オニツカタイガー×JR西日本×兵庫テロワール旅、三者コラボのシューズを包む“播州織”のものづくり現場へ潜入!

  • 文:青山 鼓 写真:齋藤誠一

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先染めした糸を、緯糸と経糸で組み合わせ、美しい柄を表現できることが播州織の特徴だ。

日本発のファッションブランド「オニツカタイガー」と「JR西日本」、そして「ひょうご観光本部」によるトリプルコラボのシューズプロジェクトが話題となっている。いままさに進行しているこの企画は、日本のものづくりの現場との深い協業が特徴だ。第3弾となる今回の記事では、コラボシューズに付属するトートバッグに採用された「播州織」にフォーカスする。

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JR西日本とひょうご観光本部、そしてオニツカタイガー。この三者はいま「持続可能性」をテーマとするプロジェクトを進行させている。その名も「兵庫DC(デスティネーション キャンペーン)テロワール旅 シューズプロジェクト」。

JRが誇る3つのタイプの新幹線車両をモチーフとし、オニツカタイガーが採用する兵庫産のレザーでスニーカーを製作するという企画である。もともと兵庫の皮革産業や織物は、海や川の水、気候や土壌といった土地の個性がものづくりに反映され、そこに暮らす人々との深いつながりをもっている。今回のプロジェクトは、コラボレーションをきっかけにこうした兵庫の魅力を再発見し、多くの人々に伝えていこうというものである。

前回の記事ではオニツカタイガーの靴づくりと、革を納入する事業者のものづくりに迫った。今回はコラボシューズに付属するトートバッグに採用される播州織の織物にフォーカス。そもそも播州織とはどんなものか。そして、この播州織はどのようにしてつくられているのか。順に見ていくことにしよう。

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兵庫県西脇市にある播州織工業協同組合は、織物業者が織り上げた原反の加工や検査、全国への出荷までを担っている。

まず訪れたのは、播州織工業協同組合。その名が示すとおり、播州織の織布事業者の共同出資により設立された織物整理加工場だ。

この工場では、織布業者によって織られた原反を出荷する前に、さまざまな仕上げ加工を行っている。製品の品質検査、毛焼きや糊抜き、シルケット加工といった一般的な加工のほか、起毛処理やふわっとした風合いを残した乾燥、シワ感のある風合いへの仕上げなど、さまざまな加工ができる機械を備えている。

こうした加工は生地の納品先である布製品メーカーのオーダーに応じて行われ、加工後は厳正な品質検査を行った後に全国各地へと出荷されていくのだそう。

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仕上げ加工をほどこされた生地。布を実際に使用する業者のリクエストに応じ、いくつものラインでさまざまな加工が行われている。
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汗染み防止や撥水、吸水、または抗菌・防臭加工などの機能加工のほか、表面感を整える起毛加工など、さまざまな加工が可能だ。
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加工をほどこされた布地は、ひとつひとつ丁寧な検品作業を行われたのちに、出荷されていく。

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播州織の特徴である先染めを支える染色技術

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糸を芯まで染め上げた後、丁寧に洗いを繰り返すことで、しっかりと色を湛えながらも色落ちしにくい糸となる。

播州織の工程上の特徴は「先染め」であること。糸から布を織り上げる前に、糸の状態で着色し、色糸をつくる。この色糸からさまざまな模様に織り上げていくことで細やかな柄が表現できるというわけだ。特にカジュアルシャツに見られるギンガムチェックやストライプといった縞柄を得意とする。

続いて訪れた播磨染工は、兵庫県多可郡の多可町にある。色糸づくりに特化した工場だ。加古川水系の仕出原川のほとりにある工場では、染色に適した、この地ならではの良質な軟水を使用している。大小のシルバーのタンクはすべて染色のためのもの。大量の水を使うため、川のほとりという立地は重要だ。色見本はなんと10万色にも及ぶというが、「原理的には調合すればどんな色でもつくれるので無限といってもいいかもしれない」と担当者は説明する。

水質汚染防止、汚泥の再生肥料化、水質管理や環境保全といった観点からSDGs活動にも積極的に取り組んでおり、地域の活性化と同時に産業の持続的な維持にも貢献しようとしている。

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染め上がった糸。織物業者への配送を静かに待っている。この状態の糸を大量に積んで走るトラックをしばしば目にした。
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播磨染工が所有する色見本の数々。熟練の工員による調合により、どんな色にでも染め上げることができる。
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奥に向かって並ぶシルバーの筒が染めで使われるタンク。播磨染工では小ロットの染めから大量の糸染めまで対応できる。

