を巡回。映像作品とともにアートカーが展示されたインスタレーションは、各地で反響を呼んだ。

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ラグジュアリーに街を走らせる

「マクラーレンGT」は、美しいクルマというだけに留まらない。マクラーレン・オートモーティブだけのクラフトマンシップによる「超軽量エンジニアリング」に基づき、「GT」史上最軽量かつ最速の加速力を持っている。

なにかを足すのではなく、削ぎ落としていくことで性能を上げていく。それはYOSHIROTTENが今回のアートカーのデザイン表現で用いた、「引き算」のデザインにも通じる。

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スポーティな外観の印象とは裏腹に、インテリアは上質な素材をふんだんに使用したラグジュアリーなものになっている。

McLaren GT

全長×全幅×全高 4683×2045×1213mm
ホイールベース 2675mm
車重 1466kg(乾燥重量)/1530kg(DIN)
駆動方式 MR
エンジン 4リッターV8 DOHC 32バルブ ツインターボ
トランスミッション 7段AT
最高出力 620PS(456kW)/7500rpm
最大トルク 630N・m(64.2kgf・m)/5500-6500rpm
タイヤ(前)225/35ZR20 90Y/(後)295/30ZR21 102Y

価格 2,695万円(税込) 〜

※今回紹介したアートカーの販売予定はありません

マクラーレン・オートモーティブ
https://cars.mclaren.com/jp-ja