ライゾマティクスが自作品のみで“AIモデル”を制作。新しいアートのかたちを提案する『Rhizomatiks Beyond Perception』展が開催中

  • 文:久保寺潤子
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ライゾマティクスの17年間におよぶデータの蓄積を学習させることで、まったく新しいAIモデルを開発。

天王洲のギャラリーKOTARO NUKAGAで、9月28日まで『Rhizomatiks Beyond Perception』が開催中だ。真鍋大度と石橋素が主宰するクリエイティブコレクティブ、ライゾマティクスは、これまで技術と表現の実験的なプロジェクトを発表してきたが、今回は「AIと生成芸術」をテーマに、創造的思考のプロセス自体を作品化。ギャラリーでの初の大規模展覧会となる本展では「AIモデルデータ」の販売も行う。

誰もがAIを使って画像を生成できる現代において、改めて「生成される画像の価値とはなんなのか?」について問いかけるのが本展の狙いだ。ライゾマティクスが17年間かけてつくり上げてきた膨大なイメージを使って、既存の基盤モデルを使用せずに新しいAIモデルを作成。そのAIモデルデータをUSBに落とし込み、限定5エディションを販売する。購入者はライセンスに基づき、そのAIを使って自由に新たなイメージを生成することが可能となるのだ。また、会場ではAIが学習する過程を紹介するとともに、そのAIモデルを使用して出来上がった10万点のイメージから5点を選び出し、1点もののパネル作品として展示・販売する。

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創造的思考プロセス自体を作品として提供

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生成AIによって作品が生まれる様子を可視化。ビフォー・アフターの数値によって完成度が示される。Photo: Muryo Homma(Rhizomatiks)

今回の試みについて真鍋はこう話す。「現在、さまざまな画像や動画生成AIのサービスが登場しています。誰もが驚くほど簡単に高品質な画像を生成できるようになった今、生成物にはどのような価値が付与されるのでしょうか。またこれらのAIサービスのほとんどは学習データを公開していません。そのため、生成された画像の所有権や使用権については、まだ不明確な部分が多いと言えるでしょう。さらに各社は社会的規範を逸脱しないよう、さまざまな対策を講じていますが、それによって一部のアーティストが制作したい画像をつくれない状況も生まれています。私たちは今回、既存の基盤モデルをいっさい使用せず、自分たちの過去の作品のみを学習データとしてAIモデルを作成し、そのモデルを用いて画像を生成する試みを行いました。会場では生成された画像だけでなく、学習元となった画像や入力したプロンプト、学習の過程、モデルの構造を可視化して展示しています。かつての複製技術の時代では、原画と版画のようにオリジナルとコピーの区別が明確でした。しかし現在はAIモデルと生成物という『生成の時代』に突入しています。この展示を通じてライゾマティクスはAIについて考え、生成の時代におけるオリジナリティと価値について探求します。ぜひご覧ください」

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繰り返しAIにライゾマティクスのイメージを学習させることで、最終的に規則性を帯びた整然とした画像へと変化する。

 

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AIが生成した10万点のイメージの中から、真鍋が選び取った5点のイメージを展示。

 

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会場の小部屋で映し出されているのは、今回販売されるAIモデルデータが生み出した新たな画像。購入者はこのAIモデルを使って入力を変えることにより、無限に画像を生成できる。

今回展示されている抽象度の高い繊細な作品は、既存の生成AIでは決して生み出すことができないという。それはまたAIサービスに内在する社会的バイアスや、イメージ操作についても考えさせられる。AIの知能が人間を超えると危惧される現代において、アートとAIの関係はどうなっていくのか? 正解のないアートの世界だからこそ、人間の美に対する考え方がより問われている。

『Rhizomatiks Beyond Perception』

開催期間:開催中〜2024年9月28日(土)
開催場所:KOTARO NUKAGA 天王洲
東京都品川区東品川1-32-8 TERRADA Art Complex II 1F
開催時間:11時〜18時
休館日:日、月、祝
入場無料
https://kotaronukaga.com/news/6778