アナろぐフィールドワーク#16
世界のトップDJが愛用する、浦和発のレコードバッグKLIPTED。究極のレコードバッグを生んだ、音楽経験と地元のシーン

  • 文:MOODMAN

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MOODMANと申します。今回もお薦めのアナろぐアイテム「KLIPTED」のレコードバッグの製作者である、富田さんのインタビューをお届けいたします。

第3回目になる今回は、「KLIPTED」のバックグラウンドについてお聞きしました。富田さんご自身の音楽経験や、工房がある地元・浦和のシーンについて深掘りしています。さまざまな体験からプロダクトが生まれ、またそのプロダクトが体験を作っています。

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送られてくる音源でオーナーの顔が見える

富田浩太郎(以下、富田):注文をしてくれるお客さんはDJの方が多いので、ミックスを送ってくれるんですよ。自分からも言っているんですが。そのミックスを聞きながら仕事をするのが日常です。人によっては作った曲とか、リエディットしたデータをくれたりすることもあります。このいただいた音源が非常に大切なんです。

MOODMAN:顔が見えますよね。

富田:ウェブサイトの決済システムだけだと、だれだかわからないんですよね。取引の途中で住所を聞いたりとか、いろいろと連絡を取り合ったりしないといけない場合もあるんですけど。それだと人物が一致しないので「ミックス送ってください」って。
注文を受けたときにミックスを一緒に送っていただくと、注文してくれた人とインスタグラムのアカウントが一致するので、そうするとやり取りがしやすいんです。
発送するときも、とくに海外だと荷物が届かなかったりとか、どっかで止まっちゃったりとかよくあるんですけれど、そのときのケアも人が見えているとすぐ動けるんですよね。

MOODMAN:オーナーの芸風をしっかり確認するんですね(笑)。まさに工房といった感じです。DJのジャンルは、それぞれですか?

富田:ジャンルで言いますと、もともとは「ミニマルハウス」って言われているようなスタイルのDJが多いかもしれません。あとは、テクノ、エレクトロ、ブレイクスとか、UKガラージとか。いろいろ混ざってきてはいるんですけど。主流で言うともともとは<perlon>周辺を聴いていたような人たちが多いかもしれません。そこから派生していったような人たちが、多分、今も一番熱心に12インチを掘ってる人たちかなと思います。

MOODMAN:たしかに。そうかもしれないですね。

富田:そういうお客さんが多いので、自分もDJスタイル的には完全に影響されてしまいまして(笑)、毎日、聞いてるので。

MOODMAN:買ってくれたお客さんの顔が見えているっていいですね、しかも、ギアから繋がるっていうのが。

富田:そうですね。すごく思いがこもりますし、仕事的にも丁寧になってやる気も起きるので。

 

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注文をきっかけに交流が始まったロンドン在住のDJ、Tristan da cunha氏。自身で着用している写真や動画送ってくれるお客さんも沢山いるのだそうだ。KLIPTEDは、様々な国の人々からの心の通ったサポートにより支えられている。

 

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NHKの番組きっかけでターンテーブルを買う

MOODMAN:海外からのオーダーが主流と聞きましたが、何カ国ぐらいからオーダーが来ていますか?

富田:多分20カ国ぐらいかな、と思います。多いのは、ドイツ、フランス、イギリス…。やっぱり、有名なレコード屋さんがある街、<ラッシュアワー>とか、<ハードワックス>のようなレコード屋さんがある街が、やっぱり多いなという印象です。

MOODMAN:なるほど、リアルな実態ですね。ちなみに富田さんは、もともとどういう音楽を聞かれていたんですか?

富田:僕は世代的に<3ピンCamp>世代なんです。学校でヒップホップがめっちゃ流行っていた世代なんですよね。日本語ラップがまずありつつ、DJやるやつがクラスや学年に何人かいる、みたいな状態で高校生活を過ごしてました。

そんななか、ある日、NHKで緒川たまきさんが出ていた「ソリトン」っていう番組を観たんです。DJクラッシュさんが大江千里さんとセッションするみたいな。今、見直したらどうだったんだろうとも思うんですけど(笑)。それ見て、ガツンとやられてしまって。次の日から焼肉屋でバイトして、ターンテーブル買うべく頑張るみたいな(笑)。

MOODMAN:すごい。そこでもかなり、動きが早いですね(笑)

