今年、ブランド初の量産35mmカメラ「ライカⅠ」の誕生から100周年を迎えたライカ。改めて写真表現における功績とこれまで貫かれてきた企業理念に注目が集まっている。その魅力をさらに広げる腕時計の新作「ライカZM 12」が登場した。
これに先立ち、エルンスト・ライツ・ヴェルクシュタッテン社(ELW)でライカの腕時計およびアクセサリー事業部門のマネージングディレクターを務めるヘンリック・エクダールが来日。いまライカが時計をつくる理由をはじめ、両者の共通性やプロダクトに注がれた独自のDNA、そして新作の魅力について訊いた。そこで写し出されたのは、まさしく“手首に巻くライカ”として時を刻む、唯一無二の存在感だった。
ライカが時計をつくる理由と、これまでの変遷

「ライカがなぜ時計をつくるのか。まずそのご質問にお答えしましょう」とエクダールは切り出した。
「創業者のエルンスト・ライツ1世が会社を興す前、スイスの時計工房で機械工学や精密技術を学んだことに由来します。ドイツへ帰国後、その知見をもとに顕微鏡やカメラをつくるようになりました」
そう言って取り出したのが「ライカM6」の軍艦部を一部カットしたモデル。
「これを見ると、レバーで巻き上げてシャッターを切るとギアが動く動きが一目瞭然です。まさしく時計と同じでしょう。ご存知の通り、カメラはシャッタースピードというコンマ何秒という時間を正確に計らなければいけません。時を制する。カメラと時計はそうしたファインメカニクスでの共通点もあるのです」

ライカが本格的にウォッチメイキングのプロジェクトをスタートしたのは2015年のこと。それまでもライカネームを冠した腕時計はあったが、既存の汎用ムーブメントを用い、カメラのモチーフをデザインに取り入れたに過ぎなかった。
「まず参集したのは、元A.ランゲ&ゾーネのムーブメント技術者とプロダクトデザイナーであるベルリン芸術大学のアヒム・ハイネ教授、そしてレーマン・プレシジョンウーレン社でした。このレーマン社は精密切削機を製造する会社で、ライカ社でもその機械を使ってカメラを製造しているのですが、オーナーのレーマン氏は腕時計も大好きでごく少量生産のオリジナルブランドを持っているほど。そこで一緒に腕時計をつくろうということになったのです」
こうして開発は始まり、7年後の2022年に発表したのが「ライカZM 1」と「ライカZM 2」。これらの腕時計に搭載された、ライカとレーマン・プレシジョンウーレンが共同開発したムーブメントは、リューズと一体になったプッシュボタンにより、秒針をゼロリセットして正確に時間を合わせられる。さらに、シャッターカーテンに着想を得たパワーリザーブインジケーターや、プッシュ式による日付送りなど、独創的な機構を備えた。あえて手巻きを採用したのもライカらしい英断であった。
「ゼンマイを巻くことでエネルギーを与える。そこに人と腕時計のより深い関係性が生まれるのです」とエクダール。それはフィルム式カメラの巻き上げ操作の味わいにも通じるのだろう。
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写真表現から着想を得た、新作のデザイン哲学

そして翌年2023年にはシンプルな自動巻き3針カレンダーの「ライカZM 11」を発表した。
「『ZM 11』はより幅広い層に向けたエントリーモデルですが、それでも本格的な腕時計としてこだわり、ムーブメントはスイスのクロノード社と共同開発しました。そしてこれをベースに、よりコンパクトにしたシリーズが新作『ZM 12』です」
クロノード社といえば、IWCで数々の実績を残してきたジャン-フランソワ・モジョンが創設したムーブメントメーカーであり、さまざまな高級ブランドに独創的なムーブメントを開発・提供してきた、スイス国内でも一目置かれるサプライヤーのひとつだ。ムーブメントの中身もさることながら、「ライカZM 12」は外装のデザインにも着目したい。ケース径39㎜というほどよいサイズ感に加え、文字盤の上下と中央で微妙にピッチを変えた横ストライプが奥行きある色と千変万化するニュアンスを演出する。ここで求めたのはやはり写真の世界観だった。
「『ZM 1』から『ZM 2』がカメラのハードウェア的な発想を注いだのに対し、『ZM 11』『ZM 12』では“光と影の表現”という写真の原点をいかに腕時計のデザインに落とし込むかを意識しました」
角度を変えて文字盤を見ると、その目的は完遂していることがわかる。二重構造により生まれる表面上は、凹部の側面が浮かび上がることで異なる表情を見せてくれるのだ。

「文字盤は非常に薄い2層のレイヤーからなり、エッチング、グライディング(研削加工)、ポリッシュなどといった30工程を約3週間かけて製作します。とてもユニークな表現効果が生まれる技法です」
ケースの小径化に伴い、カレンダーを省き、センターセコンドからスモールセコンドを採用。それらは文字盤の美しさをより強調し、同時に伝統的な機械式を象徴した結果でもあると加える。
カラーバリエーションはスタイリッシュな4色を揃え、ステンレス・スチールブレスレットやラバーストラップも多数展開。工具を使わず交換可能な機構なため、簡単に自分好みのコーディネートが楽しめる。パートナーとのシェアウォッチにもいいだろう。



機能美あふれるデザインやほどよいケース径は、シェアウォッチにも最適だ。ケースバックに備えたプッシュボタンでストラップ交換が容易にできるイージーチェンジシステムにより、シーンや好みに応じて異なるスタイルが楽しめる。
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新しい扉を開き、ライカの世界観を広げる
独自のウォッチメイキングを通して、ライカの世界を広げつつ、その根幹には常に「カメラがある」とエクダールは断言する。
「いまや私たちは、アイウェアやアクセサリー、スマートフォン、ライカらしい写真撮影を体験できるiPhoneアプリ『Leica LUX』なども手掛けています。そのいずれもこれまで蓄積した精密機器や光学技術をベースに、クラフツマンシップと品質へのこだわりを注ぎ、写真表現や創作との共通性を提案します。腕時計もこうしたカメラとの親和性とともに、さまざまな革新性を追求していきます」
長い歴史を持つカメラと時計。それは近年のデジタル技術によって大きな変革期を迎えた。そのなかでカメラのデジタル化によって個人の創作や表現の領域は広がり、ライカは変わることなくそれを支える。そして腕時計も然り。スマートウォッチが登場する一方、あらためて機械式時計の価値が再評価され、伝統的な技術の可能性はこれまでの限界を越える。ライカが腕時計においてどんな未来を写し出すか。ますますもって楽しみだ。




ライカカメラジャパン