伝統をつなぐ家族経営者を讃えるプリマム・ファミリエ・ヴィニ賞に、京都の堤淺吉漆店が受賞

  • 文・久保寺潤子
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世界のワイナリーの中で、長い歴史をもち高く評価されている生産家12社が、ワインづくりの伝統を維持するために結成したプリマム・ファミリエ・ヴィニ(以下PFV)。2021年には組織創立30周年を記念し、あらゆる業界において歴史ある家族経営企業を賞賛し支援することを目的に「PFV賞」を創設した。第3回目となる今年の受賞者は明治42年創業の老舗漆精製所、堤淺吉漆店だ。さる4月10日、京都最古の禅寺・建仁寺にある両足院にて授賞式が開催された。

 

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京都・両足院にて行われた授賞式。PFVのメンバーが世界から駆けつけ、堤淺吉漆店の受賞を祝した。前列右から4人目が受賞者の堤卓也。

 

漆を未来へ繋ぐ、持続可能な取り組み

桜の花に緑の葉が混じり始めた4月上旬、古刹・両足院には世界から駆けつけたPFVのメンバーが、堤淺吉漆店の功績を称えた。日本の伝統工芸に欠かせない漆は日本において1万年以上の歴史を持つ素材だ。漆の精製を専門とする堤淺吉漆店は京都で100年以上にわたって事業を継承。国内での漆の需要は過去40年間で90%減少しているが、同店では品質へのこだわりを貫き、従来製法よりも耐久性に優れた漆を開発するなど、日本文化の保護に貢献してきた。現在日本産漆の精製・調合・供給に関する大部分を担っており、その一部は日光東照宮などの国宝修復にも使用されている。

 

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全国から採取された漆の樹液の不純物を取り除き、材料として使える状態に精製する。

「私たちが注力しているのは、環境に優しい持続可能な素材としての伝統的な漆です。漆は塗料、接着剤、または構造体として活用できる天然素材なのです」。授賞式でこう述べたのは4代目当主の堤卓也だ。堤は家業を継ぐ前、サーフィンやスノーボードにのめり込んだ経験から人と地球に優しい天然素材としての漆の可能性に着目。接着、加工はもちろん、樹液を採取した後の木材に至るまで、漆を余すところなく活用したサーフボードは、伝統工芸の新しい可能性を象徴する存在だ。

 

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堤淺吉漆店では日光に当たると劣化するという漆の性質を克服するために、紫外線劣化を軽減させる「光琳漆」を独自に開発。このサーフボードは木とコルクと漆でつくられている。

京都市下京区にある本店では金継ぎセットやうつわ、サーフボード、自転車まで、漆を活用したさまざまな製品が展示されているほか、上階では漆のワークショップも開催。さらに堤は次世代への持続可能性を考慮し、京都郊外で漆の植樹活動も行っている。

「堤淺吉漆店の取り組みは、家族経営の企業が持つ強靭さ、そして職人技を次世代へ継承することの重要性を象徴しています」とPFV会長シャール・シミントンはその功績を称えた。過去2回のPFV賞では、ヨーロッパ最古のヴァイオリン工房であるベルギーのメゾン・ベルナール、フランス・プロヴァンスで8代続く高級繊維メーカーのブラン・ド・ヴィアン・ティランが受賞。2年に一度、10万ユーロの賞金とともに授与され、家族経営企業が経済や文化、伝統工芸の維持に果たす役割を広く伝えることを目指している。

 

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受賞の喜びを分かち合う堤淺吉漆店4代目・堤卓也とPFV会長シャール・シミントン。「私にとって漆は、家族の記憶やぬくもりと結びついた特別な存在です」と堤。

 

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会場にはPFV12社のワインが納められたケースが並べられた。ケースには、漆芸アーティストの服部一齋による螺鈿アートが施された。

授賞式の後、一同は鴨川沿いに店を構える老舗料亭、たん熊本店にてワインペアリングの昼食を堪能した。一例を挙げると筍の木の芽和えにはポール・ロジェの「ウィンストン・チャーチル2015」、柚子の香る椀物にはファミーユ・ペランの「シャトーヌフ・デュ・パプ ルーサンヌ2020」、筍と穴子の炊き合わせにはテヌータ・サン・グイドの「サッシカイア2020」といった具合に、季節を感じさせる料理に合わせてPFVの面々による代表銘柄が供された。伝統に支えられた丁寧な仕事は、洋の東西を問わず、心を通わせる力がある。家族はそんな心の交流を支える小さくも強靭な存在であることを、教えてくれたのだった。

 

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左:葛とわらび、椎茸、柚子を合わせた椀物。右:シャンパンから白、赤、ポルト酒まで、和食との最高のマリアージュが供された。

プリマム・ファミリエ・ヴィニ

https://pfv.org/ja/pfv-prize