根津・The 5th Floor にて開催中の共同展について語る
TRIP#15 YOSHIROTTEN

  • 写真: 田川優太郎
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グラフィック・空間・映像・アートピースなど、さまざまなアプローチで制作活動を行うアーティストYOSHIROTTEN。

この連載では「TRIP」と題して、古くからの友人であるNORI氏を聞き手に迎え、自身の作品、アート、音楽、妄想、プライベートなことなどを織り交ぜながら、過去から現在そしてこれからを、行ったり来たり、いろんな場所を“トリップ”しながら対談します。

1月20日(土)から2月4日(日)まで、根津・The 5th Floor で開催されている展覧会「KIMYŌNA UTSUKUSISA」。The 5th FloorNozza Serviceの共同キュレーションによる本展に、YOSHIROTTENが参加。Russell Maurice(ラッセル・モーリス)Jonatahan Zawada(ジョナサン・ザワダ)らNozza Serviceメイン作家たちも参加し、3人の作品が一堂に介すのは本展がはじめて。1月中旬絶賛設営中のタイミングで、ふたりの展示に向けた話が始まった。

——絶賛、2月4日まで 根津・5th floorで開催中の「KIMYŌNA UTSUKUSISA」設営中ですね。

YOSHIROTTEN:様子はどうですか?

ノリ:設営は割と順調に進んでいます。そもそも話をもらったのは11月あたまとかで、「やべー時間ねーし断らなきゃかも」と思ってたんですが、3人(YOSHIROTTEN、ラッセルて・モーリス、ジョナサン・ザワダ)とは去年、ずっと密に時間を過ごしてたおかげでキュレーションのアイデアはすぐに浮かびました。それぞれと10年前後の関係があって、一緒に仕事していて、狙ってたわけじゃないんだけど共通点があった。3人とも自然が作品の重要な要素になってることが多いけど、なんか歪な感じがするなーって。全員、ちょっと矛盾やジレンマみたいのを感じてて。そこを深堀りできました今回。大好きな3人のことをもっとよく理解することができて本当よかったなーと。作品に関する解説もトモヤ(The 5th Floor ディレクター)と一緒に書いて、もっと正直に言うと、俺がひたすら喋り続けたことを彼がすごく綺麗にまとめてくれて。作品に関して徹底的に2人で考察できたのが楽しかったし貴重な時間だった。

YOSHIROTTEN:ジョナサン・ザワダはどんな作品出すの?

ノリ:10年くらい前に発表した絵画と一昨年CALM & PUNK GALLERYで発表した絵画。

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ノリ:あと、NFTで発表されたキノコの作品を今回の展示に合わせて構成っていうか見せ方を新しくして。ランナウェイ説ってタイトルで、ある学説からきています。自然界において、外見的な好みで雌が雄に惹かれていく中で起きる性淘汰に関するロジックです。外見がいいからモテる雄の子どもが増えすぎる理由と、それで起きる淘汰や問題に言及していて。ブロックチェーンで管理されてるキノコの作品を買った人が、2つのキノコを交配することができて、新たに子どもの画像が生成されるんだけど、親キノコは消滅する。購入されてるキノコっていうのは、要はモテる雄と一緒で、購入者がついたものたちだけが次世代を残していく。交配と遺伝子って、自然界システムとブロックチェーンの技術とマーケットの動向そのものが作品を構成する要素になってるって、結構とんでもない作品だします。

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——金沢21世紀美術館の展示でも、遺伝子をテーマにした作品を発表されてましたよね。


ノリ:遺伝者や染色体、もっと言うと親から子へ代々受け継がれていく情報とそのあり方は最近の主題と言ってもいいかもしれないです。自分の息子に遺伝設定疾患があることがわかった時から、アートへのアプローチや人生のあらゆる面が変わった、と過去にもGASBOOKで語っていて。それから、トモヤくんが面白いことをさらに言ってくれて。交配された遺伝子の系譜やファミリーツリーのトラッキングと可視化って不可能なはずなんですよ。僕らの身体的、性格的特徴が何世代の前の誰からやってきたかってわからないでしょ。それから、あらゆる物事の関係性っていうのも、実はすごく曖昧だし信用が出来ない。思い違いや、願望が事実を脚色したり、会話の誤読、忘却、とにかく確かなってことってほとんどないんじゃないかなと。でも、だからこそ神話だったり、星座だったり、いろいろなお話を人類はつくれてきたかのように思います。理屈上は、あらゆる関係性をブロックチェーンで管理可視化できるようになった時に、どのようにストーリーが紡がれていくのか?そんなことも示唆してます。

