今日、K-POPは単なる音楽ジャンルを超え、グローバルな文化的現象としての存在感を確立している。SpotifyやApple Musicなどの、主要音楽ストリーミングプラットフォームでのプレゼンス、そして海外の主要音楽フェスティバルでのヘッドライナー出演が続き、2024年はその勢いがさらに加速した。世界の音楽シーンの中心に立っているK-POPは、2024年も多くの注目すべき瞬間を生み出した。伝説的なアーティストの復帰、新たな形での活動、そして社会的・文化的な役割の進化が見られた2024年のK-POPシーン。本記事では、今年の注目すべき7つの瞬間を振り返りたい。
1. G-DRAGONのカムバックと9年ぶりの「MAMA」出演
BIGBANGのG-DRAGONは、K-POPシーンにおいて「アーティストたちのアーティスト」と称され、その存在感は計り知れない。韓国のみならず、日本や欧米でもカリスマ的な人気を誇る彼は、音楽スタイル、ファッション、さらにはライフスタイルに至るまで、多くの後輩アーティストに影響を与えてきた。そんな彼は2017年以降、兵役や健康問題によりソロ活動が途絶えていたが、2024年10月、待望の新曲「POWER」でカムバックを果たした。この曲は彼自身の音楽的成長と自己表現を象徴しており、リリース直後からSpotifyのグローバルチャートやApple Musicのワールドワイドチャートで1位を獲得し、その依然とした世界世界的な影響力を証明した。さらに11月には京セラドーム大阪で開催された「2024 MAMA AWARDS」に9年ぶりに出演。BIGBANGメンバーのSOL、D-LITEと共にもうひとつの新曲「HOME SWEET HOME」を披露し、参加アーティストやファンを熱狂させた。G-DRAGONは本カムバックを皮切りに、ソロとしてもグループとしてもさらなる活動を展開する予定であり、今後もK-POPシーンに新たな影響を与えることが期待されている。
2. ADOR & HYBE騒動の渦中に咲いた「青い珊瑚礁」
2024年4月、NewJeansとそのプロデューサーであるミン・ヒジン、所属レーベルADOR、そして親会社HYBEの間で、複雑かつ激しい対立が表面化した。この騒動の発端は、HYBEがADORの経営権を強化しようとしたことに対し、ミン・ヒジンがADORの独立性を主張して反発したことにある。対立は瞬く間に予想を超える激しい攻防にエスカレート。公開書簡や記者会見が繰り返される中、ファンやメディアの関心は一気に高まり、世界中の注目を集めた。一連の対立はHYBEの株価にも影響を及ぼし、NewJeansの活動にも不安が漂った。現在も問題は解決しておらず、ついにはメンバーたちが立場を表明する事態に発展し、契約解約の可否を巡る争いにまで展開している。翌年、NewJeansの活動は、この対立がどのように収束するかに大きく影響されるだろう。しかし、そんな中でも、日本のファンたちには鮮烈に刻まれた瞬間がある。彼女たちの日本デビューは、騒動の最中にもかかわらず大成功を収め、海外アーティストとして史上最短のデビューからわずか1年11ヶ月で東京ドーム公演を実現。その完成度の高いパフォーマンスは絶賛され、話題を呼んだ。特に、メンバーのハニがカバーした松田聖子の名曲「青い珊瑚礁」は、全世代の日本人ファンに最高の瞬間をプレゼントした。
3. 2NE1、15周年の再結成とワールドツアー
ガールズグループの常識を覆し、数々の名曲と圧倒的なパフォーマンスでK-POPの歴史にその名を刻んだ2NE1(トゥエニーワン)が、2024年にデビュー15周年を記念する再結成ツアー「WELCOME BACK」を発表した。2016年、突然の解散という衝撃的な幕引きを迎えた彼女たちが、また4人揃って単独コンサートを開催するという事実は、多くのファンにとって感動的な瞬間となった。このツアーは10月のソウル公演を皮切りに、フィリピン、インドネシア、日本、香港、シンガポールなど、アジア各地を巡る大規模なワールドツアーへと展開。日本を含む多くの国でチケットは即完売し、ファンの熱い要望に応え追加公演が発表されるほどの盛況ぶりを見せた。ステージ上でメンバーたちは、時に涙を流しながらも力強いパフォーマンスを披露。彼女たちの姿は、解散後も変わらぬ深い絆と、さらなる進化を遂げたステージパフォーマンスで観客を圧倒した。2NE1の再結成は、単なる音楽イベントにとどまらず、時代を超えた象徴的な瞬間として、多くのファンの心に深く刻まれる出来事となった。
4. QWERの登場 & DAY6の高尺スカイドームでのライブ