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複雑な模様を、コツコツと織りあげる

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経糸と緯糸を組み合わせ、 染め上げられた糸を織り上げることで、糸が布になる。そして、どのように組み合わせるか、どれくらいの密度で色を配置するか、その繊細なバランスのなかから播州織を特徴づける美しい柄が浮かび上がる。

兵庫県多可郡多可町にある門脇織物株式会社では、10数台の織機を使い生地を織り上げている。ここで使用している機械はエア織機とレピア織機の2種類。空気で経糸を緯糸の間に送り込むエア織機は生産性に優れるが、生地の風合いは平滑になるという欠点がある。一方、レピア織機は昔ながらのシャトル織機と同様に、レピアと呼ばれる器具で緯糸を飛ばす。細い糸から硬い糸、様々な糸に対応でき、かつスピードを落とすことで良い風合いに織り上げることができるという特徴をもつ。

工場のなかは、ガンガンガンガンと機械の作動するミニマルなリズムが織り重なる。その音楽のなかで、美しい柄の生地が織り上げられていくさまは壮観だ。

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地域に根づく鞄産業の生き証人がつくるトートバッグ

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株式会社由利は1964年創業。金物店を営んでいた創業者の由利聡太郎が、地場産業である鞄製造業に業態変更し創業。
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明るく清潔感のある工場。地域で暮らす職人たちがひとつひとつ丁寧な手作業で、鞄をつくり続けている。

最後に訪れたのは、兵庫県豊岡市の株式会社由利。今回のコラボシューズのために特別に用意される、トートバッグを作成する工場である。1964年に創業した由利では豊岡の地場産業である鞄づくりのために創業。旅行用のバッグ及びビジネスバッグを中心に海外向け、国内向けに製品をつくり続けてきた。

トートバッグは播州織の伝統技法で織られた素材を用いており、各シューズの色をモチーフとしながら兵庫県北播磨地域で生産された自然な風合いの生地を採用する。国内外のブランドのOEMを多数手がけている由利の高い技術によって、プロダクトとして完成されている。

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トートバッグの製造工程。播州織らしい色調の変化が楽しめるタータンチェックの生地を採用。

兵庫で完結するものづくりの秘密

ここまで駆け足で、さまざまな業種の工場や工房を訪問してきた。興味深いのは、そのすべてが兵庫県内にあり、県内でものづくりが完結していることだ。なぜそんなことが可能だったのか。ひょうご観光本部の山根隆二朗次長に尋ねた。

「兵庫は歴史的に言葉も文化も違う5つの国からなっているという特徴があります。日本海と瀬戸内海に面し、さまざまな産業やもののルーツがあります。多様性という魅力があり、播州織といった産業もその多様性の一つです」と山根次長。

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ひょうご観光本部の山根隆二朗次長(元)。「兵庫の魅力は歴史的な成り立ちや地形をルーツとする多様性にある」と語る。

冒頭で説明した通り、ひょうご観光本部ではオニツカタイガーとJR西日本という企業とのトリプルネームとなるコラボレーション企画を進めている。この両者にコラボを持ちかけたのがひょうご観光本部だったと山根次長は明かす。

「多くの方に兵庫県の魅力を知ってもらい、観光していただくためには県からの発信だけでは不十分だと考えました。県内の企業の力を借りることで、もっと広く伝えることができないかと自分たちからお声がけをさせていただきました」

ファッションに興味のある層には、世界的に知られるファッションブランドに成長したオニツカタイガーを経由して、また移動や旅行に興味のある層にはJR西日本という巨大インフラ企業を介して、最終的に兵庫県を盛り上げるべくプロジェクトを遂行していきたいという。

風土の魅力=テロワールに触れる、旅の新境地

兵庫県には都市があり、海があり、山があり、さらにローカルな地場産業があり、豊かな食がある。播州織をはじめとするこの土地ならではの文化を支えてきた人の営みと、それを支えてきた自然環境、すなわちテロワールと呼ぶべき深みが兵庫県にはある。

「ローカルにフォーカスすることで、地域ごとの食や文化といったさまざまな特徴が浮かび上がります。それらを広く発信することで、なぜその文化が生まれたのかという興味をもっていただき、兵庫のルーツを感じてもらう。そして実際にそこに足を運んでいただきたいと思っています」と山根次長。

そんな旅を通じて、従来型の観光を中心とした旅では得られなかった、これまでの旅を超える感動があると山根次長は胸を張る。

播州織に関わる業者を巡っただけでも、道中には豊かな自然があり、また訪れたいと感じた。時間の関係で訪れることができなかった興味深いスポットもまだいくつもある。引き続き、兵庫の魅力的な文化を掘り下げていきたい。

●兵庫テロワール旅  www.hyogo-tourism.jp/terroir/