これは凄すぎ!モノ作り好きが涙するロエベの大展覧会が5月まで【無料・要予約】

  • 写真・文:一史
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20世紀初頭のテキスタイルデザイナー、チャールズ・フランシス・アンズリー・ヴォイジーの図案を使った2021年の服の展示。空間設営は日本のフラワースタジオ、edenworks。

凄かった、まー凄かった!!
「ロエベ クラフテッド・ワールド展 クラフトが紡ぐ世界」が。
一般公開前の3月27日に、いち早く観させていただきました。
プレスツアーと呼ばれる案内ガイドつき館内巡りが約30分。
解散後にひとりで巡り直して、合計3時間会場に居続けましたからね 。
「観足りないから今晩ここに泊まっていい??」と馴染みのPRスタッフさんに尋ねたら、「宿泊施設じゃありませんから」と丁重にお断りされました。

美的感覚を伴うモノ作りが好きな人なら、食い入るように見つめてしまう展覧会です。
とくにアニメや絵本などのファンタジー好き、革と布のマテリアル好きの人は確実にハマるはず。
ファッション、工芸、美術、キャラクター、アニメーション、映像が怒涛のごとく押し寄せる美のテーマパークです。

しかもなんと入場無料(予約制)。
予約は困難かもしれませんが、頑張る意義はあります。
観終わったいま、これを観るのに幾ら出せるかと聞かれたら「5,000円かなぁ」と答えます。
それくらい払ってもいい満足度でした。

この記事では展覧会のエッセンスを、

1. ファッションデザイン
2. ポップなキャラクター
3. 工芸&美術
4. 歴史&職人技

の4ジャンルに分類してご紹介します。
(公式見解ではありません)
皆さんのご興味のあるものにスクロールですっ飛ばしていただいてOKです。

ただ写真の出来がよくない点はお伝えしておかねば……。
一眼カメラでなく古いiPhoneでのスナップで、照明のチラつき(フリッカー現象)の影響を受けちゃってます。
ファッションの部屋がとくにヒドくて、画面全体がはっきりわかる縞模様になってしまいました。
レタッチでも消せない困った結果に。
この記事内の写真をくれぐれもネットで転載使用なさらぬようご留意くださいませ。

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1.ファッションデザイン

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近代のファッション(服)は、この1部屋に凝縮して展示されてます。
クリエイティブ・ディレクターのジョナサン・アンダーソンが在籍した約11年からの厳選されたベスト・オブ・ベストのショールックがずらり!
ジョナサンはスペインのロエベを率いて、レザーアクセサリーブランドをモードの最前線に押上げた偉大な業績のファッションデザイナー。
工芸とアートが好きなことでも知られ、フランス・パリ周辺モードの貴族的、上層階級的な世界観とは異なるセンスの持ち主。
(そんなところも日本人の趣味に合う理由かも)
今回の展覧会全体のうち、約3/4がジョナサン時代の産物と思えました(わたしの印象)。
工芸作家とのコラボレーションやポップなアニメも取り入れる発想力は、彼ならではの個性と推察されます。

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うぅ、写真全体に縞模様が……。
シャッタースピードを調整してフリッカー対策しなかったわたしが悪いのです。

上写真2点は、デニムジャケットのリメーク風(またはリアルリメーク)デザイン。
見事なアシンメトリードレスに仕上がってます。
襟を身頃に縫い付けた首周り、狭めの肩の色っぽさったら!
デニムのストリート感覚、庶民感覚を上品なエレガンスに落とし込むミックスカルチャーの素晴らしさです。

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IMG_1383.jpg遠目にはハイウエストデニムとポロシャツの普通な組み合わせですが、、、

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実は上下の生地ともにメタリックパーツつきで華やか!
日常着を最高レベルに引き上げた現代的なエレガンス。
着る人が文字通り輝く服でしょう。
誰かが着て東京の街中を歩く姿を見たいですねえ。
24年春夏のメンズウェアですが、女性に着てほしいです。

ファッションショー映えよりも社会生活でどんな意味を持つのか、着る人の人生とどう関わるのかに興味津々なわたしは、こんな服を間近で見られて幸せです。
ユニクロともコラボする民主的な感性を持つ、北アイルランド出身のジョナサン・アンダーソンがディレクションしたからこそ生まれたスタイルなのでしょう。


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ビーズの総手刺繍パンツ。
途方もない労力が、カッコよさ、美しさ、着る人を引き立てる服に結実しているのが最高です。
「なぜこれをやるのか?」ってモノ作りの重要な観点ですよね。
トップスは男性的なタキシードと白シャツ。
刺繍の花モチーフの甘さを引き締めてます。
24年秋冬コレクションより。

なおビーズ刺繍の技術については別部屋に展示されてます。 ↓

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24年秋冬のメロンバッグ。
とてつもない工程を経た逸品です。

