「大人の名品図鑑」アメリカ大統領編 #4
11月5日の決戦の日が迫っている。4年に一度行われるアメリカ大統領選挙の投票日だ。ドナルド・トランプ前大統領が再びその地位に返り咲くか、あるいはカマラ・ハリス副大統領が「ガラスの天井」を破り、女性初の大統領に選ばれるのだろうか。今回の名品図鑑は、歴代アメリカ大統領が愛用した名品を集めてみた。
メディアで多くの人がアメリカ大統領が署名するシーンを見ていると思うが、アメリカの議会では法案の署名に使用したペンを立法に貢献した人たちに贈る習慣があるようで、この習慣はトルーマン、あるいはルーズベルト元大統領の時代に始まったと言われている。YouTubeには法案の署名に際してホワイトハウスの職員が大量のペンを準備している動画が残されている。過去最多のペンを贈ったのは第36代大統領のリンドン・ジョンソンと言われている。64年の公民権法の調印式に75本ものペンを関係者に贈ったそうで、司法長官だったロバート・ケネディやキング牧師にも贈られたと聞く。大統領から贈られたペンとなると一生ものの記念品となるだろう。
2021年2月に配信した「大人の名品図鑑 政治家編」ではドワイト・D・アイゼンハワー元大統領が愛用した「パーカー51」のペンを紹介しているが、ジョージ・H・ブッシュ元大統領も同ブランドのペンを愛用したと言われている。レーガンやニクソン元大統領が愛用したのが、アメリカを代表する筆記具ブランドのシェーファー。日本の吉田茂元首相もこのシェーファーのペンを愛用していて、現在も世界の政治家たちや実業家たちに支持されている。
では最近の歴代アメリカ大統領たちはどんなペンを愛用していただろうか。第42代のビル・クリントンから第46代のジョー・バイデンまでの大統領に使われたのがアメリカのクロスで、「大統領のペン」とまで言われている。
---fadeinPager---
アメリカ大統領にも、国民的作家にも愛されるペン
クロスはアメリカで最も歴史がある筆記用具メーカーだ。英国のバーミンガムでペンシルを製造していたリチャード・クロスは開拓時代のアメリカに移民として渡り、1846年にロードアイランド州で会社を立ち上げる。当初は職人的な技術を生かして、装飾を施した金銀のペンシル用ホルダーを主につくっていた。その後、発明家でもある長男のアロンゾ・タウンゼント・クロスは父の先見性を受け継ぎ、シャープペンシルの原型と言われる「繰り出し式ペンシル」やボールペンの先駆けとなる「スタイルグラフィックペン」、伸縮自在の「望遠鏡式ペンシル」など、次々と革新的な筆記具を開発、特許も取得し、筆記用具業界に革命を起こしたアメリカ屈指の老舗筆記具メーカーだ。
第44代大統領のバラク・オバマが最初に使ったのは同ブランドの「タウンゼント ブラックラッカー ロジウムプレート」というモデルだ。その後「センチュリーⅡ クラシック ブラックラッカー ローラーボールペン」に持ち替えているが、オバマ元大統領が最初に使っていたモデルは、現在は廃番になっていると聞く。オバマ元大統領に続いて、第45代大統領になった共和党のドナルド・トランプも同じクロスの「タウンゼント クラシック ブラックラッカーセレクチップ ローラーボールペン」を使っている。報道などでもよく見るトランプ元大統領の直線的で極太の署名は、このセレクチップローラーボールペンで書いているらしい。彼はペン先を「ポーラス芯」と呼ばれるものに変えて書いているとも言われている。
余談だが、『怒りの葡萄』や『エデンの東』などの名作で知られ、62年にノーベル文学賞を受賞した、アメリカを代表する作家ジョン・スタインベックもクロスの愛用者のひとり。旅先から編集者に向けて書いた59年の手紙が残されいて、そこには「クロスのボールペンとリフィルをいますぐ送って欲しい。(中略)私はクロスのボールペンを愛用している。いつもクロスのペンとリフィルのスペアを持っていたいんだ」と書かれていたという。大統領だけでなく国民的作家をも魅了してきたアメリカ生まれのクロスのペン。ペン愛好家でなくても一度はその書き味を知っておくべきだろう。
---fadeinPager---
---fadeinPager---
---fadeinPager---
クロス・オブ・ジャパン
TEL:03-6264-9697---fadeinPager---