2024年はK-POPバンドシーンが大きく飛躍した年となった。従来のK-POP市場では、バンド音楽は比較的マイナーな位置づけであったが、この年は新旧バンドが一斉にスポットライトを浴びることとなった。新鋭ガールズバンドQWER(キューダブリューイーアール)は、デビュー1年目にしてK-POPの歴史に新たなページを刻んだ。彼女たちは従来のガールズグループの枠組みを超えたプロセスでデビューを果たし(ボーカルのシヨンは、AKB48グループで外国人として初合格を果たした元NMB48のメンバーである)、ギターやベースなど楽器のレベルアップをリアルタイムで披露しながら支持を集めた。その結果、音楽番組でも1位を獲得するなど、SNSを中心に世界中で話題となった。一方、ベテランバンドDAY6(デイシックス)は2024年に見事なカムバックを果たした。メンバー全員の兵役が終了し、完全体としての活動が再開された彼らは、過去の名曲「You Were Beautiful」や「Time of Our Life」が再びチャートインする"逆走行"現象を経験。さらに新曲も発売直後から大ヒットし、ファンの心を掴んだ。DAY6は韓国のバンドとしては初めて高尺(コチョク)スカイドームで単独公演を開催し、数万人の観客を前に圧倒的なライブを披露。QWERとDAY6の躍進は、K-POPの音楽的多様性を象徴し、今後もK-POPシーンに新たな風を吹き込み続けるだろう。
5. ロゼの「APT.」が更新し続けるK-POPの新記録
BLACKPINKのメンバーがそれぞれ成功的なソロキャリアを積んでいく中、ロゼは2024年10月にリリースしたソロ曲「APT.」で、世界の音楽シーンに衝撃を与える記録を達成した。この曲は、2024年初頭にロゼがLAのスタジオでブルーノ・マーズと共にセッションを行った際に誕生した。ロゼは、韓国の飲み会でよく遊ばれるゲーム「アパート」をチームに紹介し、その独特なリズム感と遊び心が楽曲制作のインスピレーション源になったという。「APT.」はSpotifyのグローバルチャートと米国チャートで同時に1位を獲得し、Billboard Hot 100では8位にランクイン。さらに英国オフィシャルシングルチャートでは2位に輝いた。これらは韓国女性ソロアーティストとして初の快挙である。MVは公開からわずか5日で1億回再生を突破し、60日で6億回再生を達成。これにより、BTSが保持していた記録を更新し、K-POPアーティストとして最短期間での新記録を打ち立てた。その勢いは止まらず、さらなる歴史的快挙の達成が期待されている。ロゼの「APT.」は、単なるヒット曲を超えて、韓国文化の要素を取り入れたグローバルヒットの新たなモデルとして、K-POPの可能性をさらに広げる象徴的な一曲となった。
6.バーチャルアイドルPLAVE、音楽番組で1位を獲得
日本で長い歴史を持つ「バーチャルアイドル」文化。韓国ではこれまで一部のマニア層に支持されるサブカルチャーとして扱われてきたが、いまやその立場は大きく変わりつつある。バーチャルアイドルはもはや周縁的な存在ではなく、K-POPシーンを彩る重要なプレイヤーへと進化を遂げたのだ。6人組バーチャルガールズグループ「異世界アイドル」、5人組ボーイズグループ「PLAVE(プレイブ)」は、MZ世代を中心に大きな支持を得ている。2023年にデビューしたPLAVEは、今年音楽番組で1位を獲得し、音源チャートでも上位圏に名を連ねるなど、その人気ぶりを証明した。また、日本の雑誌「anan」の表紙を飾り、グローバルな影響力も示した。そして、伝統的なK-POPの名門事務所「SMエンターテインメント」は、aespaの世界観と連動するバーチャルアーティスト「nævis(ナビス)」をデビューさせ、その完成度の高さから高い評価を受けている。nævisは独自のストーリー性とクオリティで注目を集め、多様なコンテンツを通じてファンとつながり続けている。いまやバーチャルアイドルは単なる補完的存在ではなく、独立したアーティストとしてK-POPの新しい未来を切り拓いている。
7. 大規模デモを彩ったK-POP応援棒
K-POPファンが「推し」を応援するための必須アイテム、「応援棒(ペンライト)」。いまや、K-POPファンダムの象徴とも言えるこのアイコニックなアイテムは、その輝きをコンサート会場だけにとどめてはいない。2024年12月、韓国では大統領による違法な戒厳令発令という衝撃的な事態が発生。それに抗議し、数十万人もの市民が大統領の弾劾を求めて街頭に立ち上がった。国会議事堂前を埋め尽くした群衆の中で、特に目立ったのはK-POPの主要な消費者層である10代から30代の若者たちだった。彼らは平和デモの象徴として、それぞれ自分たちのペンライトを手に集結。会場にはいつしかデモのアンセムともなった少女時代の「Into the New World」が響き渡り、さまざまなK-POPソングが人々をひとつに繋げた。グループの垣根を越えたファンダムたちが共に歌い、共に立ち上がる。ペンライトはもはやただの応援道具ではない。それは「連帯」と「希望」の象徴として、K-POPの新たな歴史を照らし続けている。
soulitude
日韓の大衆音楽事情を専門とするライター。日韓の音楽にまつわる記事の執筆やキュレーションなど、コンテンツ制作を行う。2022年から韓国大衆音楽賞とKorean Hiphop Awardsの審査員を務める。