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——トラッキングできるからこそ、監視社会的な側面も出てきますよね。

ノリ:そうそう。ネガティブな側面も含んでいて。ジョナサンの作品では、ネガとポジや人間とテクノロジーとかの関係性が反転する瞬間や共犯関係になっていることへの批評性をシレっと作品の中に隠してあることが多くって。そういうとこ痺れるんだけど。

YOSHIROTTEN:歴史はいろいろ改ざんされていたりするだろうから、本当のことなんてちゃんと分かってなくて。納得のいかないこともあるよね。

ノリ:ね。納得いかない。けど、もし全部わかっちゃったから何が起きるんだろうとも思う。

——今回の展示には、ジョナサン・ザワダ、YOSHIROTTENのほかにラッセル・モーリスも参加してますね。

ノリ:彼はすべて新作出します! 僕がヨシローくんの鹿児島県「ユクサおおすみ海の学校」で野外展示プロジェクトで海辺に行った時に、軽石をたくさん集めていたんですけど、それらが作品の一部になって登場しています。


YOSHIROTTEN:たしかに集めてたね。

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ノリ:ラッセルの背景を少し話すと、ヒッピーの両親のもとに生まれて根っからのナチュラリスト。生まれてからいままで肉を食べたことがないし、昔からプラスチックも制限してる。それで、UKグラフィティ第一世代、8歳でグラフィティにハマッてしまった。10代のときは各国のライターと手紙で写真を交換してZINEをつくってた。20年くらい前にやった初めての個展でテーマにしてたのが有機分解できるマイクロチップ。テクノロジーアートではなく 、想像で絵画にしてたみたい。かなり早い、っていうかようやく時代が彼の感覚にフィットしてきてるのかもしれないけど20代の時に一度、絶望したって言ってて。人類が地球や生態系に及ばす悪影響と、それを止めることが出来ない現実にだと思うんだけど。そこからいままで彼の作品は出来るだけ政治性に言及しないような抽象的でトリッピーなスタイルになっていくんだけど、作中に登場する虫が多いんだけどキャラクターたちは泣いてるか憂いをもってる、もしくは感情のわからない表情をしてる。

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——今回は、どのような新作を発表しているんですか?

ノリ:今回の展示では、いままでになくストレートに自然が題材になっている。でも、ジレンマがある。この展覧会のテーマを最も端的にシンプルに象徴してるかもしれない。ラッセルが自分で撮った写真を素材につくられたシリーズは、プラスチックや発砲スチロールとか人工の廃棄物が自然のサイクルに取り込まれて一体化してるようで。初めは異物だったものが、環境に同化していくさま。人類の自然環境への態度ってマッチポンプだと思いません? 正直、環境キャンペーンの風潮は金臭いしエゴを感じることもあるんだけど、ラッセルの作品はそういうものより更に壮大な時間や距離の感覚で、自然と人間の関係を描き出していると思う。

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ノリ:あと、鹿児島の軽石は、彫刻作品になりました。水で出来てる台座と水に浮く彫刻という美術的な観点でも、すごくフレッシュなものになったと思う!ラッセルの部屋は、スピリチュアルで実際の自然が要素になってて、次のジョナサンの部屋はちょっとディストピアっぽく仄暗い、そして最後がヨシローくんの部屋。

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YOSHIROTTEN:僕は今回、2018年に発表した個展「Future Nature」当時の作品とアップデートした半分新作のようなもの、それからSUNのモノリスで参加してます。

