今月のおすすめ映画①『SCRAPPER/スクラッパー』
母親を病気で亡くした少女と、無責任な父親が織りなすドラマ
母親を病気で亡くしたばかりの少女ジョージーは、福祉事務所にばれないようにこっそりとひとりで暮らしている。架空の叔父と同居しているふりをし、家にあった大切な思い出をなにひとつ変えてしまわぬように、自転車を盗んでは売ってお金を稼ぎ、なんとか家賃を払っている。オープニングで「子どもは地域で育てるもの」という有名な言葉が出てくるが、「私は自立してるから大丈夫」とジョージー。そうして気丈にふるまっていたジョージーの前に、12年間も音信不通だった父親ジェイソンが突然姿を現し……。
ジョージーを演じたのは、本作がスクリーンデビューとなったローラ・キャンベル。キャンベルはジェイソンの身勝手さを理路整然と責め立てる大人びた顔と、他の子と同じように母親を恋しく思う子どもながらの顔の両面を使い分け、誰もが共感できる演技で感動を誘う。一方、『逆転のトライアングル』などで近年注目されるハリス・ディキンソンは、若さ故に父親になりきれない男の弱さを繊細に表現した。次第に心を通い合わせてゆくふたりを、1994年生まれの新世代監督、シャーロット・リーガンがあたたかい眼差しでカメラに捉えている。
劇中ではジョージーの周辺にいる人々が彼女について語るインタビュー映像が随所に差し込まれ、ジョージーは悲しみから立ち直れない孤独な少女である一方で、そうして愛される存在でもあることが伝えられる。家のなかにいるクモが話しはじめたり、突如ゲームのような映像に切り替わったり、ジョージーがガラクタで手づくりしたタワーが屋根を突き抜けていまにも動き出しそうな躍動感を帯びたり、『スクラッパー』はつらい現実を描きながらも、子どもの無限のイマジネーションを表現する遊び心にあふれている。
『SCRAPPER/スクラッパー』
監督/シャーロット・リーガン出演/ローラ・キャンベル、ハリス・ディキンソンほか
2023年 イギリス映画 1時間24分 7/5より新宿武蔵野館ほかにて公開
※公開時期・劇場などが変更される可能性があります。
---fadeinPager---
今月のおすすめ映画②『お母さんが一緒』
演技派俳優たちが繰り広げる、愛憎入り交じる三姉妹のホームドラマ
CSのホームドラマチャンネル開局25周年を記念したドラマシリーズを、再編集して劇場映画化。母親に対して複雑な感情を抱え込む三姉妹による悲喜こもごもが、ほとんどワンシチュエーションで繰り広げられてゆく。『ぐるりのこと。』や『恋人たち』といった名作で日本映画史に名を刻む、橋口亮輔監督9年ぶりの新作映画。橋口のこれまでの骨太な人間ドラマの印象からは一変して、ほっとできる軽やかなホームドラマに仕上がっている。
『お母さんが一緒』
監督/橋口亮輔出演/江口のりこ、内田慈、古川琴音ほか
2024年 日本映画 1時間46分 7/12より新宿ピカデリーほかにて公開
※公開時期・劇場などが変更される可能性があります。
---fadeinPager---
今月のおすすめ映画③『メイ・ディセンバー ゆれる真実』
名優ナタリー・ポートマンと、ジュリアン・ムーアの演技合戦!
1996年に起きた12歳の少年と34歳の女性による恋愛スキャンダル、通称「メイ・ディセンバー事件」をモチーフにした本作は、ただ単に年の差のある恋愛関係そのものを裁こうとするのではなく、あくまでも他者による視線を通して、客観的に「真実」を見つめてゆく。あらゆる事象が単純化されてしまう現代の病に対して一石投じる問題作であるとともに、映画は果たしてなにを描けるのかという、根源的な問いにも立ち返っている。
『メイ・ディセンバー ゆれる真実』
監督/トッド・ヘインズ出演/ナタリー・ポートマン、ジュリアン・ムーアほか
2023年 アメリカ映画 1時間57分 7/12よりTOHOシネマズ 日比谷ほかにて公開
※公開時期・劇場などが変更される可能性があります。
※この記事はPen 2024年8月号より再編集した記事です。