初舞台に向けて極限まで自身を追い込み、役者として飛躍を見せる20歳の窪塚愛流

  • 写真:廣瀬順二
  • 編集&文:佐野慎悟
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窪塚愛流(くぼづか・あいる)●2003年、神奈川県生まれ。18年に映画『泣き虫しょったんの奇跡』で俳優デビュー。21年から本格的に俳優活動を開始。映画『麻希のいる世界」、『少女は卒業しない』、ドラマ『最高の教師 1年後、私は生徒に■された』などに出演。24年には映画『ハピネス』で初主演。その瑞々しい存在感と演技を着実に成長させている。

松尾スズキが初めて翻訳した、フランスの童話作家デビッド・カリ著、セルジュ・ブロック絵の『ボクの穴、彼の穴。』(千倉書房)を原作に、ノゾエ征爾が脚本・演出を手掛けて舞台化した『ボクの穴、彼の穴。W』が、9月17日から東京・青山のスパイラルホールで上演される。戦場に残された敵対するふたりの若い兵士“ボク”と“彼”によって展開されていくふたり芝居に挑むのは、本作が舞台初出演となる20歳の窪塚愛流。上演直前で緊迫感漂う稽古場を訪れ、窪塚に初舞台にかける意気込みや思いを聞いた。

すべてを壊され、足をすくわれるような経験

「以前、稽古が始まる前に受けた取材では、やる気のこもった勢いのある言葉を発していたのですが、いざ稽古が始まってしまうと、日に日に大口が叩けない状態になってきました」

自分自身にも、周りにもまっすぐ向き合い、ひと言ひと言、常に自分の言葉でしっかりと受け応えする窪塚は、嘘偽りのない心の内を吐露した。2018年のデビュー以来、映画やドラマで多くの経験を積んできた彼だが、舞台という未知の領域に初めて足を踏み入れ、大きな壁に直面したようだ。

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現在20歳の窪塚は、大阪公演初日の前日である10月3日に誕生日を迎える。「20歳最後の仕事として東京での初舞台を経験し、大阪では21歳としての初仕事が待ち構えています。みんなに男前な姿を見せられるように頑張ります」

「初めて稽古をした日に感じたのは、これまで経験してきたことと、舞台の上で演じることは、なにもかもまったく違うんだということでした。だから、自分の芝居って、どんなだっけ?  ってわからなくなってしまって、いい意味で全部をぶっ壊された感覚でした」

役のつくり方から声の発し方まで、これまで自分の中でなんとなく「出来ている」と感じていた事柄の一つひとつが、舞台の上では通用しない。足をすくわれるような経験に打ちひしがれた窪塚は、自分の芝居を根本から見直していったと言う。

「最初のうちは、ヤバい、ヤバい、どうしようって思うことばかりでした。ただ、そう思えていること自体、自分にはまだまだ伸びしろがあるということの証拠だし、この苦しさは絶対に未来の糧になると思っていました。いまは、ものづくりの楽しさと大変さを再認識している毎日です。なんというか、激ムズのパズルやっている感覚に近いかもしれないです。絶対に完成させたいという気持ちを強く持って、でも毎日毎日絶望したり、葛藤したり、挫折しそうになりながらも、ひとつずつピースをつなぎ合わせていく。そんな日々を、いまでは楽しめるようになってきました」

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「僕にとっての“穴”。それは心だと思います。心は自分のいちばん正直な部分。それを曝け出すのは勇気がいること。でもみんなが穴の中に閉じこもっていると、お互い先入観や偏見しか抱かない。ちゃんと心の中を見せ合えたら、わかることも多いと思います」と、“穴”についての自身の解釈を語る。

極限まで集中力を高め、“ゾーン”に入って演じる

舞台初挑戦というだけでなく、戦争というシリアスなテーマを扱う作品への出演も初めてとなる窪塚。自身の経験や想像を遥かに超える、極限状態に置かれた役柄とどのように向き合っているのだろうか。