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ベースはコットンワンピース、ストライプはリアルレザー。
短冊状にカットしたレザーを一枚一枚縫い付けてます。
ウエスト部分を古典的なコルセットのようにギュッと密集させ、上と下に広げた作り。
曲げてもボコボコと変形しにくいレザーの特徴を活かした職人技のドレス。

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ロエベ(というよりジョナサン・アンダーソン)の次世代アートを体感できるコート。
タブレット端末をずらりとフロントに並べ、鳥が飛ぶ映像を映してます。
展覧会場では動く様子を見られると思うので、楽しみになさってください。
ビデオアートの父と呼ばれた美術家ナム・ジュン・パイクを思い起こさせる実験的な服。

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2. ポップなキャラクター

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美術界でキャラクター絵(奈良美智、村上隆、カウズなど)が定着した風潮と呼応するように、ここ10年ほどでラグジュアリーブランドがキャラをファッションに取り入れるようになりました。
ロエベでもキャラクターと高級ファッションを結びつける試みが増えました。
そんなキャラクターアイテムやビジュアルが、今回の展覧会では至るところに出現してます。
これにテンションが上がる人は「観に行ってよかった!」と大満足で帰路につけるでしょう。

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話題を呼んだスタジオジブリとのコラボレーションがアイテムの一部とともに空間表現されてます。
同コラボは、21年『となりのトトロ』、22年『千と千尋の神隠し』、23年『ハウルの動く城』の計3回行われました。
千と千尋の「カオナシ」のレザージャケットは本当に素晴らしいですね。
アニメを知らなくても、グラフィックだけで魅力的に感じられそうな完成度の高さ。
象嵌(ぞうがん)細工のようなレザーパーツの組み合わせ。
立体感、高級感、服作りの発想力がこの服を特別な一着にしています。

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ハウルの動く城をロエベのアイコンバックやレザーパーツで組み立てた、高さ約2メートルの巨大オブジェ部屋もあり。
子どもが喜びそうですね。

さらにキャラクター分野として見逃せないのが、出口近くのこの小部屋。↓
(写真奥の派手なのは次の部屋です)

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日本・京都の陶芸ユニット、スナ・フジタとのコラボインスタレーション。
24年にロエベがコラボ商品をつくったユニットです。
部屋の壁には無数の小窓が空けられ、その一つひとつには、、、

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愛らしいキャラクターがたくさん!
動くフィギュアもあります。
キャラクターが描かれた器も。

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私的に魅了されたのが、小窓から覗き込むアートアニメーション映像。
上下左右がミラーで囲まれた立体的な表現です。

この部屋は不思議の国のアリスのごとく、いろんな異世界を探険できるトリップ空間。
展覧会終盤の目玉だと思っています。
(ファンタジー好きなもので)

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3. 工芸&美術

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工芸は会場の至るところに見られ、ロエベのアイデンティティといえる作家性と深く結びついています。
この広いフロアはそんなロエベと関わる作家たちの工芸&美術を集めた展示フロア。

ロエベは工芸の支援プログラム、工芸作品コンテスト、ミラノサローネ出展作品企画など様々な活動を行っています。
ここに展示された作品を眺めていたら、マテリアル(素材)をものすごく深堀りしている作品ばかりなことに気づきました。
「工芸とはそういうもの」かもしれませんが、自己表現やアート表現のために素材をねじ伏せる強引さとは異なる、素材と真剣に対峙した結果生まれた作品群という印象です。
ロエベ、及びジョナサン・アンダーソンがこうした作風の作家を好んでいるのかもしれません。
洗練されていながら、素朴でもあるプロダクト。

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「ロエベ ブランケット(ミラノサローネ国際家具見本市)」2018年。
インドのリボン刺繍による作品です。
近くでガン見しちゃいましたよ。
様々な種類のリボンを縫い込んでブランケットに仕立てたようです。

この展示部屋では作家の制作の様子が撮影され、動く映像として流されてます。
これが素晴らしくて、人が手で作っていること、どんな環境(職場)で作られているか、どんな原材料かなどが伝わってきます。
作品のすぐそばに映像があるからとても理解しやすく。
世界各国のモノづくりをこのような場で教えてくれるのは嬉しいですね。

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私的ナンバーワンはこのオブジェクト。
作家:シモーヌ・フェルパン 素材:綿布、ピン 2018年。
布を折り畳み木の年輪のような造形に仕上げています。
近くで見ると物質の存在感に圧倒される作品です。

別の部屋ではアート協賛の展示も。↓

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アンセア・ハミルトンの体験型インスタレーション「The Squash」のためのヘルメット。 2018年 素材:ラムスキン(羊革)、コットン、ポリウレタン
モニタは同作品の映像です。
ロエベが衣装デザインを担当。

