"フェイクドキュメンタリー"の精鋭が結集! 大森時生・近藤亮太・皆口大地・寺内康太郎に聞く「TXQ FICTION」のつくり方

  • 写真:湯浅 亨
  • 文:SYO
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左から皆口大地、寺内康太郎、大森時生、近藤亮太。取材は編集中のスタジオで。

2024年4~5月にテレビ東京にて放送され、話題を集めたフェイクドキュメンタリー番組「イシナガキクエを探しています」。1969年に失踪した女性の公開捜索番組という体で、懐かしさと斬新さが入り混じった恐怖を視聴者に与え、Xのトレンド1位を獲得するなどバズを呼び起こした。

この番組の仕掛人であり、7~9月には「行方不明展」を動員7万人のヒットに導いたのが、テレビ東京のプロデューサー・大森時生。そして、映画『ミッシング・チャイルド・ビデオテープ』で第2回日本ホラー映画大賞を受賞した近藤亮太、人気YouTube番組「フェイクドキュメンタリー『Q』」を手がける皆口大地と寺内康太郎。フィクションでありながらドキュメンタリーのように見せる、「フェイクドキュメンタリー」に数多く関わってきた彼らが、チームで手がけるテレビシリーズが「TXQ FICTION」だ。

「イシナガキクエを探しています」に続く、「TXQ FICTION」シリーズ第2弾となる新番組「飯沼一家に謝罪します」が12月23日より4夜連続放送中だ。本作の舞台裏や、「明確な役割分担はなく、4人で話し合いながら進めている」というチーム内の関係性、昨今の"フェイクドキュメンタリーブーム"について語ってもらった。

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TXQ FICTIONの第2弾「飯沼一家に謝罪します」が12月23日より4夜連続放送中。「飯沼一家に謝罪します」はTverにて配信。Ⓒテレビ東京

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面白いと思える「フェイクドキュメンタリー」をつくりたい

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大森時生⚫︎1995年、東京都生まれ。2019年にテレビ東京へ入社。『Aマッソのがんばれ奥様ッソ!』『このテープもってないですか?』『SIX HACK』「祓除」「イシナガキクエを探しています(TXQ FICTION)」などを担当。2023年「世界を変える30歳未満 Forbes JAPAN 30 UNDER 30」に選出された。

――国内でフェイクドキュメンタリーブームが来ている実感はある一方、このジャンルに対する認識や定義には個人差があるようにも感じます。皆さんのフェイクドキュメンタリーに対するこだわりや向き合い方を伺えますでしょうか。

寺内 いまフェイクドキュメンタリーという言葉は便利で安易に使いやすいものになってきていると感じます。その中で個人的に「これは違うな」と思うのは、手持ちカメラで撮っていたり、本人役で出ていたりすればフェイクドキュメンタリーである、という捉えられ方。テレビでフェイクドキュメンタリーをやらせていただける機会はなかなかありませんから、「フェイクドキュメンタリーとはこうだ」を定義し続けたいとは考えています。

大森 「フェイクドキュメンタリー的な雰囲気のもの」と「フェイクドキュメンタリー」の境目がなくなっていますよね。言葉の定義が大きく変化していっているというか。大ブームになった雨穴さんの『変な家』もご本人の意思に反してフェイクドキュメンタリーとしてカテゴライズする人がいたりと、マスに拡がっているからこそ定義が曖昧なものになってきている感覚があります。いま寺内さんがおっしゃった通り、「TXQ FICTION」はある意味において“原義”のフェイクドキュメンタリー、それもとにかく面白いものを制作したいという思いがあります。

皆口 自分はどちらかというと「TXQ FICTIONという枠でなにを描いたら面白いか?」を重視しています。フェイクドキュメンタリーはその名の通りつくり物のドキュメンタリーであるため、本物のドキュメンタリーより都合よくできてしまう側面があります。そのため、丁寧さと視聴者への誠実さを忘れないようには意識しています。近藤さんはどうですか?

