JR東日本史上最大の開発へ、高輪ゲートウェイ駅前に「MoN Takanawa: The Museum of Narratives」が2026年春に開業

  • 文:久保寺潤子
  • 写真:齋藤誠一
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MoN Takanawa: The Museum of Narrativesのプロジェクトに携わる二人。左がJR東日本文化創造財団の内田まほろさん、右がJR東日本の出川智之さん。

現在JR高輪ゲートウェイ駅周辺では、大規模な開発が進められている。かつてJRの車両基地があったこの場所は、国際交流拠点となる高層の建物および複合文化施設等によって構成される「TAKANAWA GATEWAY CITY」という新たな街として生まれ変わる。その中でもひと際目を引く地上6階、地下3階建ての低層建築は、街のシンボル「MoN Takanawa: The Museum of Narratives(モン タカナワ: ザ ミュージアム オブ ナラティブズ)」として2026年春に開業予定だ。本施設の目的である100年先へ文化をつなぐ複合文化施設とはなにか? 同施設の企画・運営を手掛けるJR東日本文化創造財団の内田まほろさんと、JR東日本マーケティング本部まちづくり部門の出川智之さんが、プロジェクトの目的と想いについて語り合った。

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TAKANAWA GATEWAY CITYの詳細はこちら

-----新しい文化施設に込めた想いを教えてください

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内田まほろ●一般財団法人JR東日本文化創造財団 MoN Takanawa: The Museum of Narratives 開館準備室 室長。日本科学未来館で18年間科学とアートやデザインを融合した数多くの展覧会の開発に従事した後、2020年から本プロジェクトの立ち上げに関わる。
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出川智之●JR東日本マーケティング本部まちづくり部門マネージャー。JR東日本入社後、各地で駅ビルの運営・開発に携わり、2023年からTAKANAWA GATEWAY CITYでまちづくりを担当する。

出川:MoN Takanawa: The Museum of Narratives開館に先駆け、来年3月にまちびらきを行いますが、館内で実施予定のコンテンツを反映させた企画も含めさまざまな方にお楽しみいただけるようなイベントを考案中です。既に今年3月に開催した「TAKANAWA GATEWAY CITY まちびらき前年祭」ではかなり実験的な試みを行ったのですが、手応えを感じています。

内田:駅構内で突然プロのダンサーが踊り出して、周りの人を巻き込んで、まるでダンスフロアのようになっていましたね。

出川:DJブースを設けてナイトクラブのような空間も演出しました。新しい駅のカタチが提案できたと思います。

内田:文化施設のある街ですから、遊び心や美的なものに対する意識を打ち出していきたいですね。私たちが現在準備しているMoN Takanawa: The Museum of Narrativesは高輪ゲートウェイ駅から続くデッキで直接アクセスできる地上6階、地下3階の施設となる予定です。

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MoN Takanawa: The Museum of Narrativesの完成予想図。屋上庭園には日本全国から集めたさまざまな種類の植物が植えられる。

出川:実は、”MoN”という名前にはさまざまな意味合いが込められているんですよね。

内田:The Museum of Narrativesの頭文字を取ったものですが、”MoN”は日本語では「門」を想起させますし、ゲートウェイという駅名とも親和性があります。伝統とテクノロジー、アートとサイエンス、都市と自然、ライブ・パフォーマンスと展覧会など、さまざまな分野をつなぐゲートという意味。もう一つの“Narrative”(物語)には、この場所で生み出されるさまざまな物語を世界中の人と共有して未来へつなぐ、という意味が込められています。

出川:現在開発中のTAKANAWA GATEWAY CITYの土地は、もともとは当社の車両基地だった場所です。さらに時代を遡るとここは東京湾の一部でしたが、明治時代に日本初の鉄道が新橋―横浜間に開通した際には海上に築堤が設置され、その上を列車が走りました。その後も長らく車両基地として機能していましたが、特急列車や寝台列車などが段階的に廃止されたことや上野東京ラインの開通に伴い、13ヘクタールもの開発用地が生まれました。そのうちの約10ヘクタールに新たな街が誕生するわけです。ここは先代から受け継いだイノベーションの原点ともいえる場所です。そうした場所に文化施設を創り、文化という面からも100年先の心豊かなくらしに貢献できるようなイノベーションを発信していきたいと思っています。MoN Takanawa: The Museum of Narrativesは周辺地域も含めて、国内外の多くの人に開かれた場所になるでしょう。

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1871(明治4)年頃、海の上に設置された高輪築堤を描いた『東京八ツ山下海岸蒸気車鉄道之図』歌川広重=三代目/東京都立中央図書館所蔵
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品川駅方面から見たTAKANAWAGATEWAY CITY。2025年3月27日まちびらきにて、手前のツインタワー「THE LINKPILLAR 1」および高輪ゲートウェイ駅南改札が開業する。

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―――――どんなコンテンツを構想されていますか?

