精緻な機構と官能的な曲線が融合する瞬間。そこには腕時計という枠を超えた、もうひとつの「マシン」が存在する。リシャール・ミルとフェラーリ、このふたつのエンジニアリングの巨頭が放つ新作は、単なるコラボレーションの域を超え、両ブランドのDNAが完全に交差した稀有な逸品となった。2021年に始まった両社の関係性は、翌年には厚さわずか1.75㎜の超薄型モデル「RM UP-01 フェラーリ」で業界を震撼させた。そして今回、その挑戦はさらなる高みへと昇華。新たに誕生した「RM 43-01 トゥールビヨン スプリットセコンドクロノグラフ フェラーリ」は、3年の開発期間を経て具現化された複雑機構の頂点に立つ意欲作だ。

この革新的なタイムピースにはふたつの個性が宿る。マイクロブラストとポリッシュ仕上げが施されたグレード5チタンとカーボンTPTのミドルケースを備えたモデル、そしてアグレッシブな表情を湛えるフルカーボンTPTモデルだ。「ふたつの異なる個性を表現するために、二種類のケースを用意しました。チタンケースには『ジェントルマン・ドライバー』のエスプリを、カーボンケースにはよりエネルギッシュな心を体現しました」とリシャール・ミルのケーシングテクニカルディレクターであるジュリアン・ボワラは語る。

この美学をかたちづくったのは、フェラーリの専属デザイン部門「チェントロ・スティーレ」の審美眼であり、随所に同社の魂が脈打つ。高級SUV「プーロサングエ」のシートから着想を得たストラップや、名車「499P」のリアウィングを想起させるチタンプレート上の跳ね馬ロゴ、エンジンブロックの造形美を反映した表面処理、V8エンジンのクラッチホイールを彷彿とさせる香箱石、「488チャレンジエボ」や「ダイトナSP3」といったフェラーリの限定モデルのボディラインを継承したケースデザイン。そして操縦席から抜け出したかのようなスケルトナイズされた30分積算計が文字盤で躍動する。

外観の美しさに匹敵する精巧さで構築されているのが、キャリバーRM43-01だ。スケルトナイズされたチタン製地板とブリッジが軽量かつ強靭な機構を支え、約70時間のパワーリザーブを誇る。オフセンター配置のトゥールビヨン脱進機には、5つの放射状ブレードによる革新的なアクティブセコンド表示を採用。スプリットセコンドクロノグラフ機能はレース中の2台のマシンを同時計測するかのような精密さを実現している。「ムーブメントマニュファクチュアとしての私たちの追求は、日々より科学的な領域へと進化しています。それにより、卓越した性能を発揮しながら、より堅牢なコンポーネントを生み出すことが可能になっています」とリシャール・ミルのムーブメントテクニカルディレクターであるサルヴァドール・アルボナは語る。



選ばれし者だけが手にすることを許された、この腕に宿るF1マシンは、実用性を超越し、可能性の証しとして存在する。美学と機能性、情熱と理性、伝統と革新——。それは時を刻む装置であると同時に、卓越への飽くなき探求を結晶化した芸術品でもある。わずか各75本という限られた数だけが世に放たれ、幸運な所有者の手首で、リシャール・ミルとフェラーリが紡ぐ果てしない挑戦の物語を刻み続けるのだ。