近藤 そうですね、演出を行う立場の自分からすると、あくまでストーリーテリング上の一つの手法という扱いで考えています。物語を構築していくうえでドキュメンタリー性をどれくらい採り入れていくか――という感覚でしょうか。

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近藤亮太⚫︎1988年、北海道生まれ。大学在学中から映画制作現場にスタッフとして参加。上京後、映画美学校で高橋洋に師事しながら自主映画制作を本格化させる。一貫して恐怖を追求した作風が評価を受ける。初長編作品『ミッシングチャイルドビデオテープ』が2025年1月24日(金)公開予定。

――フェイクドキュメンタリーで要となるのは、「本物感」ではないでしょうか。視聴者がリアルに感じられるための工夫について、教えて下さい。

寺内 まず自分自身を「これは本当だ」と騙し、「現実に起こっていること」と思い込むことから始めます。その中で自分が「これは疑わしいな」と思うところは徹底的につぶしていきます。ただ、「リアル」と「リアリティ」にも結構差があるので、その辺りは皆で話しながら埋めていくことが多いように思います。

大森 フェイクドキュメンタリーづくりは、そうした精査の積み重ねでもあるかと思います。僕はプロデューサーの立場から客観視して「ここにリアリティを感じない」と思ったとき、その違和感を皆さんに伝えています。ただ、それがなにを思って「リアリティがない」と感じたのが明確じゃないところがフェイクドキュメンタリーの面白いところだと思います。

寺内 そうした部分に個人の価値観や人間性が出るんですよね。当然世代の違いも影響しますし。そのぶつけ合いは、このチーム内でうまくできている気がします。

大森 例えば家族が喋るシーンなどは、当然各々の家族観が出ます。僕は父親が寡黙な人だったため「お父さんが子どもにこんなに優しく猫なで声で話すのは変じゃないか。嘘っぽく聞こえる」と思ってしまいますが、そうした家庭だって実際にはあるはず。そういったすり合わせを、この4人でしつこいくらい極限まで行うことで本物っぽさ=リアリティを形成しているように思います。

近藤 現場では寺内さんがメインで演出をして、なにかあれば僕らが意見を伝えて話し合うスタイルで進めていますが、「場をつくる」ことが肝心だなとは感じます。完全なフィクション作品と違って「カット割り」という概念がないため、まずはそのキャラクターが嘘なく居られる場をつくって、あくまでカメラが映し出しているのはごく一部である、というかたちでつくられていきます。そういった意味では、ドキュメンタリーを撮る時と同じ発想かもしれません。時間をかけて空間をある程度しっかり撮ったうえで、それを最終的に編集でどこまで残すかを判断していく作業といいますか。

寺内 黒沢清監督は「劇映画もドキュメンタリーである」と仰っていましたが、人間を撮影しているという意味では一緒なんですよね。そうした、場の形成を疎かにしないことでリアリティが培われているのだと思います。

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劇中でも流れる、「飯沼一家に謝罪します」という謝罪番組。Ⓒテレビ東京

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「どう広げるか」という意識も生半可じゃない

――「飯沼一家に謝罪します」は「かつて放送された謎の謝罪番組を検証する」という設定ですが、このアイデアは4人の話し合いの中で生まれてきたものでしょうか。

近藤 寺内さんが最初に持ってきたアイデアの中に「謝罪する」がもうありましたよね。

寺内 今回は大森さんが以前から着想してた「謎のスポンサーが番組を買い取った」という話にしようと、TXQFICTIONメンバーの話し合いで決まりました。そこから脚本の福井(フェイクドキュメンタリーQ)と「なぜ番組枠を買ったのか?」という動機付けを出し合って5本のプロットを書きました。その中の一つが「謝罪するため」でした。

大森 それこそ「イシナガキクエ」にも「おじいさんが番組枠を買い取って人捜し番組を放送する」という案も初期にはありました。「番組枠を買い取った」というアイデアは面白いよね、というのが僕らの中にあり、かたちを変えて「飯沼一家に謝罪します」になりました。

