もはやSFではない! “地球滅亡”を本気で危惧する、イーロン・マスクの挑戦

  • 文:和田達彦
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気になる未来の姿に迫った、Pen最新号『2033年のテクノロジー』。その中から、最新テクノロジーで時代を先駆けるイーロン・マスクの活躍から未来を予測した記事を、抜粋して紹介する。

Pen最新号は『2033年のテクノロジー』。AIの進化でどう変わる!? モビリティ、建築、アート、ファッション、食&農業、プロダクト、ゲーム、金融と8つのジャンルで2033年の、そしてさらなる未来のテクノロジーを占った。気になる未来の姿に迫る。

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SF的妄想で終わらせない、成果を出すための発想

現代において、最新テクノロジーを活用する天才といえば、事業家でありエンジニアのイーロン・マスクをおいて他にいないだろう。彼の思い描く世界と手がける事業から、我々人類の未来を予測する。 

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Space X(スペースX)
2002年に設立された航空宇宙企業。正式名称はスペース・エクスプロレーション・テクノロジーズ。06年に国際宇宙ステーション(ISS)に物資を運ぶ輸送サービスをNASAと契約し、12年にドラゴンが民間宇宙船として初めてISSにドッキング成功。15年、ファルコン9が世界で初めて衛星打ち上げロケットの垂直着陸を達成し、17年にロケットの再使用を実現。さらに20年に民間企業として初めて有人宇宙船クルードラゴンの打ち上げおよびISSドッキングを成功。また15年には低地球軌道の衛星によって地球上のほぼ全域にインターネットアクセスを提供する「スターリンク」の開発を開始した。

テキサス州ボカチカにあるスターベースで、打ち上げのため発射台に運ばれていく「スターシップ」。惑星間宇宙飛行を見据えて設計された、超大型のロケット&宇宙船だ。

「『スペースX』について感心するのは開発のスピード感。ロケット打ち上げに失敗した場合、通常なら計画が数年止まってしまうところですが、スペースXは数カ月以内に次の打ち上げを予定する。資金面の問題ではなく、他が一発必中で臨むのに対して、スペースXは失敗を重ねてもどんどん前に進む。開発姿勢の違いです」と語るのは、民間主導の宇宙ビジネスを広める活動に取り組む“宇宙エバンジェリスト”青木英剛。青木さんはスペースXの開発拠点「スターベース」を訪れた際、いたるところに転がる巨大ロケットを見て衝撃を受けたという。

「ロケットの再使用についても、NASAやボーイング社など、業界のあらゆるところから『絶対にできるはずがない』と言われながら、成功するまでやり続けた。構造としては特に画期的なところはなく、既存の技術の組み合わせなのですが、粘り強く改良を重ねていくことで実現したのです」

オンライン金融サービス「PayPal」売却で約200億円を得たイーロン・マスクが最初に着手した事業、スペースX。ロケットの打ち上げも当初は失敗が続いたが、2008年に初めて軌道到達に成功すると、以後十数年の間に百数十回を超える打ち上げを成し遂げてきた。NASAとの業務提携のもと、国際宇宙ステーションへの貨物補給ミッションをこなす一方、衛星コンステレーション事業にも参入し、現在では「スペースXがなくなったら宇宙開発が停滞する」と青木さんが言うまでの存在となっている。

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ウクライナ軍に機器が供与されたことでも話題になった「スターリンク」。日本ではKDDIがスペースX社と業務提携を行い、2022年12月からau基地局での利用を開始している。
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Elon Musk(イーロン・マスク)
1971年、南アフリカ共和国生まれ。95年、米ペンシルべニア大学で経済学と物理学の学位を取得後、スタンフォード大学大学院中退。99年、オンライン銀行のPayPalの前身企業X.comを共同設立。2002年、宇宙ベンチャーのスペースXを起業。04年、テスラ・モーターズに出資し、08年からCEO就任。22年、Twitter買収。(C)Bloomberg/gettyimages

「低軌道に多数の人工衛星を投入することで、高速かつ低遅延のデータ通信を提供するという構想自体はかなり昔からあり、さまざまな企業が挑戦しては撤退してきました。それを本当に実現させてしまったというのは驚きでしたね」と語るのは、KDDIでそのスターリンクを担当するLX基盤推進部長の鶴田悟史。