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富田:はい(笑)。ヒップホップにハマって。それから音響の専門学校に入るんですけど、音響の専門学校に入ったら、自分と同学年なんだけれど10歳年上の友達っていうのができまして。もう入学式からその人、ドレッドなんですよ(笑)。自分も多感な時期じゃないですか。そんな人いたら、まぁ声をかけますよね。「音楽好きなんですか」みたいな。自然とその人の家に入り浸るようになって音楽のイロハをいろいろと教わりました。そこから西麻布の<イエロー>に行くようになって。ほぼ週末にはいるんじゃないかっていうぐらい<イエロー>に通っていて。

当時、ガラージが全盛で<ボディ&ソウル>とかが始まったころでした。でも僕そこにはそんなにハマれてなくて。うちの奥さんはすごく夢中だったんですよ。奥さんも同じ学校なんですけれど。それからちょっと経って、奥さんと付き合うことになりまして。奥さんはレコードを買いたくて九州から東京に来たみたいな人なので、テクノとかガラージュとかのレコードをいっぱい持っていて。一緒に暮らし始めたら、奥さんと一緒にレコードが付いてきたみたいな(笑)。当時まだ僕は、コテコテのB-⁠BOYだったんですけど、MOODYMANNとか、PEPE BLADOCKとか、あの辺からこうじわりじわり。

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レコードバッグをガラガラ引いて行きたくない(笑)

MOODMAN:北千住の<OUTPUT>のイベントに呼んでいただいた時、すごいDJも良かったし、いい音楽を聴いて丁寧にかけているなと思ったんですが。あの日、出演していたひと、みんな良かったですね。

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富田:あの日はジャンルでは繋がらないけど感覚で繋がっていく、というタイムテーブルが組めたと思います。自分がそのとき考えるベストメンバーみたいな感じでした。MOODMANは<ゴッドファーザー>とか<タイコクラブ>とかに出演されているので、ハウスDJというイメージがすごくあったんですが、ダブが好き、ON-Uが好きと言うことは何かの記事で読んでたんです。で、<DOMMUNE>でリー・ペリー追悼の時ですかね。MOODMANのON-Uセットを聞いてやばいと思いまして「すいません、今回はDUBセットでお願いできますか」と(笑)。

MOODMAN:あの日以来、ダブセットをやってくださいというオーダーが結構来るようになりました(笑)。僕としてはルーツに帰った感じで楽しかったです。

富田:最後のMOODMANの謎の、和物メドレーがすごかったですね。

MOODMAN:終電に間に合うように終わらせようとして、謎の和物をかけましたね。

富田:大貫妙子さんの「都会」だけど、なんかバージョンが違うみたいな(笑)。スタートから聴いてたいら、まさかあそこに到達するとは思わないです。お客さんもガッチリついてきていましたし。

MOODMAN:喜んでいただけて光栄です(笑)。富田さんは普段はどこでDJをやることが多いんですか?

富田:普段は西麻布にある<TRAFFIC>っていうところで、友達と「DOLYME」っていうパーティをやっていまして、あとは北千住の<OUTPUT>、浅草の<PURE'S>。渋谷の<KOARA>とか。あと、先日は桐生でもやりました。

MOODMAN:西麻布の<TRAFFIC>とか、浦和からだとアクセスが大変そうですね。

富田:そうなんです。それこそ、レコードバッグをガラガラ引いて行きたくないんで(笑)。レコード・バックパックを背負って自転車で行って、という感じですね。

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実店舗での販売を南浦和のみにした理由

MOODMAN:この工房も含めて、浦和を中心に活動されていますが、地元にはどんなシーンがあるんでしょうか?

富田:近所に<Rimba>っていうセレクト系のアウトドアショップがあるんですけれど。そこの横浜さんという方が、レコードもDJも、とにかく音楽がすごい好きな人なんです。そのお店の周辺が北浦和のディスクユニオンに集う人たちで、元店員さんとかだったりして。
<Rimba>に行くとだいたいだれかいるんですよ。勝手にお店の前で刺身を食べて、日本酒飲んでたりするような感じなんです(笑)。お店の前が広場みたいになっていて、集まりやすいんですよね。自分の作ったものも、店主の横浜さんとかに見せたりしていて。長年ギアを掘ってきた人なので、見せるたびに、良い角度でコメントくれるっていうか。言われたら作り直して。

MOODMAN:身近に厳しい視点があるのはいいですね。

富田:もう、すごく助かってます。第三者視点があるので、最後の最後まで変にブレないで、ちゃんと完成までいけるっていう。

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MOODMAN:リアルの店舗でKLIPTEDのレコードバッグを置いているのは、<Rimba>だけですよね?

