360年を超える歴史を誇る、山口県の深川萩。日本の茶の湯文化を支えてきた窯元を襲名したばかりの、十六代坂倉新兵衛のもとを訪ねた。
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萩焼の名窯が代替わり。若き当主が見た新しい景色とは
楽焼や唐津焼とともに、日本有数の茶陶として知られる萩焼。なかでも、山口県長門市深川(ふかわ)三ノ瀬(そうのせ)地区では、この自然豊かな山間の登り窯でつくられるものは「深川萩(ふかわはぎ)」と呼ばれ、多くのファンを惹きつける。そんな深川萩の名窯のひとつ、坂倉新兵衛窯が2024年に代替わりを発表。1983年生まれの若き当主の誕生に注目が集まっている。
「ここで生まれ、幼い頃から焼き物に親しんでいたので、大人になるまでは自分の置かれている環境がいかに特別で貴重なものかをきちんと認識できずにいました」
穏やかで朴訥した表情の中に上品さを湛える深川萩。焼き締まりの少ないざっくりとした“土っぽさ”が魅力だ。どのように作陶すれば土が持つ本質的な魅力を伝えられるか、悩んだ時期もあった。
「試しに山に分け入り、自分で掘り出した土と、曾祖父が残した萩焼の原土とを混ぜ合わせて焼いてみたら、とてもいい土の表情が出ました。時折立ち止まり俯瞰して見て、いまあるものも活かすことで、新しい景色が見えるのだと気付きました」
ふと辺りを見渡すと、地元の長門湯本温泉にも変革が訪れていた。バブル後は閑散としていたが、2016年には官民一体で、長門湯本の再生計画が始動。日本各地から才能が集まり、8年経って街は魅力的に変化を遂げた。いまその流れの中心に、十六代坂倉新兵衛をはじめ、若い世代もいる。
窯元が現代に残るのは、歴代の当主の努力のみならず、同じ土地に生きる人々が深川萩を愛し、大切に守ってくれた背景がある。
「襲名を機に大勢から注目していただけるようになりました。受けた恩に報いるために、“坂倉新兵衛”として、地域のためにできることは積極的にやりたいです」
スポークスパーソンとして街に貢献するには、真摯に創造にいそしみ、茶陶の道を極め、もっと名を上げなければならない。
「土と向き合うほどに感覚は鋭くなり、意識は広がっていく。自身の創意と伝統的なスタイルとの間でもがくことも多々ありますが、この地の風土の中でこそできることを体現していきたいです」
厳しい壁ながら、それが自分の生きる道であり、豊かで尊いもの。そう信じて今日もまた、土を捏ね、ろくろを回す。
後編では、十六代坂倉新兵衛が長門湯本温泉のお薦めスポットを紹介する。
長門湯本温泉
www.yumotoonsen.com/