寺内 テレビでしかできないアイデアですしね。

大森 そうなんです。番組枠は高額ですから、身銭を切って謝罪するのって不気味だよね、と視聴者の興味を引けるとも思いました。フェイクドキュメンタリーが広がってきたとはいえ、まだまだ誰しもが夢中になるジャンルではないと僕は思っています。そのため、フックとなる「これは面白そうだぞ」というテーマを置きたい、というのは個人的に「TXQ FICTION」で重視しているポイントです。より広くこの面白さが伝わるといいなと思っているので。

近藤 SNSで発信する時に、どんなハッシュタグにすれば効果的かも話し合いますもんね。「どう広げるか」への意識が生半可じゃないなと、「TXQ FICTION」に参加して感じました。例えば情報出しのタイミングにしても、皆口さんと大森さんが「どの日のどの時間帯がベストか」といった部分までとにかく真剣に考えていて。いいものをつくるのは大前提として、それをどのように届けるかの本気度が違います。

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皆口大地⚫︎1987年生まれ。WEBデザイン会社でデザイナーとして勤務する傍ら、2018年にディレクターとして心霊スポットを訪れるエンタメ系YouTube番組『ゾゾゾ』を立ち上げる。その後、21年8月からはYouTubeで『フェイクドキュメンタリー「Q」』の配信を開始し、独自の映像作品で注目を集めている。

――冒頭にお話しいただいたように、亜種も含めた国内でのフェイクドキュメンタリーブームはなぜ発生したのでしょう。

寺内 大前提として、ドキュメンタリーが流行っている側面もありますよね。2010年くらいからドキュメンタリーの製作本数が何倍にもなった、というデータもありますから。

大森 これは私見ですが、ドキュメンタリーを楽しんでいる方の多くは「本当にあったこと」という事実そのものよりも、ドキュメンタリーの中にある「物語性」に惹かれているのではないでしょうか。その感覚は、フェイクドキュメンタリーに惹かれる気持ちに通ずると思います。

皆口 冒頭に近藤さんが仰ったようにフェイクドキュメンタリーはあくまで手法の一つであり、もう少し根源的な部分を考えると、「(現実に)ありそう」という着眼点が多い気がします。そしてこの「ありそう」と「恐怖」はとても相性がいいんですよね。人が怖く感じるものは身近なものが多く、かつ多種多様ですから、フェイクドキュメンタリーの手法を使った「俺はこれを怖いと思う」がインディペンデント界隈でたくさん出てきて、そこから広がってきているような気がします。

近藤 サメ映画などもそうですが、ジャンル映画が広がりやすいときは「低予算でもつくりやすい」といった参入障壁の低さも挙げられるかと思います。不気味な文章を2000文字くらい書けてそれが面白かったらバズるでしょうし、一人でビデオカメラを持って心霊スポットを撮ったとしても怖く演出できていれば広まる可能性は十分あります。新しい才能を取り入れやすい一方、粗製乱造にもつながってしまっているのが現状ではないでしょうか。

大森 『シン・ゴジラ』で逃げながら録画している人を観ても違和感を覚えないように、全員がカメラを持っていて、いつ何時誰がなにを撮っても不思議じゃない時代になったことも大きいですよね。フェイクドキュメンタリーでよくある「なんでこの映像を撮っているんだっけ?」という違和感が減ったことで、表現の幅が広がった感覚もあります。

―― 確かに、『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』 (1999)や『クローバーフィールド/HAKAISHA』(2008)が登場した際とは受け取り方が違いますね。

大森 いまや総カメラマン時代ですからね。常に写真や動画を撮るのが“普通”になってきたことで、フェイクドキュメンタリーを観る側の引っかかりも少なくなってきたように感じます。

寺内 付随して、共感性もあるかと思います。たとえば恋愛ソングなら、聴いたときに多くの人が「これは自分だ」と思えたらヒットしますよね。要は、その作品の中に自分がいると思えるかどうか。

大森 「イシナガキクエ」はまさにそうでしたね。生放送の体ではありますが、リアルタイムにその番組を観ている視聴者は実際にいますし、劇中の公開人捜し番組の問い合わせ先に実際に電話をかけることもできるとなると、物語の中に自分がいる不気味さが立ち上がってきます。「飯沼一家に謝罪します」でも2004年に放送された謝罪番組が深夜2時に放送されたという設定にして、今回の番組が放送される実時間に合わせることで現実との接続が起きるといいなと思っています。