スペースXが他に先んじて事業を軌道に乗せることができた要因のひとつは、自社開発の人工衛星を大量生産し、再使用可能なロケットを自前でもつことでコストを大きく圧縮できたことだ。

「宇宙開発における課題のひとつがロケットの打ち上げコストです。スペースXは過去の失敗を分析した上で、スターリンクを経済的に回るモデルにもっていった」と青木さんは語る。

このアプローチは「テスラ」にも共通する。テスラはEV(電気自動車)を生産するとともに、EVに欠かせない急速充電器「スーパーチャージャー」や充電施設を自社開発。充電コネクタ規格「NACS」はフォード、GM、ボルボに続きメルセデス・ベンツも標準採用することを発表しており、事実上北米での標準規格になることが決定的となっている。

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Hyperloop(ハイパーループ)
2013年にイーロン・マスクが発表した真空チューブ列車構想。減圧されたチューブ内で車両カプセルを走らせるもので、空気抵抗がないため時速1000km以上で走行できる可能性がある。ロサンゼルスとサンフランシスコを結ぶカリフォルニア高速鉄道の計画の代案として提案したもので、両都市間を約30分で結べるとしている。構想はオープンソース化され、さまざまな国と企業が開発を進めている。左のレンダリングはHyperloopTT社のもの。またマスクは16年に地下トンネル掘削のためにボーリング・カンパニーを設立。ハイパーループとは別に、EVが時速240kmでトンネル内を走る計画を立ち上げ、米国各地にトンネルを建設した。
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Neuralink(ニューラリンク)
脳とコンピューターをつなぐ技術「BMI(ブレイン・マシン・インターフェイス)」の開発を目的に、2016年に設立。まずは重度の身体障害や脳疾患を治療する機器などの開発を行い、最終的には人間拡張(身体能力や知覚の強化)のためのツール開発を目指す。19年に脳に極細のプローブ(針)で電極を埋め込む手術を行うロボット、神経から得られた情報を処理するシステムなどの技術を公開している。23年5月、米食品医薬品局(FDA)から人間を対象にした臨床試験の実施承認を受けたことを発表。6月にパリで開催された欧州最大の技術会議「VivaTech」のトークイベント内で、イーロン・マスクは改めて23年中の実施を明言している。

またスペースXのユニークな点は、数々のプロジェクトの先に「人類の多惑星種化」を見据えていること。そのため50年までに100万人の火星移住を目指すとマスクは語っている。なぜなら彼は、なんらかの原因で地球が滅亡する可能性を本気で危惧しているから。その時に備えて、他の惑星で生き残ることができるようにしておくべきという考えだ。スペースXに限らず、テスラであれば電化によって二酸化炭素の排出を減らし、地球温暖化を止めるため、「ニューラリンク」は人間拡張によって、人間が急速に進化するAI(人工知能)の支配下に置かれないようにするため、といった具合に、事業を興す背景には、常にこうした危機感がある。

火星移住に高速チューブ列車、機械につながる脳、地球滅亡に人工知能の反乱……。SFマニアとして知られるイーロン・マスクが取り組む事業とその目的や動機はSFチックだ。しかし、ただ空想を語るだけではなく、それらに大真面目に取り組み、スペースXやテスラで成果をあげてきた。荒唐無稽な言動で世間を騒がせたかと思えば、時に強引に、時にしたたかに事業を推進するイーロン・マスク。彼が次に見る夢はどんなものだろうか。

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Tesla(テスラ)
2003年創業。イーロン・マスクは初期出資者のひとりとして参加し、会長を経て08年にCEOに就任。Model Yは23年第1四半期の自動車販売台数No.1となり、EVの枠を超えて世界でいちばん売れたクルマとなった。16年に太陽光発電会社ソーラーシティを買収しエネルギー事業を開始。家庭用リチウムイオン蓄電池「パワーウォール」やソーラーパネル一体型屋根「ソーラールーフ」などを展開。また21年、自律二足歩行する作業用人型ロボット「テスラボット」の開発を発表し、22年9月にロボット「オプティマス」の試作品を公開した。写真のテスラボットには、8台のオートパイロットカメラなど、テスラ車の自動運転技術が統合されている。

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