ロールス・ロイスが、2024年10月に発表した新型車「ゴースト・シリーズⅡ」。興味深いのは、荘厳な雰囲気ではなく、スポーティさを前面に押し出したデザインにある。これが最新のロールス・ロイスの製品戦略なのだろう。
私は11月に、南仏はエグザンプロバンスのアートホテル「ビラ・ラコストVilla La Coste」を舞台にした、メディア向けテストドライブに参加した。ぱっと見での印象は、たしかに軽快さを感じさせるものだった。
スポーティさを感じさせる大きな要素がフロントマスクだ。ひとことでいうと、ずいぶんすっきりした意匠になった。ロールス・ロイスのエクステリア・デザイン責任者ジュリアーヌ・ブラシ氏の言葉を借りると「モノリシック(ひとつのかたまり)」を意識したのだそう。
「ロールス・ロイスの基本理念 であるセレニティ(静寂性)、エフォートレス( 軽快さ)、エレガンス(優雅さ)を凝縮した」のが、今回の「ゴースト・シリーズⅡ」のデザインコンセプトという。
従来の「シリーズⅠ」と較べると、装飾的要素はかなりそぎ落とされ、ヘッドランプまわりの処理も、バンパー一体型グリルもすっきり。そのぶんたしかに、面に張りが出て、凝縮感からくる強さが感じられるようになっている。
実際、今回のマイナーチェンジは、オーナーの90パーセントが自分で運転するというゴーストのマーケットを意識したものだそう。「シリーズⅡ」ではOS(オペレーティングシステム)も、SUVの「カリナン」やピュアEVの「スペクター」で採用されている新世代になり、ドライブ中の音声入力などの使い勝手が上がっていることが強調されている。---fadeinPager---
ドライバーズカーといっても、ピュアスポーツではなく、そこはロールス・ロイス。内装は黒一色のスポーティなもの(も選べるけれれど)というより、明るく、気分が浮き立つような仕様がいろいろ用意されている。
特に「ゴースト」はシリーズⅡになって、カリナンで導入されたレーヨン素材のデュアリティ・ツイルもリストに入れられた。格子とカギのパターンが刺繍された模様と、複雑な色使いが特徴的で、年齢が若返っているこのクルマのオーナー層に好評だそう。
ロールス・ロイスで面白いのは、外装と内装。ほかの車種ではなかなか見られない、同社ならではのデザインで仕上げられている。たとえば外装では、ルーフとボンネットとブートリッド(トランク)の部分と、ボディ本体とことなる色での組合せが可能な点。そのコンビネーションを選ぶだけで、気が遠くなりそうな数がある。
内装も同様。レザーや先述のデュアリティ・ツイルをはじめ、数多くの素材が選べる。ロールス・ロイスでは、プレタポルテ的に内外装の組合せを数種類用意している。
私が乗った車両は「イノベーター(革新者)」なるパッケージ名が付いていた。ほかには「インディバー(困難の克服)」や「エンカウンター(思いがけない出合い)」といったパッケージの車両があった。
「イノベーター」はセマフォ(信号)イエローの外装色に、明るい色の内装の組合せ。シートはチャールズブルー、レモンイエロー、それにグレースホワイトの3色で構成されていて、ダッシュボードはオープンポア(木目を強調した塗装)のブラックウッドが使われていた。
エンジニアリングの面では、「シリーズⅠ」と数値は共通。6,750ccのV型12気筒エンジンは、420kWの最高出力と850Nmの最大トルクを発生して、前後輪を駆動する。この強大なトルクを利用して、「ゴースト・シリーズⅡ」は、ほんのわずかにアクセルペダルを踏み込んだだけで、すーっと加速。電子制御されたサスペンションシステムは、カーブではしっかりと車体の姿勢を保持する働きをするし、直線ではふわーっとよい乗り心地をもたらす。
ロールス・ロイスでは、「ワフタビリティ」という造語で、独自の設定を説明。パワフルなモーターを搭載した船が、ないだ湖面をすーっと進んでいくような乗り心地が、ロールス・ロイス車の持ち味なのだ。「ゴースト・シリーズⅡ」でも、どんなふうに走ってもリラックスした気分が味わえるのが、ほかにはない特長だ。
先に触れたセマフォイエローの車体に明るい内装色という軽快な色づかいは、冬でも暖かくロールス・ロイスの創業者も避暑に訪れていたという南仏の地のドライブにおいて、気分を盛り立てくれた。---fadeinPager---
今回、同時に「ゴースト・シリーズⅡエクテンデッドホイールベース」(全長5,715mmにホイールベース3,465mm)が発表された。ドアの幅を含めて後席の重要性が増したモデルで、ワインクーラーもオーダーできる。それでも「自分で操縦するひとが多い」(広報担当者)というから、面白い。
運転がより好きなひとに向けて、さらにもう1車種が用意されている。「ブラックバッジ・ゴースト・シリーズⅡ」。ロールス・ロイスのオーナーの平均年齢をぐっと下げるのに貢献した「ブラックバッジ」仕様である。
パンテオングリルやその上に立つスピリット・オブ・エクスタシーが黒い仕上げになるし、車内にはブラックバッジの象徴であるインフィニティの模様が入る。
最高出力で30kW高く、最大トルクでは50Nm太いのが、ブラックバッジ・ゴースト。足まわりがよりしっかりと設定されている。ゴースト・シリーズⅡでは「LOW」モードがあり、シフトレバーのボタンを押すと、ギアの変速タイミングが遅くなり、よりするどい加速が得られる。ブラックバッジにはよく合った機能だ。
世の趨勢はSUVだし、ロールス・ロイスでもっとも売れている車種はカリナン。でも「セダンはこの先も大事にしていく」と、南仏であったプロダクトマネージャーはきっぱりと言う。加えて「12気筒エンジンも環境適合性を加えながら出来るかぎり提供していきたい」そうだ。「ゴースト・シリーズⅡ」に乗ると、その姿勢を応援したくなる。よく出来たセダンなのだ。
ロールス・ロイス ゴースト・シリーズⅡ
全長×全幅×全高:5,545×1,998×1,573mm
ホイールベース:3,295mm
駆動方式:全輪駆動
最高出力:420kW(571ps)@5000〜6000rpm
最大トルク:850Nm@1600〜4250rpm
車重:2,490kg
価格:¥38,754,040(ベース価格)
問い合わせ先/ロールス・ロイス・モーター・カーズ
www.rolls-roycemotorcars.com