
中学生の時に始めたツイッターのユーザー名「ベテラン中学生」に由来する「ベテランち」の名で活動する1998年生まれの彼は、東京大学医学部に在籍する大学生。1浪で現在4留中だが、ただの大学生ではない。
「趣味でやっている」という個人のYouTubeチャンネルの登録者数は約21万人、灘中学・高校の同級生らと組んだYouTubeグループ「雷獣」では、トークイベントやお笑いライブも主催し、登録者数は27万人を超える。一方、かつては東大の短歌会に所属し、本名の「青松輝」として歌集も出版、最近では多くの文芸誌にも寄稿している。国内最難関の受験を乗り越えた経験を活かした学歴系動画や、独自の視点と言葉遣いが光る短歌が人気を集め、昨年は飛躍の年になった。
「理三(東京大学理科三類)にいる学生はほとんどが医学部へ進み、医者になります」と彼が言うように、東大医学部に在籍しながら表現を続けることは異色にも思える。いったい、どのようにいまの活動へと至ったのか。
東大に入る前、灘高校に入学した時点で、両親は当然医者になるよね、という感じでした。確かに医者は立派な職業です。ただ、自分としては、安定はするけど、重労働で責任も重いし、そんなに幸せなのかなと。それよりは、別の道でもっと自由にお金を稼ぐ選択肢があるよなって」
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ひとりでYouTubeを始めたのは22歳の時。最難関校の受験対策や理三の日常を配信した。
「でも実際、大学にはあまり行ってなくて。同世代が働き始める年齢になって、自分もなにかしなきゃと思ったんですよね。面白いことをしたい、という欲望はあったけど、それをどこでどう発揮したらいいかはわからなかった。そんな中で自分にもできるのは、日本最難関と言われる東大理三の受験エピソードを話したり、東大生としての日常を配信することかなと。いまも目的というほどのものはなくて、求められていることをやろうという感じです」
YouTuberとして順調に登録者数を増やしながら、大学1年生から短歌の発表も続けた。2023年には、谷川俊太郎の詩集をはじめとした文芸作品に定評のあるナナロク社から、394首を収録した第一歌集『4』を刊行。
「よっぽど熱心な人でない限り、僕の活動を全部追いかけている人はいないと思います。でも、そのほうがいいと思っていて。僕のことを高学歴YouTuberとして認識してくれてもいいし、短歌の人ならそれでいい。YouTubeや短歌、お笑いを融合して〝新たなおしゃれなもの〟を生み出しましたよ、というほうが注目はされるかもしれないですけど、一人の人間が『いろいろやってます』っていうのは誠実じゃないし興味がない。すべての活動を別々の軸でやりたいんです」
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表現者としては、いわゆる「マルチな才能」は売りになるはずだが、本人はそれを望んでいない。
「特定の界隈の一員になりたくないというか、ジャンルにとってちょうどいい人になりたくないんですよ。一員になってしまうと、付き合いが発生するじゃないですか。本当に自分が好きでおもしろい人とだけ付き合っていくためには、どの界隈からも一定の距離を保っておきたいんです。その上で、他ジャンルから来たことで、下から遠慮してお伺いを立てるみたいなこともしたくない」
東大医学部、YouTube、文芸。さまざまな界隈を横断する自身をどう客観視しているのか。
かつては〝全体〟というものがあり、そことの差異や、中心に立ち向かってひっくり返すことに意味があったけど、もはや全体がない。たとえば音楽だとBAD HOPとか芸人だとラランドとか、まわりに振り回されず、淡々と自分たちがやりたいことだけを続けている姿勢に人は夢中になるんだと思います。そこは僕も大事にしたいです。

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PICK UP

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PERSONAL QUESTIONS
いま買いたいものは?
クルマが欲しいです。東京の若者でクルマ持ってるって意味わからないじゃないですか。利便性だけを考えたら不要なんで。だから、あえて持ちたいですね。パッと見普通の古いやつ。
好きな場所は?
タクシーやビジネスホテル。部屋に一人でいるわけではなく、誰かしらはいるんだけど干渉はされずにいられる空間や、情報量の少ない場所がとても好きです。
今年、動画配信でハマったコンテンツは?
ヒカキンのTwitchでの配信。YouTubeより大人向けで、普段の動画で言わないようなことを言う。最近だと無人島の不動産サイトを「7億かー」とか言って見てるのが面白かったです。
繰り返しよく見る夢は?
受験の夢はいまでも見ます。よっぽど辛かったんでしょうね。受験そのものが嫌というよりも、受かったとして、もう医者になるしかないっていう未来を考えるのが嫌だったんです。



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