富田:そうですね。それは自分の中で少し狙いがあって。自分も数年前まで、南浦和って何もないところだなと思っていたんですけれど。このお店をきっかけにいろんな人と知り合うことができて。みなさん自分でお店をやっていたりする方も多いので、この街に来てくれたらいいなっていう思いもあって、お店に置かせてもらってます。
あとは余談ですが、駅から<Rimba>に歩いてくる途中に、<ボリカレー>というミールスが食べられるお店があるんですが、超おすすめです。南浦和に来ることがあったらぜひ立ち寄ってもらいたいお店ですね。

MOODMAN:もし現物のサイズ感や背負い心地を試したい場合は、散歩ついでにまずは浦和に行って、<Rimba>さんをチェックすればいいですね。ちなみに今、注文状況ってすごいことになってしまっていますか?

富田:本当だったら、たくさん予約をとって「待ち」にした方が、商売としてはいいと思うんですが、そうすると待たせ過ぎちゃう可能性もあるなと思いまして。ちゃんと売り切れるのかすごく不安でもあるんですが、数量限定にして、お客さんから注文を取ることにしています。つくれる数は毎回、この部屋に掛けられるだけの数です。その数をオーバーしたら、売り切れにして、お客さんに商品を送って…この繰り返しです(笑)。

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MOODMAN:バックパックの他に今、販売しているのは…。ミキサーのケースも売ってるんでしたっけ?

富田:ミキサーのケースはプロトタイプなので販売はしていません。バックパックのほかに商品化しているのは、バックパックのショルダーにつける「ガジェットケース」、あとはDJツアーの時などに身の回りの貴重品を入れておける「パスポートバッグ」になります。

MOODMAN:パスポートバッグは、薄型で服の下につけたりできるタイプですね。渡航するときに便利そうです。

富田:本当のことを言うとバックパックを作るのが大変すぎて、試作段階で止まっちゃってるものも多いんです。やりたいアイデアはほかにもいろいろあるんですけど。それもあって、今は奥さんと2人体制に変更しました。じゃないとこれ、もう無理だなっていう(笑)。

MOODMAN:日常のライフサイクルはどんな感じなんですか?

富田:日の出とともに起きて、朝ちょっと30分ぐらい散歩するんですけど、朝6時ぐらいから縫い出して、もう倒れるまで縫うという感じですね。ずっと夜までやって、この辺(※アトリエの床)に倒れる感じです。今日は片付いてますけど、じつはこの辺りにマットひいて寝てるんですよ。ぶっ倒れて起きたらまた、縫う。その連続ですね。土日もぶっ続けです(笑)

MOODMAN:僕は今日、富田さんから話を伺うまでバックパックを手縫いで作るっていう発想がなかったというか、改めて、鞄ってこうやって作られているのかという視点でお話を聞いていたんですが。いやほんとに工程も含めて、奥深い世界ですね(笑)。

富田:すごい地味ですね(笑)。めちゃめちゃ、地味だと思いますね。地味だし、細かいし、あと細かすぎて性格も悪くなってきますよね。閉じちゃいますね、かなり。独り言も増えるし。あとクラブとか久々に行って、人に会っても、何か言葉が出てこなかったり(笑)。

MOODMAN:毎日が、ロングセットですね(笑)。まぁ、お互い籠ってばかりもなんなので、身体が空いたときにまたぜひ一緒にDJしましょう(笑)。

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KLIPTED

公式サイト https://klipted.com/
Instagram https://www.instagram.com/klipted/
Twitter https://twitter.com/klipted
YouTube https://www.youtube.com/@klipted1168

アナろぐフィールドワーク

MOODMAN

DJ・クリエーティブディレクター

1970年、東京都生まれ。80年代末からDJとして活躍。90年代半ばより広告業にも従事する。記念すべき第一回目のDJをつとめたライブストリーミングスタジオDOMMUNEにて、レギュラー番組「おはようムードミューン」を不定期実験配信中。町工場の音楽レーベル「INDUSTRIAL JP」は6年目に突入し、ASMRに特化した新プロジェクトも始動。Penオリジナルドラマ「光石研の東京古着日和」では音楽監督を務める。レコード、ポストカード、ボードゲームなど、アナろぐものをひたすら集め、愛でている。


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1970年、東京都生まれ。80年代末からDJとして活躍。90年代半ばより広告業にも従事する。記念すべき第一回目のDJをつとめたライブストリーミングスタジオDOMMUNEにて、レギュラー番組「おはようムードミューン」を不定期実験配信中。町工場の音楽レーベル「INDUSTRIAL JP」は6年目に突入し、ASMRに特化した新プロジェクトも始動。Penオリジナルドラマ「光石研の東京古着日和」では音楽監督を務める。レコード、ポストカード、ボードゲームなど、アナろぐものをひたすら集め、愛でている。


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