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「ちょっとでも引っかかったら共有する」ができている

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寺内康太郎⚫︎1975年、大阪府生まれ。映画監督、脚本家。「フェイクドキュメンタリーQ」のメンバー。2023年に書籍版出版。2004年に『わたしの赤ちゃん』で脚本家デビュー。代表作に『祓除』『行方不明展』『心霊マスターテープ』シリーズなどがある。

――皆さんの中で「やりたくない」ことは共通しているのでしょうか。

寺内 大森さんは作品の中で怖がらせようという空気を出すのが嫌いですが、皆口さんはその逆ですよね。怖がらせるのが好きな人です。ただ、共通して「意味もないジャンプスケア(突然大きな音などを流して怖がらせる演出)は悪だ」というものはあるかな。

大森 もう“癖(へき)”の違いですよね(笑)。ちゃんと怖い雰囲気を出してから怖いことが起こることを好む人もいれば、僕はノーモーションを好んでしまう性格というだけではあります。具体的な例でいうと「イシナガキクエ」の「これから気分を害する映像が流れます」というテロップに最初は反対しました。ただ、いざ完成したものを観ると、それが入ることでグッと引き締まっている。そういうすり合わせをしていくことで、自分だけでは絶対達することができない領域にたどり着けるのだと思います。

皆口 大森さんって、「どうやってこの飲み物を甘くするか?」というお題に対して砂糖を入れたがらない人なんですよね。コカ・コーラ ゼロのように「こんなに甘いのにカロリーゼロなの!?」を目指しているといいますか。自分は最初から砂糖を大盛りで入れてしまうタイプなので、すごく新鮮に映ります。ただ、これが面白いところなのですが、宣伝物やCMをつくるときになると大森さんと僕のスタンスは逆転するんです。大森さんが「もっと雰囲気を出したい」と言って僕が「もう少しフラットにしたい」ということは結構ありますね。とはいえ、砂糖が入っていようがなかろうがいいものをつくれば大森さんも速攻で「いいですね」と言ってくれます。

近藤 確かに、大森さんは作品づくりにおいていつもフラットに考えている印象はあります。たとえば疑問点を投げかけて波紋を起こすときも、「こうしてほしい」じゃなくて、最終的にどこに着地するかは固めないようにしているといいますか。まずは違和感を共有するけど、みんなで話し合えばどこかに着地するだろう、というところを信じている気がします。

大森 「TXQ FICTION」以外の番組ではここまで言いません(笑)。このメンバーだからこそ、自分が気になったことは共有して議論する方がベターだろうなとは思っています。

近藤 大森さんがそういう人だから、僕も含めてチーム全体で「ちょっとでも引っかかったら共有する」ができている気がします。それでほかのメンバーに「そんなことはないと思う」と言われたら、それはそれで納得できる空気感でやれているのは、ありがたいです。

寺内 大森さんはプロのつくり手としてものすごくしっかりしていて、ゴールに対して時間がどれだけあって、どれだけ予算がかかるかの計算が明確にできる人だと思います。下手に駄々をこねるわけでもなく、諦め方や狙い方を全部理解したうえで、ホラーというよりアートを目指している方という印象です。大森さんが足を運んでいる展覧会もエッジの利いたものが多いですし、僕も芸術的なものは好きなので、その点おいても安心感を抱けます。こういう人がプロデュースしてくれるから、自分たちの本分であるホラーの部分を惜しみなく出したいと思えます。

大森 皆さん、ありがとうございます。お陰で今日はよく眠れそうです(笑)。

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TXQ FICTION第2弾『飯沼一家に謝罪します』

放送日時:2024年12月23日(月)〜26日(木)26:00~26:30
放送局:テレビ東京
「飯沼一家に謝罪します」はTverにて配信。

大森時生と直木賞作家・小川哲が「フェイクドキュメンタリー」の魅力を語る、トークセッションが開催!

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