遠出がしたくなる秋の始まり。この季節に選びがいのあるクルマはグランツアラー一択ですよ。興味深いのはクルマの選び方に年齢や経験値、人生の充実度が出るし、それもまたクルマの魅力に花を添えるのね。
グランツアラーは、どれもこれもブランドの歴史をまとったクラシカルな佇まいをしている。それらをワインやウイスキーをテイスティングするように吟味して、自分に合った一台を選べたなら、スリルと愉楽に満ちた長い旅(GTライフ)が始まる。
なかでもドのつく高級グランツアラーは百花繚乱にして精鋭ぞろい。見逃せないのがアストンマーティンの新型スーパーツアラー「DB12」ですよ。不朽の名モデルになった「DB11」のレガシーを継承しつつ、遅刻してきた主人公よろしく、用意周到に走行性能も高級感もまとめて2世代分ぐらい進化させてきている。「アイツには負けられない」というライバルへの秘めた情熱を感じさせつつ、骨太でエクスクルーシブな魅力が全開なんだ。---fadeinPager---
今回はオープンモデルの「ヴォランテ」に乗ったんだけど、まずはキャンバストップに心をつかまれる。オープンにした後ろ姿は宝石を乗せたボートみたいなのね。そしてエクステリア同様に「DB11」から受け継いだ、普段乗りの軽やかさが素晴らしい。
着心地のよいジャケットとスニーカーで街に出る感覚があり、V8ユニットならではの乗りやすさは健在。「DB11」と同じメルセデスAMG製の4リッターV8ユニットながらカムシャフトを改良し、圧縮比と冷却システムを見直し、さらにターボを大型化することによって680馬力を弾き出す。
オープントップでワインディングを流せば、低くて乾いた排気音とともに進化を見せつける。アジリティに優れていてFR(後輪駆動)らしさが全開。ノーズが軽くてハンドリング精度が高くなっていて、コーナーを抜け出す際のグリップがしっかり制御されている。
峠ではおっとりしていた「DB11」と較べると隔世の感があるんだけど、理由は後輪にEデフを搭載してトルク制御を行っていることと、足まわりにハイスペックなアダプティブダンパーを組み込んだこと。ロールやダンピングの制御範囲を拡大することによって、速さよりも走りのマナーを強化している。いかにも英国の正統派ツアラーらしい走りで、秋摘み紅茶(ダージリン・オータムナル)のような成熟の味わいですよ(笑)
ステアリングからエンジンの鼓動が伝わってきていて、パドルシフトを使いつつ攻め込んでいくとアフターファイア音がさく裂する。そしてコーナーではパワーでねじ伏せるようにトルクベクタリングが効いている。V8ユニットの荒々しい息づかいとロールを許容する品の良い揺れが絶妙で、深みのある紅茶を愉しむようにうっとりするんだ(笑)。やっぱり秋のオープントップはグランツーリズモの至高形態ですよ。ホント夢みたいな時間だからね。---fadeinPager---
その運転体験をさらに印象的にしてくれるのが、刷新されたインテリアなのね。ふんだんに使用されたフルグレインレザーは、シートやドアトリムのみならずシフトスイッチにも巻き付けられている。ハンドクラフトによるグラデーションがつけられたステッチワークや、ウッドパネルとともに質感の高いアルミニウムがあしらわれていて、仕立ての心意気がにじみ出ている。
これ、インテリアのビスポークをやる気にさせるんですよ。オーナーなら「ちゃんとやらなきゃ」と心に誓うだろうクオリティ(笑)。個人的にもこのクルマで初めて、好きなパターンを選ぶんじゃなくて自分に合うパターンを探求してみたくなった。このスーパーツアラーが似合うとしたら、たぶん大事なのは年齢ではない。クルマでも家具でもスーツでも、自分に合わせるオーダーメイドに魅力を感じられるなら、それが新しい季節の到来なのかも知れない。
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アストンマーティン DB12 ヴォランテ
全長×全幅×全高:4,725×1,980×1,295mm
エンジン:V型8気筒ツインターボ
排気量:4,000cc
最高出力:680ps/6,000rpm
最大トルク:800Nm/2,750-6,000rpm
駆動方式:FR(フロントエンジン後輪駆動)
車両価格:¥32,900,000
アストンマーティン ジャパン
www.astonmartin.com/ja