凄かった!!『KYOTOGRAPHIE 京都国際写真展 2025』を振り返る【第1回:アダム・ルハナ編】

  • 写真・文:一史
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「KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭 2025」(以下、キョウトグラフィー)の会場記録をこのブログ記事でお届けします。
訪れた目的は、
「日本家屋で写真が展示される空間の妙を体感するため」。
単に「プリント写真を観るため」とは異なる目線で東京から足を運びました。

気持ちを駆り立てたのは、古い日本家屋や寺院仏閣と海外作家の写真がどのように調和(または反作用)するのかへの好奇心。
高層ビルが乱立する近代都市での写真イベントだったなら行かなかったかもしれません。
(今回の京都訪問は経費すべて自腹 w)

さてキョウトグラフィーを巡ってみた結果は……、
最高でした!!
行けた会場数は限られたものの、特に3つの会場(3名の作家)が、もうホントにヤバいです!
(語彙力最低ですみません。。。)

今回は断トツに心を震わせてくれた、アダム・ルハナさんの展示風景をご紹介します。
あとの2つは今後の公開記事にて。

キョウトグラフィーは5月11日(日)で期間終了。
行けなかった皆さんにも場の空気を感じていただけるように様々な角度から記録してきました。
今回の会場は伝統的な町家の旧住居です。
人が知覚するエリアを1枚の写真に収めるため、超広角レンズを使用。
広く感じる誇張をマイナスしながらご覧いただくと、よりご自身が会場にいる気分になれるかもしれません。

それでは、以下よりスクロールしてご覧くださいませ!

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アダム・ルハナ『THE LOGIC OF TRUTH』

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作品の1つひとつが呼応し合い生み出された空間への没入感。
そこに大きな感動があった展示です。

アクリル板や紙など多様な素材にプリントされた作品は、何通りにも解釈できる抽象的なもの。
例えば人物なら、その人が悲しんでいるのか喜んでいるのか、どこに立っているのか何をしているのか不明です。
同じ部屋に展示された別の写真との組み合わせにより、物語が紡がれて行きます。
(その物語も抽象的なのですが)

部屋の正面、左右、床のパネルに心が包まれていく体験。
静止している写真のよさを活かした表現方法でした。
臨場感がありつつも静寂な時間。

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展示テーマや作家の経歴などを知りすぎると、先入観が鑑賞(評価)の妨げになるケースもあるでしょう。
ただこの展覧会では、少しだけ頭に入れておくほうがよさそうです。

撮影された土地はすべて、中東パレスチナ。
イスラエルの国土にある自治区です。
人口の約半数が16歳未満の子ども(認定NPO パレスチナ子どものキャンペーンの公式サイト内記述より)とされています。
土地が分断されたパレスチナのなかで紛争地のガザ地区には、つい先月もイスラエル軍から大規模な爆撃がありました。
今年もハマス関連への爆撃が繰り返され、民間人も巻き添えを受けていることが各メディアで報じられています。

写真作家のアダム・ルハナさんはパレスチナ人の父親とアメリカ人の母親を親に持つアメリカ育ちの人。
子どもの頃からパレスチナに毎年行き、祖国と考えているそうです。
公式解説によると今回の展覧会でアダムさんが示したのは、一般報道で触れられることが少ない現地の暮らしとのこと。
スポーツをして仲間と笑い合い、生活する人々。
もちろん戦争や貧しさとも常に向き合う日々。

ただ撮影された地区は不明で、報道が多いガザからは遠く離れたヨルダン川西岸の可能性が高いです。
(確証はありません)

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日本家屋との調和が素晴らしい展覧会です。
日本人(日本暮らしの人々)に馴染み深い生活の場にパレスチナの異文化が加わり、個性を際立たせていました。
同じ写真でも現代的なギャラリーに並んでいたら、かなり違った印象を受けるでしょう。
京都の街の空気や匂い、古く歪んだガラス窓から見える庭の木々や民家の屋根が作品の生命力を増していた印象です。