「“戦争”という言葉から想像するのは、映画で観る爆撃や銃撃戦のような武力衝突でしたが、『ボクの穴、彼の穴。W』は、いままで戦争に抱いていたイメージとはまったく別の世界を表現するものでした。ドラマや映画の場合は、自分の過去の経験から役柄との共通点を探すことも多いのですが、今回はとにかく毎日手探りでもがきながら、自分の芝居を少しずつ組み立てています」

舞台の上では、これまでドラマや映画で経験してきたものとは比べものにならないような長台詞も多く、集中力を保ち続けるだけでも相当な労力が必要なはずだ。

「極限状態に置かれているという点では、役柄の心理状態と少なからずつながることができているかもしれません。毎回、極限まで集中力を高めて自分を研ぎ澄まし、よくアスリートが言う“ゾーンに入る”みたいな状態まで強制的に持っていかないと、雑念が入ったり、自分の周りの景色に意識がいったりして、簡単に芝居の世界が壊れてしまうという緊迫感があります。そういう感覚はこれまでにももちろんありましたが、そのレベルはまったく違います」

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 役者としての成長を見せる窪塚の、全身全霊を込めた初舞台は9月17日にスパイラルホールにて。

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『ボクの穴、彼の穴。W』の世界にあるのは、ふたつの穴と、それぞれに身を隠すふたりの若い兵士のみ。このミニマルでコンセプチュアルな舞台は、敵対する相手のことを知ることによって、ストーリーが展開していく。

「自分がこの立場に置かれた時のことを考えてみると、やっぱり相当怖いです。僕なら絶対に穴から出ずに、蓋をしちゃうと思います(笑)。なにも知らされずに、ただ戦争のマニュアルと銃だけを手に戦場へと放り込まれた兵士にとって、知るべきことはたくさんあるし、知ることがそのまま人生の救いにもなると思います。僕も今回の舞台で、自分がこれまでチャレンジしてきた芝居が一度全部ぶっ壊されて、どうすればいいのかわからなくなってしまった時に、先輩である相手役の篠原悠伸さんのお芝居を見たり、感じたりすることで、自分のやるべきことが見えてきたような感覚があります。僕がいまつくれている役は、篠原さんの役の反動というか、対比でもあるから、篠原さんの芝居の中に、自分の芝居のヒントがあるんです。だから僕にとっても、知るということは、この舞台という戦場みたいな場所を生き抜くための、希望の光みたいなものになっていると感じています」

??????????W  』宣伝ビジュアルs.jpg『ボクの穴、彼の穴。W』は、ボクチーム(井之脇海×上川周作)と彼チーム(窪塚愛流×篠原悠伸)のダブルキャストで上演。

若い役者同士で切磋琢磨しながら、ふたりだけでひとつの舞台をつくり上げていくという経験は、彼らの役者人生にとって貴重な財産となるだろう。その難しさに時にうろたえながらも、しかし真っ直ぐに前を向いて立ち向かっていこうとする姿には、既に戦士と呼ぶにふさわしいような勇ましさがあった。

「舞台は、最後のカーテンコールで出演者が並んで観客の皆さんに『ありがとうございました』ってお辞儀するじゃないですか。僕はあの姿を見るたびに、みんなでこの舞台を一生懸命つくり上げてきたんだろうなっていうことを思って、とても感動します。自分が初めて舞台に立って、いざカーテンコールでお辞儀する時には、絶対に泣くんだろうなって思っています(笑)。実際その時にならないとわかりませんが、全力でお辞儀ができるようにいまは頑張ります!」

モチロンプロデュース『ボクの穴、彼の穴。W』

翻案・脚本・演出:ノゾエ征爾
訳:松尾スズキ
原作:デビッド・カリ、セルジュ・ブロック
出演:<ボクチーム>井之脇海×上川周作 <彼チーム>窪塚愛流×篠原悠伸
東京公演:スパイラルホール(スパイラル3F)にて9/17〜29まで
大阪公演:近鉄アート館にて10/4〜6まで
https://otonakeikaku.net/2024_bokukarew/