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ノリ:YOSHIROTTENの展示は、今までの印象を覆すものになってます!ヨシローくんは、普段から作品をつくるための素材やメディア、それから色に関する探究をしてるなーと、去年ずっと一緒にいて改めて思ったんだけど、その側面はあまり着目したことなかった。かなりスケールが大きな展示やプロジェクトが続いていて、体験や没入方的な展示だと作品1つ1つにフォーカスするのは難しかったりするから、より1つ1つの作品と対話できるような方法を試験したい。「SUN」は、1体だけの展示でちょっと無理をいってギャラリーの窓ガラス外して展示してて、窓の外に異世界がある絵画的なインスタレーションになってます。

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こんなミニマルな展示つくったことないし、それにより作品自体の強度が試されるはず。あと改めて「Future Nature」を解釈できた。現実とは違う色や柄の自然造形とそれを観測したり記録する装置、それらが一体なんだったのか? っていうことが、5年越しに自分の中でしっかり納得できた。あ、あとヨシロー君は、自然をモチーフにした作品をつくることで、鑑賞者にも自然に興味をもって欲しいと言うけれど、それを自身のアートでやるってどういう感覚なんだろう?改めてきいてみたいと思った。 

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YOSHIROTTEN:それで言うと、最近、ドラえもんの道具の事典を改めて読んでみて感じたことがあって。あの話って単純にこうなったらいいなあって唱えるんじゃなくて、道具があるから成立してるんだよね。しかも道具の形もライトやコンピューター、プロペラなどいま実際にあるものから想像しているじゃん。当時の子どもたちからすると、理想的な夢を身近な道具とくっつけてるところに興味関心のきっかけがあったんじゃないかなあって思って。それは自分がみんなが知ってる空や太陽、山や砂漠など自然要素をモチーフにやってることと近いのかもしんないなあ。

——本展を開催する「The 5th floor」自体はどのような場所でしょうか?

ノリ:The 5th floor は「キュラトリアル・スペース」を掲げて、アカデミックな文脈を意識しつつ、いかにキュレーションの視点から現代アートの文脈をつくっていくかを考えながら活動している、貴重な場所。マーケットから距離をおいて、キュレーターが中心になってプログラムをしっかりしている。みたことないもの、感じたことないことを自分に教えてくれる場所。僕がひょんなことから立ち上げメンバーと仲良くなって、運営を引き継いだトモヤともウマがあっちゃって今回こういう展覧会ができたけど、本来は同じアートの世界でも違う村の住人だと思う。だからこそ、この機会はすごく意義があると思ってて、越境していくミックスしていくそれで起こる化学反応があとで何か起こすような「EASTEAST_TOKYO 2023」と同じ感覚で取り組んでます。トモヤがキュレーションした展示に、ロニ・ホーンの詩の朗読の映像作品があって、詩の朗読自体あまり馴染みがなかったけど、あんなにイメージが拡がって言葉に出来ない気持ちになって驚いたことが彼に興味を持ったきっかけだったかもな。

展覧会概要
www.pen-online.jp/article/015100.html


The 5th Floor 情報
※3月29日まで、The 5th Floorによるクラウドファンディングを実施しています

https://readyfor.jp/projects/the5thfloor2024

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連載記事一覧

YOSHIROTTEN

グラフィックアーティスト、アートディレクター

1983年生まれ。デジタルと身体性、都市のユースカルチャーと自然世界など、領域を往来するアーティスト。2015年にクリエイティブスタジオ「YAR」を設立。銀色の太陽を描いた365枚のデジタルイメージを軸に、さまざまな媒体で表現した「SUN」シリーズを発表し話題に。24年秋に鹿児島県霧島アートの森にて自身初となる美術館での個展が決定。


Official Site / YAR

YOSHIROTTEN

グラフィックアーティスト、アートディレクター

1983年生まれ。デジタルと身体性、都市のユースカルチャーと自然世界など、領域を往来するアーティスト。2015年にクリエイティブスタジオ「YAR」を設立。銀色の太陽を描いた365枚のデジタルイメージを軸に、さまざまな媒体で表現した「SUN」シリーズを発表し話題に。24年秋に鹿児島県霧島アートの森にて自身初となる美術館での個展が決定。


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