アルル国際写真フェスティバル開催中! この夏“アルル”に行くべき4つの理由

  • 文:髙田昌枝(パリ支局長)
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7月1日、毎年恒例の国際写真フェスティバルが、南仏アルルで幕を開けた。第55回となる今年は「日本の風が吹いている」と形容されるほど、日本人写真家たちの作品に大きくスポットが当たっている。

市内の27会場で開催される41の展示に加え、ワークショップやカンファレンスなど盛りだくさんのフェスティバル。町中のギャラリーで大小さまざまな展示が行われる“OFF”も加わって、夏のアルルは世界中の写真愛好家のメッカとなる。見どころいっぱいのフェスティバルをぜひ、訪ねよう。

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ケリング「ウーマン・イン・モーション」フォトグラフィー・アワードを受賞した石内都。個展会場にて。photo: ©️Yosuke Kinaka

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理由その1:ケリング「ウーマン・イン・モーション」フォトグラフィー・アワードを石内都が受賞

 アルル国際写真フェスティバルのパートナーとして、フェスティバルとともに2019年にケリングが設立した「ウーマン・イン・モーション」フォトグラフィー・アワードは、女性写真家の功績に光を当てるもの。第6回を迎えた今年のアワード受賞者は日本を代表する写真家の石内都だ。

フェスティバルの公式プログラムとして開催されている石内都の個展は、女性たちの遺品を撮影した「BELONGINGS」。2000年に他界した母の遺品を撮影した「Mother’s」、メキシコのフリーダ・カーロ美術館に招聘されて彼女の遺品を撮影した「Frida」、原爆記念館で原爆の犠牲者となった女性たちの遺品を撮影しつづける「ひろしま」の3シリーズの作品を合わせて展示したものだ。

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「Frida by Ishiuchi」「Frida love and pain」 photo: ©Yusuke Kinaka
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「Mother’s」では、持ち主を失った口紅やアイシャドウ、口腔を失った入れ歯が。このシリーズが縁となり、フリーダ・カーロ、広島の被曝女性たちの遺品を撮影したシリーズが生まれた。 photo: ©Yusuke Kinaka

授賞セレモニーは、フェスティバル2日目の夜、古代ローマ時代の遺跡である野外劇場の舞台で開催された。

受賞スピーチで、「日本人女性写真家の代表として『ウーマン・イン・モーション』アワードを受け取ったと思う」と語った石内都。「写真は過去を撮影できません。私が撮影しているひろしまの遺品たちは、私が生きているいま現在、ここに存在しています。ひろしまに原爆が落とされてから79年。こんなに長い時間が経ったいまも、原爆資料館には遺品が持ち込まれる。今世界で戦争がおこり、核の恐怖も感じる時代になっています。みなさん、この『ひろしま』という文字を覚えてください」という言葉に、大きな拍手が起こった。

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古代劇場で行われた授賞式。石内さんは広島の友人のご母堂の残した着物を纏って授賞式に臨んだ。photo:©Yusuke Kinaka

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理由その2:日本人写真家たちの展示が5ヶ所で開催

石内都の個展を合わせると、公式および関連プログラムをあわせて日本人写真家が参加する展示が実に5つも開催されている。

ケリング「ウーマン・イン・モーション」が支援する、「I’m so happy you are here」展は、山沢栄子から川内倫子、蜷川実花まで1950年代から今日までの日本人女性写真家25名の作品を一挙に展示。その個性と多様性を、日常の昇華、エクペリメンタルな試み、社会とジェンダーの3つのカテゴリーで紹介するもの。英語版とフランス語版による国際版書籍の刊行に合わせて企画された展覧会で、アルルを皮切りにこれから世界各地を巡回する予定だ。

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「I’m so happy you are here」展より、蜷川実花の作品。photo:©Yusuke Kinaka

KYOTOGRAPHIE京都国際写真祭は、女性写真家6人の作品を紹介する「TRANSCENDENCE(超越)」展を開催。動物の姿を通してエコロジーを問う𠮷田多麻希、自らの不妊治療を題材にポエティックに表現する鈴木麻弓など、写真表現を通してレジリアンスと自己を見つめる女性たちの作品だ。

