第104回“ノスタルジックな“オール5”の温泉”【小山薫堂の湯道百選】

  • 写真:中野一行
  • 文:小山薫堂
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〈島根県大田市〉
薬師湯 温泉津温泉(別館)

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今回訪れた「薬師湯」は、島根県大田市の温泉津町にある。温泉津と書いて「ゆのつ」。津とは港のこと。石見銀山の銀を世界へ積み出した港のある温泉地が地名の由来である。まず、なんと言っても街の佇まいがいい。江戸、明治、大正、昭和とそれぞれの時代の建物が混在する風景は、まるで時間の博物館のよう。温泉地としては全国で唯一、国の重要伝統的建造物群保存地区に選定されている。特に目をひくのが、大正ロマンが息づく洋風建築、とんがり屋根の薬師湯である。ノスタルジックな風情に心ゆさぶられ、湯に浸かってさらに驚いた。その湯が本当に素晴らしいのだ。自然湧出している源泉そのものは無色透明のナトリウム塩化物泉だが、空気に触れた途端、薄い茶褐色に変わる。季節や時間によって、黄金色やエメラルドグリーンなどに七変化するらしい。

45度で湧出した湯は、湯船では43度となるが、ミネラル分が多いため、さほど熱くは感じない。道を挟んだ向かいにある別館の貸切湯になると40度まで下がる。これが熱過ぎず、ぬる過ぎずで、究極の湯加減なのである。永遠に浸かっていたいと思うほどの心地よさ。日本温泉協会が「オール5」という最高評価を与えたのも納得できる。

若い移住者たちによって、新しい街づくりが進められている点も魅力。いまや銀以上に輝く宝物がこの街にはあふれているのである。

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JR温泉津駅からクルマで5分。2007年に「石見銀山遺跡とその文化的景観」の一部として世界遺産に登録されている地区。 

 

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オーナーの内藤陽子さん。温泉について医学的に研究するため島根大学医学部の大学院へ。薬師湯独自の入浴方法を提案するなど、温泉を安全に楽しんでもらうための入浴指導も行っている。

薬師湯 温泉津温泉(別館)

住所:島根県大田市温泉津町温泉津7
TEL:0855-65-4894 
営業時間:9時~21時(月~金) 8時~21時(土、日、祝)
料金:一般 ¥1,600(40分貸切)
www.yunotsu.com

※この記事はPen 2025年6月号より再編集した記事です。