イタリア・フェラーラの小さな革工房から生まれ、50年以上の歴史を重ねるバッグブランド「Felisi(フェリージ)」。その日本のディレクターである鴨志田康人が手掛ける初のシリーズ「Ferraresi(フェラレージ)」が3月26日(水)に発売された。ブランド発祥の地に住む人々にちなんで名付けたシリーズは、鴨志田が初めて訪れたフェラーラの街並みと人々から受けたインスピレーションが結実したものだ。そんな鴨志田に話を聞いた。

鴨志田康人(かもした・やすと)●東京都生まれ多摩美術大学卒。ビームスを経て、1989年にユナイテッドアローズの設立に参画。クリエイティブディレクターを務める。2008年に自身のブランド「カモシタ」を始動。2019年からは、ポール・スチュアート(日本)のディレクターとしても活躍している。2023年、日本におけるFelisiのクリエイティブディレクターに就任。
「ボローニャからクルマで一時間ほどの場所にフェラーラがあります。歴史が息づく文化の街で、石畳の路地や煉瓦造りの建物が美しく保存されています。何世紀もの時を超えて受け継がれてきた美意識が、街全体に洗練された雰囲気を醸し出しているのが印象的でした」
フェラーラはルネサンス期の佇まいを今に残す世界遺産の街だ。鴨志田はその落ち着いた街並みと、「フェラレージ」と呼ばれる地元の人々の温かさに心を動かされたという。
「イタリアには、自分の生まれ育った町を愛し、ずっと住み続けて伝統を大切にしていくという文化があります。まさにフェラーラもそういう街だという印象を受けました」

この体験から、鴨志田は単に美しいバッグを作るだけでなく、フェラーラの持つ普遍的な魅力を現代的に解釈したシリーズを構想した。それは城壁や街並みの色調、レンガ色といったイタリア独特の色彩感覚を取り入れながらも、現代のライフスタイルに溶け込むナチュラルな佇まいを目指すものだった。
「フェラレージ」シリーズの核となるコンセプトは「汎用性の高いバッグ」。鴨志田はバッグを「時代を象徴するアイテム」と捉え、現代のライフスタイルに寄り添うデザインを追求した。
「今必要なバッグとはどのようなものかと考えると、仕事だけに使うものではありません。仕事でも使えて、バカンスや出張、旅行なども含めて、スーツからTシャツまであらゆるスタイルに合うようなバッグが求められていると感じています」

かつてビジネスマンの必需品だったブリーフケースが姿を消し、ドレスコードも緩やかになった現代。そんな時代の変化を敏感に捉えながらも、単なる機能優先のカジュアルバッグではない、上質さを備えた一品を目指した。鴨志田が追求したのは「それを持つだけでカジュアルスタイルがアップする、持つだけでドレススタイルがちょっとこなれた雰囲気に見える」というバランス感覚だ。

シリーズでは素材選びにも独自の視点が光る。「シュリンクレザーとバケッタレザーを組み合わせることで、柔らかさとしっかりとした形状維持のバランスを取ることができました」と鴨志田は説明する。
従来のフェリージといえばナイロンと革の組み合わせが代名詞だったが、「フェラレージ」ではあえてオールレザーを採用。また、ブランドロゴも控えめにデザインした。
「私自身はあまりロゴで主張するデザインを好みません。スーツだってブランド名が表に出ていない状態で着ているではありませんか。服やバッグというのは自分自身を表現するものであって、ブランドを表現するものではないと考えています」

カラーリングについても、黒や紺といった定番色ではなく、オリーブグリーンやボルドー、クリーム色といった「ありそうでなかった」色合いを選択。これは街の色彩から着想を得たものだが、同時に現代の装いに馴染みやすい色調でもある。
「黒い服装にちょっとボルドーなカラーのバッグがあれば、それだけでスタイリングが決まります。そういう存在感のあるバッグを目指しました」

シリーズは大・小のトートバッグ、ショルダーバッグ、ミニショルダーバッグの4モデルで構成されている。それぞれに異なる使用シーンを想定しながらも、どれもが日常に溶け込む汎用性を持つ。
特に鴨志田がお気に入りという深いボルドーカラーのショルダーバッグは、伝統的なイタリアの革製品の技術を活かしながらも、現代的な解釈を加えたデザイン。ショルダーストラップの幅から真鍮パーツの使い方まで、細部にこだわりが光る。既に1年前から愛用している鴨志田のバッグは、使い込むほどに味わいを増していた。
「いいものというのは靴もスーツも同じですが、使い込まないと本当の良さが出てこないものです」

フェリージのディレクターとして、鴨志田はブランドの未来についても明確なビジョンを持つ。
「あまり大きなブランドにしたいとは思いません。小規模でも人々の目に留まる、気になるブランドであり続けたいと考えています」
今後、「フェラレージ」の世界観を維持しながら、バッグだけでなく財布やポーチ、キーホルダーなどの小物アイテムへと展開していく可能性も鴨志田は示唆している。しかし、その目指すところは規模の拡大ではなく、品質とアイデンティティの深化だ。

鴨志田が「フェラレージ」に込めた想いは、フェラーラの人々のように、伝統を大切にしながらも現代を生きる喜びを表現すること。それは単なるファッションアイテムを超えた、生活を彩る道具としてのバッグの在り方を問いかけている。
「生活を楽しむという姿勢を持っている方々に、ぜひこのバッグを手に取っていただきたいと思います」
この言葉に、鴨志田康人というクリエイターの哲学が凝縮されている。




