今年7月にザ・リッツカールトン東京で開催された「ザ・マッカラン、果てなき旅路」。ブランド200周年を記念したテイスティングイベントで提供されたのは、ヨーロピアンオークとアメリカンオークという特徴の異なる2種のシェリー樽を熟成に使った「ザ・マッカラン ダブルカスク・シリーズ」のフルラインナップ。200年の伝統と革新が味わえるザ・マッカランの現在のスタンダードだ。
さらには、ザ・リッツカールトン東京のヘッドバーテンダーである和田健太郎氏と、2023年にはバンコクのバーテンダーオブザイヤーにも輝いた「#FindTheLockerRoom」のタナチャット“オング”ロニハミット氏が、「ザ・マッカラン ダブルカスク12年」をベースに特別なカクテルを創作。会場に集った幸運な参加者たちが、それぞれに心ゆくまでザ・マッカランを堪能した。
孤高のシングルモルトブランドとしてのマッカラン
ザ・マッカランの歴史は、農家に生まれ牧師や教師としての顔も持っていたアレキサンダー・リードが、スペイサイドに自らの小さな蒸留所を創設したことに始まる。原料となる大麦を栽培するための畑と蒸留所建設の用地として、当時、リードが借り受けた土地はわずか8エーカー。現在のマッカランが所有する485エーカーにもなる広大な敷地の約60分の1の土地で、小さなポットスチルに火が入れられた瞬間が、今や世界でも最高峰のラグジュアリーウイスキーと称賛されるザ・マッカランの第一歩となった。
その後の1892年には、近代マッカランの祖と呼ばれるロデリック・ケンプに蒸留所の経営権が移り、スパニッシュオークのシェリー樽での熟成など、現在のザ・マッカランの礎が築かれていく。時はブレンデッドウイスキーの時代。その香り高きウイスキーの品質は、ブレンデッドウイスキーに華やかな香味を与えるトップドレッシングとして、古くからブレンダーたちに知られてきた。
そして1960年代後半から1970年代にかけては、自社蒸留所のモルト原酒のみを使ったシングルモルトのリリースに注力するようになり、その名声を世界へと広めていく。
また、2018年には総額210億円を投じて新たな蒸留所をオープンし、従来のウイスキー蒸留所とは全く異なる、自然との融合を目指したモダンで革新的なその姿が大きな話題に。あらゆる製造プロセスがオートメーション化され、ウイスキーの未来を思わせる新たな蒸留所でも、スペイサイド最小のポットスチルでの蒸留や、蒸溜したスピリッツの僅か16パーセントのみを熟成にまわすファイネストカット、比類なき樽へのこだわりなど、ザ・マッカランの伝統かつアイデンティティたる「シックスピラーズ(6つの柱)」を踏襲したウイスキー造りを行っている。
ザ・マッカランの「トップ10キーシティ戦略」
200周年の節目を迎え、そんなザ・マッカランが、世界やアジアでのプレゼンスをより確固たるものにしようとしている。
「40年以上前に、シングルモルトとしてザ・マッカランが初めてアジアで販売されたのは香港でしたが、それからすぐに日本でもローンチされました。サントリーとの長年に渡る良好な関係もあり、30年以上前からザ・マッカランが販売されてきた日本は、今も我々にとって非常に重要なマーケットの一つです」
そう話すのは、エドリントン・グループの北アジア・マネージングディレクターを務めるハイメ・マーティン氏。ザ・マッカランのさらなる躍進の鍵を握るのが「トップ10キーシティ」戦略だ。
「アジアでは東京、香港、上海、ソウル、シンガポール、そしてパリやロンドン、ニューヨーク、サンフランシスコ、LAといった都市をトップ10キーシティとし、これらの都市に優先的な投資を行っていきたいと考えています」
そんなハイメ氏の言葉通り、昨年4月に六本木ヒルズで開かれた「ダブルカスク・シリーズ」のリローンチイベントなど、東京でも大々的なイベントを開催。今年5月には、ザ・マッカランの世界初の旗艦店となる「ザ・マッカランハウス」を香港にオープンさせた。
