キャリア15年目のアーカイブと、“出力中”の現在進行形を体感させる【Penが選んだ今月のデザイン】『上西祐理 Now Printing』

  • 文:高橋美礼(デザインジャーナリスト)
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会場では大小さまざまなビジュアルを、紙、布、ターポリンなどの素材に定着させる。レイアウトは、街なかに張られるポスターや棚に置かれる本など、日常的にグラフィックを目にするような状態を模して配置する。立派なケースに飾る“作品”ではなく、身近なメッセージに近い存在だ。会期中に展示替えをする予定なので、違いを楽しむのもいいだろう。

グラフィックデザイナー上西祐理の個展が、ギンザ・グラフィック・ギャラリーで開催される。

「Now Printing」=出力中というタイトルは、上西の現在進行形の姿を見せるテーマに通じるものだ。「世界卓球2015」のポスターや『2121年 Futures In-Sight』展のメインビジュアル、「麻布台ヒルズ」ロゴデザインなどの代表作のアーカイブ展示に加え、会場にプリンターを設置して、自ら遠隔操作で印刷物を出力する試みや、会期中に什器の配置を変えて見え方の違いを探るような仕掛けも興味深い。

上西は中学生の頃から本格的に写真を撮るようになり、クリエイターとの協働を求めて、グラフィックデザイナーの道を選んだと言う。いまではビジュアル制作に携わるプロの目線から、「写真はどのような段階からグラフィックになるのか」と考察することにも、面白さを見出している。本展では、そうした思考から取り組んだ自主制作の印刷物も数多く展示される。

「文字をのせたらグラフィックデザインなのか。あるいは、大量生産された時点で成立するのか。デジタル化される時代のなかで、物質として空間にあるものを大事にしたいと考えています。デジタル上ではよく見えても、かたちとなって立ち上がった時に貧弱では意味がないので、デザインを定着させる強度を高める専門知識を知っておくことも必要。それと同時に、仕事に向き合う姿勢、生き方、なにを美しいと感じるか……。つまり固有の美意識が大切だと思っています」と上西は話す。上西自身が撮った写真も展示に使われ、これまでに旅した45カ国、登山で目にした景色、日常の風景といったさまざまな断片ににじみ出る個性から、強い軸を感じ取れるだろう。上西の視点を一緒に楽しむ気持ちで、会場構成にも注目したい。

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「麻布台ヒルズ」ロゴデザイン

『上西祐理 Now Printing』

開催期間:9/3~10/23
会場:ギンザ・グラフィック・ギャラリー(ggg)
TEL:03-3571-5206
開館時間:11時~19時
定休日:日曜日、祝日
料金:入場無料
www.dnpfcp.jp/gallery/ggg

※この記事はPen 2024年10月号より再編集した記事です。