TOPPANが4人のクリエイターと新しい印刷表現を探る「GRAPHIC TRIAL」が開催【Penが選んだ今月のデザイン】『GRAPHIC TRIAL 2025 -FIND-』

  • 文:高橋美礼(デザインジャーナリスト)
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展覧会のメインビジュアルは関本明子が手掛けた。 

印刷文化を牽引するTOPPANが、第一線で活躍するクリエイターと協力して新しい印刷表現を探る「GRAPHIC TRIAL」が19回目の開催を迎えた。アートディレクターの大貫卓也をはじめ、関本明子、吉本英樹、妹尾琢史の4人が参加した今回のテーマは「FIND」。多彩な印刷手法を扱うクリエイターが、それぞれ5枚のポスター形式で、新鮮かつ斬新な印刷の可能性を探し出し、作品として提示する。

グラフィックデザイナーの関本明子の作品『かさね』は、「10%のインク濃度で10回印刷を重ねると、100%で印刷したものと同じ仕上がりになるのか?」という疑問からスタートした作品だ。

「これまでの仕事で、黒いインクと金色のインクを重ねて刷ることがありました。オフセット印刷で使うCMYK(シアン、マゼンタ、イエロー、ブラック)のインクはベースが透明で、金色は不透明なインクを使います。知識としてはあったのですが、黒が先か金が先かで、刷る順によって色が変わることを実感することがありました。この経験から、インクの“重なり”でなにかを表現できないかと考えていたことが、今回のチャレンジにつながっていきました」と関本は話す。

「理論上やモニター上では10%の濃度の黒、つまり薄いグレーを10回重ねることで100%真っ黒になります。でも実際に印刷してみると、紙によるインクの吸い込みやインクの重なり方によって、真っ黒にはなりませんでした。試した結果、濃度12.5%で10回刷ると真っ黒を実現できることがわかったんです」

こうして関本は濃度12.5%の黒インクを10回重ね刷りし、インクの重なりが生み出すグラデーション表現を追求して作品をつくりあげた。試行錯誤の成果は、4人それぞれの作品を支える印刷技術にも着目しながらじっくり鑑賞したい。

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関本が発表したポスター作品『かさね』の試し刷り。重ね刷りによる黒のグラデーションが生み出す奥行きによって、時間の経過を感じさせる5連作として仕上げていった。植物の球根や細い根をイメージしたグラフィックは、小さなパーツの中にも黒の濃淡を持たせてあり、それがさらに全体の奥行きを生み出している。

『GRAPHIC TRIAL 2025 -FIND-』

開催期間:~7/6
会場:印刷博物館 P&Pギャラリー
開館時間:10時~18時
休館日:月曜日、5/7(5/5は開館)
料金:無料
www.toppan.com/ja/joho/gainfo/graphictrial/2025

※この記事はPen 2025年6月号より再編集した記事です。