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「TRANSCENDENCE(超越)」より、𠮷田多麻希の展示。KYOTOGRAPHIE: ©︎Kosuke Arakawa / KYOTOGRAPHIE

「REFLECTION-11/03/11」では、東日本大震災と津波、原発事故のその後とレジリアンスを、それぞれの視線で撮影した男女9名の日本人写真家のグループ展。

また、街の中心地から離れたモンマジュール修道院の会場では、アマチュア写真家の浦口楠一が撮り続けた、志摩の海女の写真展が開催されている。

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「REFLECTION-11/03/11」より、菅野純の展示。photo:©Yusuke Kinaka
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浦口楠一「Offshore, 1974」。 Courtesy of Uraguchi Nozomu

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理由その3:町中のユニークな会場で行われる写真展の数々

古代ローマの遺跡も残り、歴史と伝統を感じるアルル。町中で行われる写真展は、会場の表情もひと味違う。

16世紀に病院として建てられ得たエスパス・ヴァン・ゴッホでは、アメリカの素顔を取り続けたメアリー・エレン・マークの大回顧展。中世のクロイスターに展示されているのは、ヴァサンタ・ヨガナンタンによる、ある女性を追った詩的なドキュメンタリー。フェスティバルのポスターにもなったクリスティナ・デ・ミデルの個展は、15世紀の教会の大空間で。

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メキシコからカリフォルニアへの移民をテーマにしたクリスティナ・デ・ミデルの展示は、中世の教会の大空間。photo:©Yusuke Kinaka

きわめつけは、ソフィ・カルの「NEITHER GIVE NOR THROW AWAY」。暗く冷たく、水も滴り落ちる市庁舎広場の地下に広がる古代ローマ時代の回廊が舞台だ。湿度99%で展示写真を損なう恐れのあるこの場所に、実際の水漏れ事故で損傷を受けて展示できなくなった、盲目の人が語る美についての連作を展示。湿気に侵されて朽ちていく作品に有終の美を飾らせたいと、自らこの場所での企画を持ち込んできたという。

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ソフィ・カルの展示は、文字通り、水の滴る回廊にて。時間と共に湿気に蝕まれていく展示のコンセプトは、この会場抜きには存在しなかった。photo: ©Yusuke Kinaka

理由その4:フランク・ゲーリー建築のリュマ・アルルもお見逃しなく

コロナ禍が明けた2021年に完成したフランク・ゲーリー建築がアルルの旧市街のすぐ近くにそびえ、フェスティバルの写真展を迎えている。ここは鉄道関連の工場跡地が改修され、広大な公園とフランク・ゲーリーの高層ビルを加えて2021年に完成したカルチャーコンプレックス。

アート展示の数々が随時行われているほか、カンファレンスやスペクタクル、アーティストレジデンスといった活動も。フェスティバル期間中ももちろん、写真展の会場として3つの展覧会を迎えている。

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旧市街のすぐ南側に聳える、ゲーリー建築。写真フェスティバルの公式プログラムでは、映画監督ジョエル・コーエンのセレクトしたリー・フリードランダーのストリートフォト展が。photo:©Yusuke Kinaka

アルル市内で開催されるアソシエイト・プログラムにはほかにも、写真フェスティバルの創始者である写真家ルシアン・クレルグの尽力で充実した写真コレクションを持つレアチュー美術館で写真展が行われている。一方、写真展こそ迎えていないが、旧市街にある李禹煥(リ・ウファン)の美術館もフェスティバルの機会にぜひ訪ねたいスポットだ。

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街を走るトゥクトゥクも、石内都の写真を背負ったフェスティバルバージョン。©Yusuke Kinaka
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アルルの駅のプラットフォームで、「REFLECTION-11/03/11」展の写真が出迎える。photo:©Yusuke Kinaka

アルル国際写真フェスティバル
Les Rencontres de la Photographie d’Arles

開催中〜9月29日まで
入場料 展覧会各6ユーロより。1日パス33ユーロより
www.rencontres-arles.com