“鳥には鳥の言葉がある”と発見した、現代版ドリトル先生のエッセイ【Penが選んだ、今月の読むべき1冊】『僕には鳥の言葉がわかる』

  • 文:瀧 晴巳(フリーライター)
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【Penが選んだ、今月の読むべき1冊】
『僕には鳥の言葉がわかる』 

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鈴木俊貴 著 小学館 ¥1,870

猫と暮らしていると、思わず話しかけていることがある。「おいしいニャア」など怪しい猫語も日常茶飯事。彼らの言葉がわかったらどんなにいいだろう。

本書は、それを成し遂げてしまった人のエッセイだ。古代ギリシャ時代から現代まで、言葉を持つのは人間だけだと決めつけられてきた。しかし、子どもの頃からコンラート・ローレンツの『ソロモンの指環』やニコラス・ティンバーゲンの『鳥の生活』を読み、動物行動学者に憧れていた著者は「本当にそうだろうか」と疑問を抱く。

そうして大学3年生の時、軽井沢に野鳥の観察に出かけた際に驚くべきことに気づく。ヒマワリの種をまくと、やってきたシジュウカラは「チチチチ…」と鳴いて、ほかの鳥たちを呼び寄せた。エサの少ない時期にわざわざそんなことをするだろうか。観察を続けていると、今度は「ヒヒヒ」と鋭い声がして、鳥たちが一斉に飛び立った。すると間一髪、彼らを狙うハイタカが飛んできて、それが危険を知らせる鳴き声だと知る。とはいえ、ここまでは想像に過ぎない。そこから18年にわたる観察と研究の結果、ついにシジュウカラにはシジュウカラの言語と文法があることを突き止めるまでがいきいきと語られていく。

観察してひらめいたことが、実験の結果、証明された時の驚きと喜び。シジュウカラというピンポイントな扉を開き、掘り下げていくうち、世界の見え方までどんどん変わっていく。センス・オブ・ワンダーとは、まさにこのこと。しまいには本人の風貌や仕草までシジュウカラに似てきたと言われるほどで、これは動物行動学者によくあることらしい。この世界を構成しているのは人間だけではない。

現代のドリトル先生は、好きなことを究める情熱とその先の豊かな景色を教えてくれる。

※この記事はPen 2025年5月号より再編集した記事です。