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上写真のバッグはロエベ、陶芸はパブロ・ピカソのもの。
同郷のスペイン出身者ということでロエベは長年に渡りピカソのコレクションを買い集め店に置いたりしているそうです。
観る機会が限られるピカソの陶芸にも遭遇できてお得な展覧会です。

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4. 歴史&職人技

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ロエベの刻印用金型。
1846年にスペイン・マドリッドの革工房からスタートした歴史の断片も展示されています。
ハイテク製造技術、近代的なマシンでの耐久性テストといった現在の工場の姿を紹介する展示が多い点にもご注目ください。
未来型の技術開発に取り組んでいる姿勢を示しています。
「現代のモノ作りってこうなのか!」と工場見学に来たように楽しく学ばせていただきました。

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こちらもクラシックな金型の展示。
Lの文字を組み合わせたロエベのアイコンマークの金型も。

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1910〜20年代の品。
右端のポーチは地図ケース、左上は旅行用のミニアイロンケース、左下はジュエリーボックス。
すべてオーダーメイド品。
当時の富裕層の生活や美意識が垣間見えます。

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アイコンバッグの「パズル」。
初登場は15年メンズコレクション。
13年にクリエイティブ・ディレクターに就任したジョナサン・アンダーソンの初期デザインです。
このバッグ1個のレザーパーツ数はなんと、、、

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この壁の左右全体(写真は展示物の一部切り取り)だそうです!
表裏に張り合わせ、掲載のバッグ1個にこれほど使われるとのこと。
そのように会場の案内スタッフさんに説明され、解説パネルにも「ここにあるのは、パズルバッグ ミディアム1つを組み立てるために必要なパネル状のピースです」と記載されています。
ただネット上で軽く調べてみたところ、信頼のおけるファッション誌メディアの過去記事で、パズルバッグの構造は「60以上のパーツ」との記述が見られました。
(ブランド側の原稿チェックを通過しているはずの特集記事)
ほかの一般ネット記事では40以上、との記述も。
それらが正しいなら、さすがに革パーツだけで展示のこの数は多すぎ!?
ロエベ主催のイベントですから誤りは考えにくいのですが。

ともかく!
ここで重要なのは数よりも、パーツがハイテクなレーザーカットで切り抜かれているという事実。
革の特性(シボや傷がないか)を見極めるのは人間の経験値で、機械は指示された箇所をカットします。
精密にパーツ分解することで、過去には実現できなかった革製品を作れるようになったのでしょう。

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こちらは前述した陶芸ユニット、スナ・フジタのキャラクター絵をレザー製品にしたときの技術の紹介。
レーザーで切り抜いたパーツを象嵌細工のように埋め込んでいく作業です。
スタジオジブリとのコラボでの「カオナシ」レザージャケットも同様の製造工程で、あちらは各パーツが糸で縫い付けられています。
着る服は耐久性が必要なため、ステッチでの補強が必要だったのでしょう。

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最後にもう一度、スナ・フジタのコラボ部屋より。

今回のロエベ展の長〜い紹介記事に最後までお付き合いいただき、皆さんありがとうございます!
これでも展示のほんの一部ですから。
会場になった「ヨドバシJ6 ビル」の構造を最大限に活用した設営で、建築関係者も参考になるのでは?

ロエベ クラフテッド・ワールド展の世界初開催は、24年の中国・上海にて。
ラグジュアリーマーケットの巨大市場である中国を最重視するのは、近年の高級ブランドのマーケティングのセオリーです。
新作発表のファッションショーを中国で行うメゾンも増えましたし。
なおロエベは、ルイ・ヴィトンを擁するLVMHグループに属しています。

展覧会の概要は以下にて。
前期の予約が埋まっているなら、後期を狙いましょう!

「ロエベ クラフテッド・ワールド展 クラフトが紡ぐ世界」

2025年3月29日(土) ~5月11日(日)
東京都渋谷区神宮前6-35-6
開催時間:9時〜20時(最終入場時間 19時)
入場料:予約制で無料
LINEによる予約:
https://liff.line.me/1572811923-DLbqnmWq
PR TIMESでの公式解説:
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000118.000010711.html

高橋一史

ファッションレポーター/フォトグラファー

明治大学&文化服装学院卒業。文化出版局に新卒入社し、「MRハイファッション」「装苑」の編集者に。退社後はフリーランス。文章書き、写真撮影、スタイリングを行い、ファッション的なモノコトを発信中。
ご相談はkazushi.kazushi.info@gmail.comへ。

高橋一史

ファッションレポーター/フォトグラファー

明治大学&文化服装学院卒業。文化出版局に新卒入社し、「MRハイファッション」「装苑」の編集者に。退社後はフリーランス。文章書き、写真撮影、スタイリングを行い、ファッション的なモノコトを発信中。
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