モードに挑む古着リメークのブジガヒル、アフリカに戻ったデザイナーが社会を見つめる【着る/知る Vol.185】

  • 写真・文:一史
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自身のブジガヒルを着たファッションデザイナーのボビー・コラド。2024年10月撮影。

ブジガヒル(BUZIGAHILL)の服を前情報なしに目にしたら、古着のリメークと気づけないかもしれない。モードに匹敵する洗練された服だからだ。複雑にカットされつなぎ合わされた服は、ステッチもつなぎ目も新品同様に美しい。生地にもしっかりと高級感があり、汚れた箇所も見られない。着古した風合いも一部のデニムアイテムに限られる。
モードブランドでのリメークやコラージュ手法では、メゾン マルジェラやヴェトモン(現バレンシアガのデムナ・ヴァザリアが立ち上げたブランド)がよく知られる。ブジガヒルを運営するデザイナーのボビー・コラド(Bobby Kolade)も、ドイツでファッションを学んでいた大学時代にメゾン マルジェラ、バレンシアガのデザインチームに参加した経験を持つ。偉大な先人たちの現場を肌で感じた先に、独自のクリエーションに行き着いた。実はこの古着を使うブランドコンセプトは、ボビーが育ったウガンダのファッション事情と密接に結びついている。
この記事でお届けするのはブジガヒルの最新コレクションと、来日したボビーへのインタビュー。さらに記事終盤には髙島屋で行われたポップアップショップと、ウガンダを訪れた髙島屋のバイヤーの動画も掲載。ぜひ最後までお見逃しなく!

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古着リメークの通念を覆すクリーンでグラフィカルな服。「SO WHAT?(だから?)」を取り付けたシャツ、ロゴ部分を切り抜いてしまったキャップのようなユーモアも。パンツは横のスナップボタンを大胆に外して女性がクールに穿いても似合いそうだ。

ブランドを理解するのに知っておきたいのがボビーのこれまでの経歴。アフリカのスーダンで生まれ、ナイジェリア、ウガンダで育った。父親がドイツ人なこともありドイツに留学。大学でファッションを学んでパリの一流メゾンの扉を叩いた。そこで採用されたのだから実力とセンスが買われたに違いない。
「そうですね、デザインチームに加われたのはラッキーでしたよ」
そう軽く笑うボビーは約2年の間でメゾンの服づくりを体感。しかしモード最前線の現場は彼にはあまり居心地がよくなかったようだ。
「ハッピーな気分でいられませんでした。大手メゾンはわたしには合わないと感じて」
大学で修士号まで取得したのちに、ドイツで自身のブランドを立ち上げた。ところが目指すサステイナブルな服づくりを実現できず事業を断念。育ったウガンダに帰国することに。

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2025年春夏コレクション。すべて生地が異なる1点モノだが、定番的に毎シーズンつくられる基本型のデザインも多い。
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展示会にて新作を手に取るボビー。
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アップで見ると構造の複雑さ、ステッチの丁寧さがわかる。これはブルーの服を中央でV字型にカットし左右に広げ、ボルドーの別の服をセットしたデザイン。ブルーの服のポケット上のステッチは新たに縫われたもの。ボルドーの服もパーツをカットしただけでなく再構築されている。

ウガンダの産業のひとつであるコットン関連の仕事に就き、自身のブランドを立ち上げる計画を練った。そのときボビーの頭に浮かんだのが、自国の産業とファッション事情とに深く関わるブランドにすること。
「ウガンダは良質なコットンの産地です。でも約95%は輸出用です。国民の約80%は古着を着ているのです。古着の輸入は国全体が取り組んでいることで、それ自体は間違っていません。一方でその古着を素材として使い、世界に通用するファッションを生み出せたら、衰退してしまった産業のインフラを新たに整えられると考えました。古着をアップサイクルするのは自分らしいファッションデザインでもあり、社会的にも意義のあることなのです」
こうして22年にウガンダの地区名から名付けたブジガヒルをスタートさせた。

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上に掲載したフーディと同様の手法による一着。新品と見間違う洗練された品のいい服だ。
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数着のシャツがミックスされたポンチョのような形のマルチシャツ。スナップボタンで身頃を前後にセパレートできる。何通りにも自由に着こなせるのもブジガヒルの特徴のひとつ。

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背中合わせに前後で2着のシャツを縫い付けたドッキングシャツ。どちらでも着用可能。モードの歴史には同様のアイディアの服があるが、ブジガヒルはお洒落に完成させている。

気になるのはヨーロッパで満たされなかった心が、いまはどうなっているかということ。彼が次のように答えた。
「もちろん、いまはハッピーです!会社を運営するのはたいへんで、単に楽しんでいるだけではありませんが。ブジガヒルを高く評価してくれる日本にこうして来ることもできましたし、ビジネスも安定していければと願っています」

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裏面を表に使ったトレンチコート。縫い目をほどいたほつれをグラフィカルな視覚効果に活用している。