会場演出についての見解はわたし独自の考えで、どの資料も参照していません。
作家の意図と違うかもしれず、見当外れかもしれず。
訪れて時間を過ごした自分の感情を語っています。

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各部屋をシームレスにつなげた会場のなかで、とくに好きでたまらなかったのがこの部屋(右)です。
顔に手をやる幼児の作品が中核。

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花畑の牧歌的なムード、スポーツする脚の躍動感が幼児の姿を何重にも変化させていた部屋。
窓際の目立つ場所にあるこの子の写真は、分厚いアクリル板へのプリントです。
日中であれば窓からの光を透過させ、室内照明とは異なる表情を見せていたでしょう。

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この子はどんな気持ちでいるのでしょうか?
喜び?悲しみ?苦しみ?
それとも日差しが眩しいだけ?
パレスチナの写真と思えば、叫びにも感じられるでしょう。
でも実際はめちゃ笑顔かもしれません。
友だちとキャッキャと騒いでいる一瞬かも。
「この曖昧なままでいい」
そう思った展示です。
鑑賞者の推察に浸れますから。

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訪れた夕方から夜には、古いガラスに作品が反射して美しい奥行きを生んでいました。
日本家屋だからこその魅惑の光景です。

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畳、木材、障子……。
日本家屋の室内は主に、一定の法則で交差する縦横の直線で作られています。
グラフィカルでシャープでミニマル。
有機的なアート作品やオブジェを浮き上がらせるのに有効な展示場所であることに改めて気づかされました。

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この部屋も最高でした!
水に浸かる子どもたちを中心に、水がキーワードとなった展示です。

片面の壁は、水が洗濯物と結びついています。
対抗面の壁は、白い馬に草を与えるシーン。
動物に水を飲ませたり身体を洗う光景が目に浮かび、こちらも水とリンク。
子どもたちが洗濯したのか馬の世話をしているのか、想像が膨らむヴァーチャルな立体空間。

……でもしかし、
子どもたちが戦火から水路に避難した瞬間かもしれないのです。
平和の光景のようでも「ひょっとしたら」と思わせるレイヤー構造がアート展たるゆえん。
観る者の感性を、決して押し付けでなく自由に心地よく刺激してくれます。

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「あ〜楽しい。作品も日本家屋もステキだなぁ」などと脳天気に歩いていると、突然ハッとさせられる瞬間もやってきます。
上の光景は警察または兵士から、アダムさんが撮影を制止された様子ではないでしょうか。

同展覧会のタイトルは、『THE LOGIC OF TRUTH』。
1948年のイスラエル建国から西欧諸国に翻弄され、メディア報道でも歪曲されやすいパレスチナの真実とはなにか。
そのロジック(論理)を再定義しようとした試みのようです。

会場の「八竹庵」はキョウトグラフィーのインフォメーションセンターも兼ねていましたし、ご覧になった方も多いでしょう。
これほどの展示が入場無料だったことにも驚きましたよね!
夜7時の終了時間までいて、東京への帰路につきました。
帰りたくなかったな……。
京都から、というより、アダム・ルハナ作品と一体化した八竹庵の2階から。

高橋一史

ファッションレポーター/フォトグラファー

明治大学&文化服装学院卒業。文化出版局に新卒入社し、「MRハイファッション」「装苑」の編集者に。退社後はフリーランス。文章書き、写真撮影、スタイリングを行い、ファッション的なモノコトを発信中。
ご相談はkazushi.kazushi.info@gmail.comへ。

高橋一史

ファッションレポーター/フォトグラファー

明治大学&文化服装学院卒業。文化出版局に新卒入社し、「MRハイファッション」「装苑」の編集者に。退社後はフリーランス。文章書き、写真撮影、スタイリングを行い、ファッション的なモノコトを発信中。
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