写真展『ロバート・キャパ 戦争』が東京都写真美術館で開催中。いま“戦争”の写真を見るべき理由とは

  • 文:中島良平
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『「Dデー作戦」でオマハ・ビーチに上陸する米軍』1944年

20世紀を代表する写真家のひとりとして、多くの報道写真で知られるロバート・キャパ。“戦争”に焦点を当てた作品を集めた写真展『ロバート・キャパ 戦争』が東京都写真美術館で開催されている。

1913年にハンガリーで生まれた写真家の本名は、アンドレ・フリードマン。ベルリンでジャーナリズムを学び、写真通信社で暗室係として働き始めたフリードマンだが、ユダヤ人の排斥が激しくなると、33年よりパリに拠点を構えるようになる。

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『革命について講演するレオン・トロツキー』1932年 デンマークで撮影したこの写真は、アンドレ・フリードマン名義で発表したデビュー作。

写真家として生計を立てていくには厳しい状況だったが、仕事を通じてユダヤ人写真家のゲルダ・タローと出会うと、すでに業績のある「ロバート・キャパ」なる架空のアメリカ人カメラマンをともに創出。こうして、フリードマンはキャパに成りすまして写真の売り込みを開始した。そして、その名を一躍知らしめることになった作品が、フランスの写真週刊誌『Vu(ヴュ)』に掲載され、「崩れ落ちる兵士」の通称で知られることになるこちらの作品だ。

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『崩れ落ちる共和国側の兵士』1936年

彼は1930年代にヨーロッパの政治的混乱を切り取り、スペイン内戦では、ドイツとイタリアのファシスト政権に支援されたフランコ将軍の反乱軍に敗北する共和国政府軍に同行した。日本軍による中国の漢口爆撃、第二次世界大戦で連合軍の対ドイツ反攻作戦の始まる北アフリカに赴き、イタリア戦線も撮影。本記事のトップに掲載した『「Dデー作戦」でオマハ・ビーチに上陸する米軍』と題するキャパの最も有名な作品のひとつは、ノルマンディー上陸作戦の戦闘現場で撮影されたものだ。

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『マラガ市からの避難民』1937年
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『日本軍の空襲で廃墟となった住居跡に坐り込む女性』1938年
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『パリ解放を祝う人びと』1944年

ナチスからのパリ解放を記録し、やがて第二次世界大戦は終結へと向かうも、中東では新たに戦火が立ち上り、アジアではインドシナ戦争も勃発する。北ベトナムを取材に訪れたキャパは1954年5月25日、地雷に抵触し、爆発に巻き込まれて死亡した。その時、彼は40歳だった。 

「時代の証言者」であったキャパは「カメラの詩人」とも呼ばれ、写真からはヒューマニストの目線が見てとれる。戦争の苦しみを捉えながらもときとしてユーモアがあり、また人間を取り巻く状況を少しでも改善したいという強い信念に突き動かされていた。ロシアとウクライナ、パレスチナとイスラエルなどにおける戦火が収まる気配はない現在は、キャパの願いとは程遠い状況にある。戦争を収めた画面を通して、改めて平和の意義とその可能性に想いを馳せたい。 

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『シャール・アーリア移民一時収容所の子ども』1950年
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キャパが地雷を踏んで死去する直前に撮影した一枚、仏領インドシナ(現ベトナム)、1954年
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ロバート・キャパ 1951年、パリにて。

『ロバート・キャパ 戦争』

開催期間:開催中〜5月11日(日)
開催場所:東京都写真美術館
東京都目黒区三田1-13-3 恵比寿ガーデンプレイス内
開館時間:10時〜18時 ※木、金は20時まで開館
※展示室入場は閉館の30分前まで
休館日:月(5/5は開館)、5/7
入館料:一般¥1,200
TEL:03-3280-0099
https://topmuseum.jp/contents/exhibition