初来日となる今回は、仕事の場である東京に加えて京都にも足を運んだ。いい収穫は得られただろうか?
「京都は素晴らしい都市です。中心部の都会を少し歩くだけで、突然目の前に古い建物やテクスチャーが現れます。そのコントラストがとてもいいですね。古く大きな寺や神社を訪れたのもいい体験でした。食で印象的だったのは抹茶のスイーツ。アイスや白玉が入っているものです。ファッションでよかったのは日本の和装を扱う古着店。いい刺激を受けました」
ブジガヒルの服は派手さが控えめでストイックでもある。細部にわかりにくい凝った仕事が込められている。ボビーの志向は我々と似ているのかもしれない。
「初めて日本に来て、歴史が長く古き良きものを大切にしていることを実感しました。過去と現在をミックスするやり方は、古着リメークのブジガヒルと共通する考え方です」

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デニムジャケットも人気アイテムのひとつ。全体を彩る黒いフリンジのようなラインは、洗濯で色落ちしていない端を解体して引っ張り出し繋ぎ合わせたもの。

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ブジガヒル×髙島屋の強力なタッグ

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10月に髙島屋 横浜店で開催されたブジガヒルのポップアップショップにて。左は担当する岩佐バイヤー。

ブジガヒルとのコラボレーションに日本の店でいち早く手を上げたのが、百貨店の髙島屋が運営する自主編集ショップのCSケーススタディ。バイヤーたちがウガンダに渡航してアトリエを訪問するほどの熱の入れようだ。ボビーいわく、
「世界の店でアトリエにまで来てくれたのは髙島屋が初めて。感激しています。お客様と直接関わる独自の取り組みができたのも嬉しいことです」
その取り組みとはCSケーススタディが顧客から古着を預かり、ブジガヒルがリメークするもの。完成した服は預けた顧客が受注品として受け取れる(買い取る)。いわば古着リメークのパーソナルオーダーシステムである。さらに制作過程で余った生地で別のリメーク服も数着つくれるため、それを一般販売することにもなった。元は自分の服だったアイテムを見知らぬ誰かが購入して着るという、循環型のファッションビジネスに顧客が参加するイベントだ。

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岩佐バイヤーがトライしたのは、ボビーが「似合いそう」と選んだデニムジャケット。 ¥66,000

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「RETURN TO SENDER(送り主へ返す)」とは、ブジガヒルの活動の軸になる指針。

ブジガヒルを担当する岩佐脩平(いわさ・しゅうへい)バイヤーにも念願の企画のようだ。彼がいきさつを次のように語った。
「先進国からアフリカに送られた古着をアップサイクルして、異なる付加価値を与えて再び先進国に送り返し販売する『RETURN TO SENDER』のコンセプトに共感して、ブジガヒルとの取り組みをはじめました。お客様の私物の古着を活用するCSケーススタディが考案した企画独自にもご協力いただいています。ファッションのバイヤーとして、服の産業が抱える問題もお客様にお伝えすべきと考えはじめていたときにボビーさんと出会い、このように協業できて本当に嬉しいです」

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顧客の古着をリメークしたとき余ったパーツを再活用した、一般販売用のフーディ。¥58,300

ボビー自身も望ましい服づくりが実現できたようだ。
「お客様のためにつくるパーソナルな服づくりは、大手メゾンの既製服ではなかなかできないこと。一人ひとりに特別な服をお届けすることをやりかったのです。理想的、100%そう言い切れる服づくりです」

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ブジガヒルはグッズ類も得意。左は短冊状にTシャツをカットした約120本を手作業で結びつけたかごバッグ。¥22,000、右はカットソー素材のパッチワークストール(商品名はスカーフ)。¥49,500

CSケーススタディ×BUZIGAHILL “RETURN TO SENDER”プロジェクト

このYouTube動画は、岩佐バイヤーがウガンダのアトリエを訪れたときの様子。ブランドの理解が深まる6分56秒の映像なのでぜひご視聴を。
ブジガヒルの商品はポップアップショップ終了後も全国のCSケーススタディで販売される。日本ではもっとも品揃えが豊富だ。なかでも種類が多い店舗が、髙島屋 横浜店と大阪店。まずはこの両店からお気に入りの1点モノを探し巡ってはいかがだろうか。

ブジガヒル

https://buzigahill.com

CSケーススタディ

www.takashimaya.co.jp/store/special/casestudy

 

高橋一史

ファッションレポーター/フォトグラファー

明治大学&文化服装学院卒業。文化出版局に新卒入社し、「MRハイファッション」「装苑」の編集者に。退社後はフリーランス。文章書き、写真撮影、スタイリングを行い、ファッション的なモノコトを発信中。
ご相談はkazushi.kazushi.info@gmail.comへ。

高橋一史

ファッションレポーター/フォトグラファー

明治大学&文化服装学院卒業。文化出版局に新卒入社し、「MRハイファッション」「装苑」の編集者に。退社後はフリーランス。文章書き、写真撮影、スタイリングを行い、ファッション的なモノコトを発信中。
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