人生を変えた燗酒の名品は、懐が深く骨太な味わいが魅力「清酒竹鶴 純米」【プロの自腹酒 vol.29】

  • 文:山内聖子
  • 写真:榊 水麗
  • イラスト:阿部伸二
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竹鶴酒造/清酒竹鶴 純米

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享保18年(1733)年に創業した竹鶴酒造は、ニッカウヰスキーの創業者である竹鶴政孝の生家としても知られる、広島県竹原市にある酒蔵だ。定番となるのは熟成酒で、骨太で濃醇な酒質が特徴。この「純米」も数年寝かせた濃い熟成酒だが、比較的ドライなタイプで竹鶴の入門酒にうってつけ。煮物や焼き魚などに合う食中酒として抜群だ。ぜひ熱めに燗をしたい。酒に奥行きが増し、切れ味がよくなる。1800mL ¥2,640/竹鶴酒造 TEL:0846-22-2021

吉祥寺はさまざまな酒場が密集している賑やかな街として有名だが、意外にも十数年前までは銘柄にこだわった燗酒を飲ませる店は皆無だった。そんな燗酒の不毛地帯だった吉祥寺に新風を巻き起こしたのが、酒場主人で燗番の小倉拓也さん。2008年に燗酒に特化した「カイ燗」(現在は閉店)を開店すると、徐々に燗酒愛好家が足繁く通うようになり、小倉さんに影響を受けた「にほん酒や」(本連載11回目に登場)のような燗酒を看板に掲げた酒場も増加。気が付けば、吉祥寺は美味い燗酒が飲めるエリアとして、日本酒業界で広く認知されるまでになった。その小倉さんを燗酒の道へ導くきっかけになった酒が、広島の日本酒「竹鶴」である。

「店を持ちたいと考えていた当時、日本酒業界は吟醸酒など香り系のお酒が主流だったのですが、自分の身体には合わないんですよ。蒸溜酒ばかり飲んでいましたね。そんな時に好きなウイスキーと同じ名前の『竹鶴』に興味を持ち、たまたま飲んだらびっくり。日本酒の苦手意識が180度変わりました。しかも、温めたらもっと美味いのが衝撃で。燗酒に縁がなかった自分がすっかりハマってしまい、燗酒専門の店を開きたいとまで思うようになりました」

そう小倉さんが語る「竹鶴」は、他の日本酒にはない味わいの太さが魅力である。

「味は濃いし野太くて不器用な感じもいい。自然に身を委ねたくなる懐の深さもあります。僕にとっては気の置けない仲間のような存在」

最上のおともは、小倉さんが好きなアンビエント、『CHILL OUT』や写真集の『レテに浮かんで』をゆるゆる楽しむこと。これがあれば「空間と『竹鶴』と自分が渾然一体になり最高に気持ちいい」と言う。「竹鶴」あってこそ体感できるその気持ちよさは、理屈では言い表せない酔い心地。ぜひ頭を空っぽにして楽しみたい。

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酒の美味さがしみてくる、音楽と写真の名コンビ

小倉さんが傑作だと推すThe KLF(ザ・ケイエルエフ)の『CHILL OUT』や熊谷直子の写真集『レテに浮かんで』がお気に入りのおとも。竹鶴の酔い心地をさらに気持ちよくする。

小倉拓也

吉祥寺の燗酒カルチャーの立役者。大衆的な酒場「火弖ル(ほてる)吉祥寺本店」のオーナーであり、近年は立ち飲み屋「ショップアダルト」の主人・燗番としても店に立つ。

ショップアダルト

住所:東京都武蔵野市吉祥寺本町1-25-6
TEL:なし

※この記事はPen 2025年4月号より再編集した記事です。