虎ノ門ヒルズにあるTOKYO NODE HALLで12月27日まで開催中の没入型音楽ミュージアム『MUUUSE（ミューズ）: MUSIC MUSEUM〜音に触れる、光を聞く。身体が反射する。〜』。地上45階の天空のギャラリーを会場に、新たなフェスとも呼べる音楽体験を提供するこのイベントは、2016年に在京FMラジオ局であるJ-WAVEがスタートしたテクノロジーと音楽のフェス『J-WAVE INNOVATION WORLD FESTA（通称イノフェス）』の進化版と言える。

昨年、8回目の開催を終えた時、総合プロデューサーを務めるJ-WAVE取締役の小向国靖は、「フェスとしてのひとつのかたちは完成したので、さらなるイノベーションが必要なのではないかと感じた」と話す。

「これだけ技術が進化しているのですから、アーティストにパフォーマンスをしてもらい、それを私たちがデジタルで真空パックすれば、通常のフェスのように同じ日にアーティストをブッキングしなくても、いつでも誰でも見に来ることができる新しいフェスができるはずだと考えたのです」

去年のイノフェス初日の会場がTOKYO NODE HALLだった。関係者同士が互いに手応えを共有し、近い将来、改めてコラボレーションをしたいと話していたことを思い出した小向は、「デジタルで真空パックしたフェス」の会場は、展覧会開催のプロフェッショナルであるTOKYO NODEこそが最適だと考えた。その後、今年に入ってから本格的に企画会議を行い、共同で開催することが決まったのだという。

会期が始まる2日前にはプレスプレビューが行われ、参加アーティストのひとりであるTM NETWORKの小室哲哉と、MUUUSEアンバサダーも務める水曜日のカンパネラの詩羽が記者会見に登場した。

小室は、「世界各地にアートフェスがありますが、ここまで音に特化したアートフェスのような体感型ミュージアムが東京のど真ん中に登場するのは、音楽家としてすごく嬉しいことです。明日からでも自分たちのライブで使いたいと思えるライティングが使用されていましたし、音と映像のシンクロ感には驚きましたね」と感想を語った。

いっぽう詩羽は、「水曜日のカンパネラも『木曜日のカンパネラ』という企画で参加することになったのですが、私たちの音楽とAIが組み合わさり、どんなものがつくられるのだろうとすごく楽しみにしていました。実際に展示を体験すると、光が無限に広がる中に音が展開するような空間で、ずっと体験したくなる感覚を覚えましたし、とても感動しました」と感激した様子だった。

---fadeinPager---

過去・現在・未来を表現する、３つのギャラリー

ギャラリー A「自然の記憶」は、ビッグバンに始まる太古からの記憶を映像で表現した天球型のプロジェクションマッピングと、蓮沼執太が自然音や自然現象から着想して手がけた音が連動するインスタレーション。中心に置かれた球状のLED装置に手をかざすと映像が新たな展開を見せ、壁面のプロジェクションマッピングにその展開が反映されてイメージが広がっていく。

壮大でインタラクティブな音響映像体験の軸となるのが、この球状のデバイスなのだ。床に置かれたクッションに身を沈め、天球型のプロジェクションマッピングと音のつながりに没入してほしい。光と音で満たされた空間に、まさに溶け込んでいくような体験が味わえるはずだ。

続くギャラリー Ｂのテーマは「歌と感情」。アーティストの和田永が率いる「エレクトロニコス・ファンタスティコス！」の祭りのインスタレーションから展示が始まる。

「エレクトロニコス・ファンタスティコス！」の祭りの展示を抜けると、24m×4.5mの巨大LEDディスプレイが設置された大空間に、まさに「真空パックしたパフォーマンス」が展開する。TM NETWORK、YOASOBI、THE YELLOW MONKEY、角野隼斗、nævis（ナイビス）、UVERworldら現代を代表するアーティストの楽曲が、合計約40分ほどのステージ体験として生み出されているのだ。

各バンドのライブ映像に加え、ピアニストである角野隼斗の武道館リサイタルを22台のカメラで撮影した映像や、aespa（エスパ）の世界観から生まれた、バーチャルアーティストのnævis（ナイビス）によるリアルとバーチャルの垣根を超えたパフォーマンスなどが音と映像として繰り広げられる。まるでアーティストのステージに参加しているような音楽没入体験が生まれるのだ。これは従来のライブとは異なり、音楽とテクノロジーのフェスだからこそ可能となる、ここだけのエクスクルーシブな音楽体験だといえるだろう。

ギャラリー Bを抜けると、クルマの走行音を利用した音楽と照明の運動を楽しむ展示や、画像からAIがオリジナルの楽曲とジャケット写真を生成する『PixTrax』という画期的な展示が並ぶ。

「未来への実践」がテーマのギャラリー Cも圧巻だ。水曜日のカンパネラのケンモチヒデフミとAR三兄弟の川田十夢が共同でプロデュースする。水曜日のカンパネラの曲をAIに学習させ自動生成した楽曲の数々が、1日先の未来を拡張した「木曜日のカンパネラ」の曲となり、次世代の演出技術であるファイバービームによる光の表現と相まったインスタレーションとなる。

光ファイバーにより加工された特殊な光が自在に照射され、身体感覚を伴って味わえる光の躍動が、「木曜日のカンパネラ」の楽曲と組み合わさる新感覚の音楽体験だ。

音楽とテクノロジーが融合する『イノフェス』が、開始から8年を経てここまで進化しているのかと、没入型の展示を体験し終えた後、興奮が蘇ってくる。ぜひ、地上45階に位置する天空のギャラリーに向かい、音と空間に時間感覚までもが溶け込むような没入型音楽ミュージアムを体感してほしい。従来のフェスともVRで味わえるのとも異なる未来型の音楽フェスの形が、想像力を大きく刺激するはずだから。