「ザ・マッカランハウス」香港に揃うのは、スコットランドのマッカラン蒸溜所に次ぐ膨大なウイスキーコレクション。定番品から各年代のビンテージ、今年のアートバーゼル香港の展示でも話題となった「レッドコレクション」など、希少なザ・マッカランのボトルがズラリと並ぶ様は圧巻だ。
史上最高値となった「ザ・マッカラン1926」
昨年には、1986年に40本のみボトリングされた「ザ・マッカラン1926」がロンドンのオークションに掛けられ、218万7500ポンド(4億円以上!)で落札され話題となった。オークションで落札されたワインや蒸留酒のボトルとしては史上最高額であり、ザ・マッカラン以外でこれほどの値がつくウイスキーが出てくるとも思えない。
落札された「ザ・マッカラン1926」のラベルは、イタリアの画家であるヴァレリオ・アダミが手がけたもの。同じ1986年には、英国ポップアート界の巨匠であるピーター・ブレイクがラベルを手がけた「ザ・マッカラン1926」も、12本のみがボトリングされている。
今や多くのウイスキーブランドがアートとのコラボレーションを行っているが、当時のザ・マッカランのこれらの野心的な試みはその先駆けと言えるものだ。そしてその後も、ザ・マッカランは著名なアーテイストやフォトグラファー、世界最高峰のガラス職人であるラリックとのコラボレーションなど、ウイスキーの価値を芸術品の域まで高める数々のトライを行ってきた。
「大麦と水と酵母のみで造られ、特別な樽での熟成や芸術的なブレンドを経てナチュラルカラーで仕上げられるザ・マッカランを、我々は一つのアート作品だと考えています。歴史的に見てもザ・マッカランとアートとのパートナーシップは非常に重要なものであり、一昨年には史上最高熟成となる81年物のザ・マッカランをリリースするにあたり、彫刻家のサスキア・ロビンソン女史とのコラボレーションも行いました。アートをはじめ、ベントレーなどの自動車メーカーやラグジュアリーホテルなどとの様々なコラボレーションやコミュニケーションを通じ、我々はザ・マッカランが備えるウイスキー以上の価値を訴求したいと考えているのです」
とはいえ、「ザ・マッカランはそうした野心的なボトルばかりをリリースしているわけではありません」と、ハイメ氏は続ける。
「特別な製品は別として、やはりウイスキーは飲んで味わうためのもの。他のシングルモルトなどのウイスキーと価格を比べてもらっても分かる通り、ザ・マッカランがリリースする製品のうち99パーセント以上は、皆さんにその香りや味わいを存分に楽しんでもらうためのものなのです」
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11月には東京で大規模なイベントを開催予定
「200周年を迎えたザ・マッカランにとって、今日はキックオフイベントのようなもの。アジアにおけるウイスキー文化の発信地でもある日本では、多くの方がザ・マッカランを愛してくださっていることを実感でき、私自身も東京や大阪に来るたびに素晴らしい体験をさせてもらっています。トップ10キーシティの中でも特別な都市である東京では、今後も大きなイベントを計画していますし、将来的には東京でも『ザ・マッカランハウス』をオープンしたいと考えています」
人々の熱気に包まれた会場で、そう話してくれたハイメ氏によると、今年は各国で大規模なアニバーサリーイベントが予定されており、この11月には東京でもザ・マッカランの歴史を振り返る200周年イベントが大々的に開催されるという。
2世紀以上に渡る歴史を現在、そして未来へと繋げ、未だ果てしなく続くザ・マッカランの旅路。その価値を高め続ける世界最高峰のシングルモルト・スコッチウイスキーは、この先にどのような未来を見せてくれるのだろうか。