世界のアートシーンを牽引する「Paceギャラリー」が麻布台ヒルズにオープン。CEOが語る、東京進出の狙いとは?

  • 文:長谷川香苗 
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PaceギャラリーCEOのマーク・グリムシャー。 Photo by Suzie Howell

世界の8都市に拠点を設ける「Paceギャラリー」がこの9月、東京・麻布台ヒルズにオープンする。待ち望んでいたというPaceのCEO、マーク・グリムシャーに東京のギャラリーで話を聞いた。

ソウルでの成功によって、アジア圏の可能性を確信

東京への思いは1960年代からあったと冗談交じりに切り出す。決して嘘ではなく、Paceギャラリーの創設者である父親に手を引かれて日本にやってきたのが1967年。つまり、半世紀以上前から日本とつながりを築いていた。

本格的に東京でのギャラリー開設を考え始めたのは、2017年のPaceソウルの成功を受けてから。アジア圏におけるアートマーケットの可能性を確信してのこと。

「東京が現代アートの中心でなかったことが、不思議だと思ったんです」とグリムシャーは語る。

その後、数年前に森ビルから麻布台ヒルズへの出店の話が持ち上がると、ふたつ返事で開設を決めた。

「国際都市と言われる世界の街にはたいてい国際的なアートギャラリーがあります。森ビルの皆さんの麻布台ヒルズというひとつの街には一級のアートギャラリーが不可欠、という思いと私たちの思いが通い合ったんです」

ギャラリーを通して、アート界のエコシステムを築きたい

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麻布台ヒルズにオープンするPace東京。内装は建築家の藤本壮介が手掛けている。Photo by Nacasa & Partners, courtesy of Pace Gallery

Paceギャラリーは先頃開催された国際アートフェア『Tokyo Gendai』でも広いブースを設けて出展し、初日から大盛会だった。こうしたアートフェアに出展するだけでもいいかと思うが、そうではないらしい。

「アートのコミュニティを育成し、その一員になることが大切です。六本木界隈には多くのギャラリーが集まっています。そうしたギャラリーとネイバーフッドのような付き合いを持ちたいのです。ギャラリー同士は競争相手ですが、ギャラリーが多いほうがコレクターにとっても、アート好きの皆さんにとってもより多くの選択肢を提供し、アートに触れる機会を増やすことになります。ここ東京のギャラリーを通してアート界のエコシステムを築きたいんです」

アメリカのシリコンバレーにはスタートアップのエコシステムが整っているとよく言われる。それは、シリコンバレーという地域圏だけでアイデアを出すデザイナー、それに賛同して資金を出す投資家、デザインを社会に実装させるメーカー、すべてが揃い、ビジネスが持続的に巡っていく仕組みができているから。では、アートのエコシステムとはどういうことか。

「アートを取り巻く環境がダイナミックで活気づいていることです。そのためには、体験を共有する仕組みをつくることが大切です。いま、どこでどんな展覧会をしているの? こういうアーティスト、知っている? など対話が生まれることが大切です。コレクターだけではなく、アーティストたちや、キュレーター、メディアがアートを見聞きして、対話をすること。集い、食事をする中で話が弾むものです。じゃあ、家にあるアートを見に来ますか?とコレクターのお宅に置かれているアートを見せてもらいに行くこともあるかもしれません。するとアートが身近なものになる。こうした連鎖が、アートを所有してみたいという刺激につながっていくのです。そうした体験を生む“媒介”としてアートギャラリーが欠かせません」

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多くのアーティストが展覧会の開催を切望する街“東京”

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特別プレビュー展の展示風景。19世紀のパリで始まった「サロン形式」の展示に倣って、多種多様な作家の作品を展示し、Paceギャラリーが扱う作家の幅広さを伝えている。Installation View, Group Presentation, Pace Tokyo,2024.Photo by Keizo Kioku,courtesy of Pace Gallery

そのエコシステムの中には美術館の存在も不可欠だ。

「美術館はエコシステムの中に不可欠です。美術館はアートの絶対的なオーソリティであり、アーティストにお墨付きを与えるものです。アーティストにとって美術館で展覧会を開催することがなによりの夢。コレクターと知り合うのも大事ですが、美術館のキュレーターに認められることもアーティストにとっては嬉しいものです。美術館だけではアートのエコシステムは機能しません。アートが鑑賞の対象で終わってしまうからです。人がギャラリーでアートを買う時の意識とは異なります。売買し、所有するということで、それまでにない関係がアートと、ほかのコレクターとも生まれるのであり、アート市場に賑わいをもたらすことになるのです。我々ギャラリーはアーティストと美術館をつなげる存在です」

Paceは8つの都市にギャラリーを設け、展覧会を開催しているが、その企画も美術館とは幾分、異なるという。

「世界各都市のPaceのディレクター陣が集まり、どの都市のマーケットにはどのアーティストがいいかと話し合う、と思われるかもしれませんが、それはありません。美術館の展覧会の場合、キュレーターが主導でその土地のオーディエンスにいま、伝えたい展覧会を組み立てます。一方で我々の展示はアーティスト主導です。アーティストが展覧会を開催したい場所を最優先に企画します。実のところ、アーティストはコレクターに買ってもらいたくて展覧会をするわけではなく、同じアーティストや記者たちに作品を見てもらいたいから展覧会をしたがります。そして、いま、アーティストの多くが展覧会の開催を切望するのは、東京。それは彼ら自身がいま、最も刺激を受けている街だからなんです」

Paceギャラリー

東京都港区虎ノ門5-8-1 麻布台ヒルズ ガーデンプラザA 1F・2F
7/6〜8/17まで特別プレビュー展を開催中
9月に正式オープン予定
www.pacegallery.com