クラフトビールに情熱を注ぐ、いま話題のキーパーソン【ファントムブルワー・川村洋平】

  • 編集&文:岡野孝次
  • 写真:朝山啓司、後藤武浩、保苅徹也
  • イラスト:西田真魚
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人気のビールを手掛けるブルワー、そのカルチャーを伝える注ぎ手……。クラフトビールに魅せられ、ファンの視線を浴びる3人を紹介する。二人目は、〝ファントム(幻影)ブルワー〞として、自前の醸造所を持たないホーボー ブリューイング代表の川村洋平だ。クリエイティブディレクター・南貴之がオープンさせた衣食住の複合型ショップ、代々木「寄」や、「パドラーズ・コーヒー」の松島大介による中野のカフェ「ルー」のオリジナルビールや、ファッションブランド・アニエスベー、ソフ×グラフィックアーティスト・内田洋一朗のコラボレーションビールなど、異業種との協業を通し、ビアギーク以外からも注目されている男を追う。

 

Pen最新号は『驚きと、よろこびのクラフトビール』。この数年で、クラフトビールをめぐる景色が大きく変化しつつある。ていねいにつくられたもの、多様性を包み込むもの、消費されない価値を持つもの。こうした価値観、考え方が世の中に浸透し、新しい時代の姿となっているが、クラフトビールは、まさにその流れの真ん中にあるものだ。世界を動かす驚きと、よろこびあふれるクラフトビールを体感しに行こう。

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人と人をつなぐべく、日本中を旅するブルワー

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川村洋平(かわむら・ようへい) ●ファントムブルワー。1990年、北海道生まれ。地元の大学を中退後、高知に長期滞在して現地の職人と交流、ものづくりの道を志す。現在は札幌ストリートライト ブリューイングの共同代表と、ファントムブルワリー、ホーボー ブリューイングの醸造担当を並行して担う。写真はホーボー ブリューイングのビールも扱う、パークレット・ベーカリーの店舗前で。右から3番目が川村洋平、4番目がジェイジェイ。

ちなみにファントムブルワーとは、自前の醸造所を持たずに他のブルワリーの設備を借りてビールをつくる職人を指す。たとえば世界に支店を構えて絶大な人気を誇る、デンマーク・コペンハーゲン発のミッケラーも、実は〝ファントム〞ブルワリー。ヨーロッパやアメリカなどのさまざまな醸造所の設備を使用しながら、ビールをリリースしている。

2024年6月某日、日本橋のパークレット・ベーカリーに川村の姿があった。ここはアメリカ・サンフランシスコで大人気のタルティーンベーカリーの運営に携わった妻・ケイトと、カリフォルニアでスローフードの理念を確立した名店、シェ・パニースで経験を積んだ夫・ジェイジェイが監修する店。こちらのオリジナルビールも川村が手掛けている。今回は、4月に都立明治公園内に開店した姉妹店のバターミルクフライドチキン専門店、ベビー ジェイズのオリジナルビールの依頼を受け、レシピの相談をすべくジェイジェイとスタッフに会いに来たのだ。

「今日の打ち合わせでは、ドイツ・ケルン地方の伝統的なビアスタイル、ケルシュでいこうとなりました。すっきりとした味わいで、夏にゴクゴク飲みやすいからです」

川村は現在、札幌在住だ。14年に地元・北海道のはこだてビールに入社して2年ほどの修業を経て、16年からはファントムブルワーとして活動を始める。滝川クラフトビール工房など地元・北海道の醸造所とコラボレーションを重ね、加えて米国・ポートランドのブルワリーでビールを仕込むなど、業界で知名度を上げていく。

しかし23年2月には札幌で醸造を開始したストリートライト ブリューイングの共同代表にも就任する。自前の設備を持たないのがファントムブルワーの大前提だが、川村はいまでも自身を〝ファントム〞と感じているという。

「ストリートライト ブリューイングは、僕と大阪匡史、宮口晃一の3人で創業しました。実は札幌には大きな規模のクラフトビールの醸造所がなかったので、それをつくろうというのがきっかけでした。経営方針は大阪と宮口が立ててくれるので、僕の役割の中心はその方策に沿ってレシピを考え、ビールを醸造することなんです」

ファントムの場合、コラボレーションの際は相手の設備を借りることが多いが、ストリートライトブリューイングでの醸造も、大阪、宮口とコラボしてビールをつくっている感覚に近いと川村は話す。

「あとは、いまもホーボー ブリューイングの活動をしているから、自分はファントムという気持ちが強いのだと思います。ホーボーでつくるビールは、もっと私的で個人的な趣味が反映されたもの。販路も親しいお店に限定しています。醸造でストリートライト ブリューイングの設備を使ったり、21年に醸造所の立ち上げを担った香川・高松のせとうちブルワリーでビールを仕込むこともあります」

もとより所有欲、物への執着があまりないと話す川村。自身で飽きっぽいと言う性格も相まって、二足の草鞋を履きながら、一箇所に止まらないという、いまの働き方が生まれたのだろう。ゆえに川村の職場はブルワリーだけではない。東京を中心に、とにかくさまざまな場所に出かけて、人と人をビールでつないでいくのだ。