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TAKANAWA GATEWAY CITYの中でもひと際低層の建物が目を引くMoN Takanawa: The Museum of Narratives。写真右下には、敷地内にある高輪築堤の遺構が見える。

内田:人間は高度に進化した生活を送っている半面、戦争や孤独といった問題をずっと抱えている。だからこそ多様性とか他者への共感がとても大切だと思うんです。社会にはさまざまなカテゴリーがあり、それを深めていくのは素敵なことですが、これからはカテゴライズして深めるよりも、他ジャンルを掛け合わせて新しい価値を生み出すことが必要。MoN Takanawa: The Museum of Narrativesではジャンルの壁を壊す試みを率先して行うつもりです。具体的には展覧会やイベントに適した「BOX1500」、扉を自由に開閉できる実験空間「BOX300」、ライブやパフォーマンスに対応できる「BOX1000」、靴を脱いで寛げる「TATAMI」など、各空間はジャンルを決めずフレキシブルに使えるように設計しました。

出川:MoN Takanawa: The Museum of Narrativesは周囲の建物に比べると低層です。海からの風が通り抜けることで自然を感じることもできる、ヒューマンスケールな設計ですね。

内田:建物全体が緑に覆われていて、外装と内装が調和しているのも特徴です。中はゆるやかなスロープでつながっていて、5階からは歩いて屋上庭園まで移動できます。ホールはもちろん、楽屋もバリアフリーになっていて、鑑賞者だけでなく出演者にも対応しています。

出川:単なる貸し会場ではなくて、館全体をJR東日本文化創造財団が企画・運営しているのも特徴ですよね。

内田:はい。年に2回、シーズンテーマを設けてそれに関連する展覧会やライブ・パフォーマンスを企画・運営します。人類の未来を考える上で避けて通れない社会的なテーマから、音楽や言語、愛といった文化的なテーマまで幅広く扱っていく予定です。

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「地域から世界へ、ひいては地球の健康に貢献できる文化施設でありたい」と話す出川さんと内田さん。

―――――MoN Takanawa: The Museum of Narrativesが担うべき役割とはどういったものなのでしょうか?

出川:MoN Takanawa: The Museum of Narrativesが掲げるミッションは「100年先へ文化をつなぐ」です。初めて海上を鉄道が走ったイノベーションの原点の場所で文化を発信することはとても意義のあることだと思います。

内田:100年先を予想するのは難しいけれど、数カ月や数年後のことなら予想できる。そうやって少しずつ先を見据えながら、日本の文化や美意識を未来へつないでいけたらと。私たちは伝統的な日本文化を最新の技術や新しいプレイヤーとともに更新していきたい。相撲も歌舞伎も寄席も現代美術もクラブカルチャーも、垣根を取り払って気軽に楽しむことで、未来へつなげることができるのではないでしょうか。

―――――MoN Takanawa: The Museum of Narrativesをどのような街にしていきたいですか?

出川:TAKANAWA GATEWAY CITYは、羽田空港からもアクセスしやすい立地です。国際会議ができるコンベンションホールや、国内外の大学や研究所のラボ、入居する企業や国内外のスタートアップが協業できる場所を提供します。新しい生活価値を提案する商業施設やクリニック、国際基準の高級ホテルやレジデンス、インターナショナルスクールも建設予定で、住む・働く・遊ぶが一体となったまちづくりを進行中です。明治時代に鉄道が開通し、日本と西洋の技術が合流したイノベーション発祥の地で、国内外のあらゆる人・自然・文化とテクノロジーが掛け合わされ「いい未来」へ向けたサービスや価値を生み出していきたいですね。

内田:コスパやタイパという言葉が流行っていますが、ここではその真逆なことをやっていきたい。MoN Takanawa: The Museum of Narrativesを訪れた方々が、少しでも心豊かになったと感じられるようなサービスを届けたいと思います。

 

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TAKANAWA GATEWAY CITY サイト

www.takanawagateway-city.com