ランボルギーニはなぜカッコいいのか?  新型「テメラリオ」のお披露目でデザインディレクターが明かした舞台裏とは

  • 文:小川フミオ
  • 写真:Automobili Lamborghini
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ランボルギーニ自身の手でレストアされたオリジナル「クンタッチ」。

ランボルギーニは、誰が見てもすぐわかる。1974年の「クンタッチ」から最新の「テメラリオ」にいたるまで、デザインDNAを大切にしているからだ。さきごろ来日した、デザインディレクターのミティア・ボルカート氏が語るランボルギーニのデザイン哲学が面白かった。

_T2A0907のコピー.jpg多くのデザイナーを輩出しているフォルツハイム大学で学んだボルカート氏。(写真:ランボルギーニジャパン)

ミティア・ボルカート氏は、2016年に、ボローニャ近郊サンタガタにあるランボルギーニ本社に隣接したチェントロスティーレ(スタイリングセンター)に入り、いまはデザインディレクターの肩書きでデザインを統括している。

ランボルギーニの前はポルシェでエクステリアデザインディレクターを務めていて、「パナメーラスポーツツーリズモ」、「ボクスター(987のフェイスリフト)」、「カイエン」、「マカン」、「ミッションE」などを手掛けてきた。

b-Copy%20of%20_38A2911.jpgポルシェ「ミッションE」はボルカート氏がポルシェ時代に手掛けた1台。(写真:Porsche)

フォルクスワーゲングループのデザインを統括していたワルター・デシルバ氏による人事で、ランボルギーニのチェントロスティーレに移籍してからは、「ウルス」と「レヴエルト」、それに今回の「テメラリオ」という量産(といっても数は多くないけれど)モデルを担当。

ランボルギーニのプロダクトは、発表されると決まって、大いなる話題を提供してきた。理知的でいてエモーショナル。各所に天才的なひらめきを感じさせつつ、機能性が失われていない。---fadeinPager---

603254.jpeg2021年にボルカート氏が送り出したクンタッチへのオマージュ「LPI800-4」。

「ランボルギーニのデザインが万人向けでないのは意図的です。そうしないと、図抜けた存在になりませんから。クンタッチを世に出した70年代は、高性能のスポーツカーといえばフェラーリとポルシェぐらいしかありませんでした」

でも、いまはちがいます、とボルカート氏。米国のモンタレー・カーウィークや、英国のグッドウッド・フェスティバルオブスピードといったイベントに登場する最新のスーパースポーツカーの数の多さを挙げる。

647734.jpeg2023年に米モンタレーでお披露目された「ランザドール」は次世代のSUVともうわさされる。

「そこにあっても、一目でランボルギーニとわかるクルマをデザインしなくてはなりません。スーパースポーツカーのデザインにもある種のトレンドがありますが、ランボルギーニのデザインはあえて一線を画しています」

503521.jpeg2017年にマサチューセッツ工科大学で初公開された電動の「テルツォミレニオ」。

多くのハウスデザイナーたちがある方向へ流れていくなら、ランボルギーニのデザインは逆へと向かいます、とボルカート氏は、自信に満ちた態度を見せながら言う。

「いまの世のなか、情報があふれていますから、私たちのデザイナーも知らず知らずのうちに、ある種のトレンドに意識が侵されるようなことだってあります。それはデザインプロポーザルに表れます。そんなとき私はずけずけと言うことにしています。オーケイ、きみたち、このデザインはアレに似ていないか、こっちのデザインはあっちのアレだな。いいかい、私が欲しいのは、タイムレスなデザインなんだ、と」

タイムレスなデザインこそ、ボルカート氏がランボルギーニの造型で常に意識していることだ。---fadeinPager---

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国立競技場で発表された「テメラリオ」とキャボルカート氏。

「ランボルギーニのデザインDNAは、シンプルな輪郭、すっと伸びたアクセントライン、大きく寝かされたウインドウ、宇宙船のようなリアビュー、といったもので表されます。そして、私が常に念頭に置いているのは、クンタッチのデザインがいまも古びて見えない事実です」

最新のランボルギーニも、ここで説明してくれたデザインDNAをこめて造型したつもりです、とボルカート氏。それが「テメラリオ」で、2024年11月30日の「ランボルギーニ・デイ・ジャパン」開催のタイミングで、アジアパシフィック地区として初めて東京・国立競技場でお披露目されたのだった。

654508.jpegベルデ・メルキュリウスなる緑で塗られたテメラリオのアレッジェリタ(軽量)パッケージ車。

「テメラリオ」は、最高速は時速340kmに達し、静止から時速100kmまでの加速はわずか2.7秒、かつ、エンジンは、量産型スポーツカーとしては初めて(ランボルギーニ)1万回転まで回る、とスーパーぶりが喧伝される。

Lamborghini 37のコピー.jpg国立競技場でスピーチをするステファン・ヴィンケルマンCEO。(写真:ランボルギーニ・ジャパン)

一方、プラグインハイブリッド化が進むランボルギーニの現在のラインナップにおける3台目(あとの2台は「レヴエルト」と「ウルスSE」)。本社のステファン・ヴィンケルマンCEOによると「技術的にもスタイル的にも並外れたクルマ」とされる。

639362.jpegプラグインハイブリッドの第1弾が「レヴエルト」。

「テメラリオのサーフェストリートメント(ボディ面の造型処理)は、これまでよりクリーンで、ラインも整理しました。同時に私が、これまでのテルツォミレニオやランザドールといったコンセプトモデルで追求した広めの室内空間という考えも、テメラリオに導入しています」

ボルカート氏は、スーパースポーツにもある程度の実用性を整えている。そういえば、かつてランチアがストラトスという強力なラリーマシンを開発した際、ドアの内側にはヘルメットが入る大きなポケットがあったのを私は連想した。

ランボルギーニ車のアイコンである六角形とY字のモチーフは各所にちりばめてある。たとえば、リアコンビネーションランプも六角形。このこだわりがおもしろい。---fadeinPager---

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テルメラリオ(かつてマドリードにいた猛牛の名)はエンジンヘッドが見え、タイヤも大きく露出したデザイン。

「さらに注目していただきたいのは、モーターサイクルとの関連性をデザイン的に強調した点です。とくにリアビューなんですが、エンジンヘッドが見えるようにデザインしています。これはレヴエルトでも採用した手法です。テメラリオではさらに、後輪のタイヤがむき出しに見えるようデザインしました。エンジンとタイヤという、走りに関連する要素を強調したのが、あたらしい点です」

国立競技場でのお披露目には、2台の「テメラリオ」が並べられた。グリーンの車両は“アレジェリータ」パッケージと呼ばれるもので、イタリア語で軽量を意味する。

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国立競技場では標準(右手前)とアルジェリタパッケージの2台がお披露目された。(写真:ランボルギーニ・ジャパン)

ランボルギーニでは「サーキットで乗りたいひとのために」といい、カーボンファイバー部品の使用を増やして、25kgの軽量化とともに67%もダウンフォースを増加させている仕様だ。

ボルカート氏によると「好きな戦闘機のイメージ」だそう。自動車のデザインはまだまだエキサイティングになっていく余地ある。そう感じさせてくれるランボルギーニだった。

_Q5I0297のコピー.jpgV12でもバッテリー駆動でもランボルギーニのデザインは基本的に同じと語るボルカート氏。(写真:ランボルギーニ・ジャパン)