「ブルワーになる前に、いまはなき札幌のビアバー、ヒグラシに行きました。その時にビールって人と人をフランクにつなげるお酒なんだなと気付いたんです。そして、ここで飲んだローグの『ヘーゼルナッツ ブラウンネクター』。ビールにヘーゼルナッツを入れるとは、なんてフリーダムなんだ!と、その自由さ、表現の幅に感激してブルワーを志したんです」

02_SB5_02_H 1600.jpgストリートライト ブリューイングのタップルーム。
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ストリートライト ブリューイングの定番銘柄は2種あって、エールと写真左の「スタンダードラインラガー」¥1,000。キレのある飲み心地でノーブルホップをメインにアメリカとニュージーランドのホップも加える。右のヘイジーIPA「ビー マイ ヘイジー」¥1,100は、トロピカルフルーツ、柑橘の風味が印象的。

04_SB2_05_H 1600.jpg煮沸中の麦汁にハチミツを投入する川村。(ストリートライト ブリューイング)

 

05_SB1_10_H 1600.jpg川村(中央)とビール醸造&ワイン醸造の経験が豊富なスタッフと3人で仕込みを担当する。(ストリートライト ブリューイング)

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信頼できる仲間との新しい挑戦、福岡で開業した”人と人をつなぐ”ビアパブ

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福岡・警固のホーボー ビア ストアのカウンターに立つ川村と永井(左)。運営は永井が担うが、川村も福岡を訪れた際は接客に回る。

ビアパブが持つ、人と人をつなぐ力。そんな場所をつくるべく、川村が福岡市で23年8月に開業したのが、ホーボー ビア ストアだ。

「実は18年にも、札幌・すすきので土曜だけ、ホーボー ビア スタンドというビアバーをやっていました。結構、賑わって好評だったんですけど、本業が忙しくて続けられなかったんです。今回はホーボー ブリューイングの経営面をサポートしてくれる永井亮が、福岡に引っ越すというので、販売拠点を持つために開業しました」

冷蔵ケースには、ホーボー ブリューイングの缶ビールが並ぶ。前田麦やリー イズミダなど、人気イラストレーターが手掛けたラベルが目に留まる。川村が人気ブルワーに躍り出たのは精緻な醸造技術に加え、パッケージデザインで能力を発揮したからだ。キャッチーなネーミングとエチケットは、クラフトビールと馴染みのなかった層にも大いに支持された。

信頼できる醸造スタッフに恵まれたからこそ、現場に縛られず、新しい挑戦ができると話す川村。

「僕は今後も、いろんな人との出会いを大切に、自分にはない価値観やアイデアに触れ、ビールをつくりたい。だからやっぱり働き方はファントムブルワーのまま、どうしても方々に足が向いてしまうんです」

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通りから様子が窺えるホーボー ビア ストア。

 

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ロゴは内田洋一朗が担当。(ホーボー ビア ストア)
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ホーボー ビア ストアでは、ホーボーとストリートライトブリューイングのビールを扱う。コラボ銘柄が並ぶ中、右中段の「ラガー ミーンズ アイ ラブ ユー」¥880は、ホーボーオリジナル。アメリカンホップの香りがふくよかなホッピーラガー。店ではタップでのビール提供もあり。

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コクヨ運営の千駄ヶ谷のショップ&カフェ「シンク オブ シングス」のオリジナルビール「ビアード(ラガー)」¥770。ベーシックなラガーをもとに香り高い胡椒と塩を加え、ライムの爽やかな酸味もプラス。(ホーボー ビア ストア)

パークレット ベーカリー

住所:東京都中央区日本橋小舟町14-7 ソイルニホンバシ1F
TEL:03-3527-2627
営業時間:8時30分~18時
無休
Instagram@parkletbakery


ストリートライト ブリューイング

住所:北海道札幌市中央区北10条西19-1-1(タップルーム併設)
営業時間:15時~21時( 月~ 金) 12時~20時(土、日、祝)
無休
Instagram@streetlightbrewing


ホーボー ビア ストア

福岡県福岡市中央区警固2-12-12
13時~21時
無休
Instagram@hobobeerstore

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川村洋平の人生を変えたクラフトビール3選

サッポロビール
サッポロ エーデルピルス 

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「地元・札幌の飲食店で提供され、数量限定で缶が販売されたことも。とにかくホップの香りが豊かで、僕にホップというものの存在を意識させてくれた1本」。伝統的なドイツ製法で醸造された麦芽100%のピルスナー。サッポロビール社比で3倍のホップを使用している。

ローグ
ヘーゼルナッツ ブラウン ネクター

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「ヘーゼルナッツが入って、しかも名前がネクターって? という混乱とともに、クラフトビールが持つ多様性に気付かされ、ビールをつくることに興味を抱かせてくれた銘柄です」。伝統的なヨーロピアンスタイルのブラウンエールに、ヘーゼルナッツを加えたビール。

グリーンフラッシュ ブリューイング 
ウエストコースト IPA

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「僕がクラフトビールにハマったきっかけが、ウエストコーストIPA。グリーンフラッシュ ブリューイングは当時のトップランナーで、初めて飲んだ際は、雷に打たれたようだった」。今後ビールに関わっていくなかで、もう体験できないと思えるほどの衝撃だったという。

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