柳宗悦と紅型に導かれ、生涯を通して数限りない名作を生み出し続けた稀代の染色工芸家。2025年に生誕130年を迎える彼のものづくりに捧げた人生を振り返る。
2025年は、「民藝」という言葉が誕生して100年目となる記念の年だ。そしていまもなお、世代を超えて多くの人が民藝に魅了されている。いま私たちが日常の中で出合う民藝の姿とは? 日々の暮らしに寄り添ってくれる、その魅力にフォーカスしたい。
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日本を代表する工芸家、芹沢銈介が見つけた「民藝」の世界
民藝運動の中心人物のひとりであり、20世紀の日本を代表する工芸家として国内外で高い評価を得た芹沢銈介は、1930年に日本の伝統的な染色技法である型染を始めて以来、84年に88歳で鬼籍に入るまで、実に半世紀にわたり、型染作品の制作を続けた。一般的には絵師、彫師、染師といった職人たちの分業によって制作される型染だが、芹沢はそれらの工程をすべて自らの手で一貫して手掛けることで、より作家性を高めていった。その手法は56年に「型絵染」として重要無形文化財に認定され、芹沢は61歳の時に人間国宝となった。
芹沢が本格的に染色を始めたのは、東京高等工業学校(現・東京科学大学)卒業後に図案家(デザイナー)として働くかたわら、妻や近所の若い女性たちを集めて始めた手芸グループ「このはな会」の活動からだ。このはな会ではクッションカバー、手提げ、壁掛けなどを制作したが、その際に用いたのが模様部分を蝋(ろう)で防染して染色するろうけつ染だ。芹沢はこれらの作品を主婦の友社主催の「全国家庭手芸品展覧会」に出品し、2年連続で最高賞を獲得している。その後型染に移行するまでは、ろうけつ染で数多くの作品を残した。
芹沢の人生に大きな転機が訪れたのは、彼が31歳の時。柳宗悦に私淑する同郷の友人、鈴木篤とともに朝鮮旅行に出た際に、その船中で雑誌『大調和』に連載中だった柳の論文「工藝への道」を読んだ芹沢は「工芸の本道初めて眼前に拓けし思いあり」と、深い感動を覚えたという。さらにその翌年、芹沢は東京の上野恩賜公園で行われた大礼記念国産振興博覧会で、柳らが出品した「民藝館」を訪れ、床の間に掛けてあった鮮やかな紅型(びんがた)の風呂敷に心を奪われた。紅型は沖縄を代表する伝統的な型染の技法で、その鮮明な色彩、大胆な配色、図形の素朴さは、その後の芹沢の作風に大きな影響を与えた。
創作意欲をかき立てた、日本各地の風土と文化
急速に進む近代化の陰で、各地方に脈々と受け継がれてきた手工芸と、それを生み出す無名の職人たちのていねいな手仕事を愛した芹沢の作品には、取材で訪れた津々浦々の風土も色濃く現れる。彼の取材旅行の中でも最も重要な経験となったのは、39年に柳宗悦ら民藝協会の同人7名と59日間にわたって旅した沖縄だ。そこで芹沢は、長年憧れた伝統的な紅型の指導を受けたほか、本島各地や久米島などを旅してその風景をスケッチしたり、民謡の手ほどきを受けたり、芝居を観たりと、沖縄の文化や風土を思う存分に吸収した。帰京後に芹沢は、沖縄から持ち帰った膨大な数のスケッチをもとに「壷屋のろくろ師」(1939年)、「沖縄絵図」(39年)、「那覇大市」(40年)など、後世に残る質の高い作品を立て続けに制作し、これ以降、芹沢の作風は明るく伸びやかなものとなった。
この頃は東京の蒲田に拠点を置いていた芹沢だが、45年に第二次世界大戦の空襲によって自宅と工房が全焼し、それまでの作品、型紙、収集品の大半を焼失させてしまう。芹沢は以降6年間にわたり寄寓生活を送ることになるが、その間も本の装丁や雑誌の挿絵などの仕事を手掛けつつ、狭い場所でも制作できる染紙のカレンダーやうちわ、カードなどを量産するようになった。
51年になり、かつて住んでいた蒲田の土地を購入してようやく制作環境が整うと、芹沢の創作意欲は堰を切ったようにあふれ出し、動物、文字、風景など、新鮮な模様を用いた大作が数多く生まれた。こうして作家としての円熟期を迎え、56年には人間国宝にも認定された芹沢の仕事は、最晩年まで続けられた。その長い作家人生の集大成となったのが、76年にフランス・パリの国立グラン・パレで開催した個展『Serizawa』だ。出品作品の選択から陳列まで、芹沢が精魂を傾けた最後の大作とも言えるこの展覧会は、地元紙でマティスやクレーに匹敵するという評論が掲載されたこともあり、約2万9千人の来場者を集めて大成功を収めた。
生涯を通して民藝の魅力を体現し、世界に広めた芹沢の仕事と功績は、これからも広く語り継がれていくことだろう。
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