プリンターを駆使してウェイド・ガイトンが「描く」作品世界とは? エスパス ルイ・ヴィトン東京にて個展が開催中

  • 文:はろるど
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エスパス ルイ・ヴィトン東京で開催中の『ウェイド・ガイトン – THIRTEEN PAINTINGS』展。アメリカのアーティスト、ウェイド・ガイトンの13点の絵画からなる作品《Untitled》(2022年)が世界で初めて公開されている。絵画の従来的な限界に挑戦すべく、プリンターを絵筆に見立て、プリントして「描く」というガイトンの作品の見どころとは?

大型キャンバスにインクジェットプリンターを使って制作!

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『WADE GUYTON – THIRTEEN PAINTINGS』 エスパス ルイ・ヴィトン東京での展示風景(2024年) 《UNTITLED》2022年 13点の絵画、リネンキャンバスにエプソン製UltraChrome HDXによるインクジェットプリント Courtesy of the artist and Fondation Louis Vuitton, Paris Photo credits: © Jérémie Souteyrat / Louis Vuitton

1972年、インディアナ州に生まれたウェイド・ガイトン。2000年代の初頭からニューヨークの若手アートシーンで中心的存在となると、絵画から離れて、既存のカテゴリーに収まらない表現のあり方を追求し続けている。創作に用いるメディアと素材は、写真や彫刻、映像、書籍、紙に描いたドローイングなどと多彩。そのうち最も知られているのが、大型キャンバスにインクジェットプリンターを使って制作した作品だ。今回展示された《Untitled》は、すべてエプソン製プリンター SureColor P9000を用いて制作されたもの。絵画なのかデジタルのプリントなのか、その間を行き来するような表現に魅力が感じられる。

印刷のエラーやインクの液垂れといったノイズも作品へと取り込む

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『WADE GUYTON – THIRTEEN PAINTINGS』 エスパス ルイ・ヴィトン東京での展示風景(2024年) 《UNTITLED》2022年 13点の絵画、リネンキャンバスにエプソン製UltraChrome HDXによるインクジェットプリント Courtesy of the artist and Fondation Louis Vuitton, Paris Photo credits: © Jérémie Souteyrat / Louis Vuitton

ガイトンの作品の制作プロセスとは…?半分に折ったキャンバス布をエプソンの大型インクジェットプリンターに通し、さらに裏返して何度も印刷を重ねる。するとモチーフや文字を重ねて印刷していく過程で生じるエラーやインクの液垂れ、さらにミスプリントが生じるが、そうしたノイズも画面に広がる構成要素として取り込み、作品として仕上げていく。あえてキャンバス布を半分に折る理由は、それ以上の大きさのキャンバスは物理的にプリンターに入らないから。一度、プリントしながらも、乾き切っていないキャンバスや、床へ丸めて置いてインクがついたりしたキャンバスも再びプリントするという。

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スクリーンショットからアトリエの写真、自作を拡大したテクスチャーまで

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『WADE GUYTON – THIRTEEN PAINTINGS』 エスパス ルイ・ヴィトン東京での展示風景(2024年) 《UNTITLED》2022年 13点の絵画、リネンキャンバスにエプソン製UltraChrome HDXによるインクジェットプリント Courtesy of the artist and Fondation Louis Vuitton, Paris Photo credits: © Jérémie Souteyrat / Louis Vuitton

 

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ウェイド・ガイトン エスパス ルイ・ヴィトン東京にて、2024年 Photo credits: © Jérémie Souteyrat / Louis Vuitton

キャンバスに現れるモチーフへと目を向けてみたい。そこにはウクライナでの戦争やフランス大統領の訪米などを伝える『ニューヨーク・タイムズ』のウェブサイトのスクリーンショットをはじめ、ガイトンがニューヨークのバワリーにあるアトリエで撮影した写真や床に置かれたキャンバス、制作途中の作品から滴るインクなどのイメージを見ることができる。中には抽象絵画を思わせる表現も広がっているが、それは自らの作品を大きく拡大して作られたテクスチャーだ。ガイトンは「私の作品は版画であり版画ではなく、写真であり写真ではなく、絵画であり絵画ではなく、この不確かな状態にあることを心地よく感じている」と語っている。

開放感のあるエスパス ルイ・ヴィトン東京の空間を効果的に利用

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『WADE GUYTON – THIRTEEN PAINTINGS』 エスパス ルイ・ヴィトン東京での展示風景(2024年) 《UNTITLED》2022年 13点の絵画、リネンキャンバスにエプソン製UltraChrome HDXによるインクジェットプリント Courtesy of the artist and Fondation Louis Vuitton, Paris Photo credits: © Jérémie Souteyrat / Louis Vuitton 

アトリエにて撮影された制作中の作品が実際に展示されていたり、リノベーション中のアトリエから見えるニューヨークの景色が、会場のガラス窓から望む東京の街へと重なっているように映る本展。展示プランを練る際に建築空間を綿密にリサーチするガイトンは、今回も例えば作品を設置した白いバーを天井のライトを支えるものと同一にするなど、エスパス ルイ・ヴィトン東京の空間を活かした展示を行っている。アメリカ芸術文学アカデミー(2014年)といった数々の賞を受賞し、パリ市立近代美術館(フランス、2023年)やプラダ財団(ヴェネツィア、2021年)など、ヨーロッパでも数多くの個展やグループ展を開く、ガイトンの日本初個展を見逃さないようにしたい。

『ウェイド・ガイトン – THIRTEEN PAINTINGS』

開催場所:エスパス ルイ・ヴィトン東京
東京都渋谷区神宮前5-7-5 ルイ・ヴィトン表参道ビル7階
開催期間:開催中〜2025年3月16日(日)
https://www.espacelouisvuittontokyo.com/