クルマのエクステリアデザインは、どこまで内容を反映すべきか。ミニが発表した「ミニ・ジョン・クーパー・ワークスE(イー)」と「ミニ・ジョン・クーパー・ワークス・エースマンE(イー)」は、見かけはほとんどガソリン車と変わらないバッテリー駆動EVだ。

バッテリー駆動のパワートレインをチューニングした、ハイパフォーマンスBEV(バッテリー駆動EV)というスペシャル性を考えると、目立つデザインもありかと思うだけれど、ミニのデザイナーはやや控え目な表現を選んだ。ただしそれには理由があるようだ。
2024年10月に発売されてそろそろデリバリーという、ミニ・クーパー(3ドア)Eと、ミニ・エースマンの高性能モデルが、ジョン・クーパー・ワークス(JCW)だ。

ほぼ同時に発表された、ICE(内燃機関=エンジン)のミニ・クーパーとミニ・クーパー・コンバーチブルのJCWモデルと内容は似ている。車体のロールを抑えた硬めな専用の足まわりとステアリング、それに赤の挿し色を効果的に使った外観と、スポーツシートが眼をひく内装が特徴。

フロントグリルの大きさに加えて、空力のための大きなリップスポイラーやルーフエンドのスポイラー、大径ホイールや専用カラリング。車内に眼を転じると、専用スポーツシートなど、ミニならではと言いたくなる、楽しさを感じさせるデザインだ。

25年5月に英国で乗って、感心したのは、言ってみれば“ナチュラルな走行感覚”。ごく低速でたっぷりとしたトルクが出るのがモーターの特性なので、出足は俊敏で、かつ加速はよい。でもそこばかりを強調せず、基本的にはスムーズで、運転していて気持ちよい。

今回のエレクトリック・ミニ。それぞれ異なる市場を対象にしている(と思う)。ミニ・ジョン・クーパー・ワークスEは全長3860mm、ホイールベース2525mmの2ドアハッチバックであるのに対して、ミニ・ジョン・クーパー・ワークス・エースマンEは4080mmの車体を2605mmのホイールベースを持つシャーシに載せている。

どちらも、ベースになった電動モデルがあるが(エースマンはそもそもBEV=バッテリー駆動EV専用モデル)、JCWの名がついて、明らかに別のクルマになっている。
上で触れたICEモデルのミニ・クーパー3ドアとミニ・クーパー・コンバーチブルと同様、一言で特徴を表現するなら「クイック」。ステアリングホイールを少し動かしただけで、車体は即座に反応して、たとえばコーナリングとか、次のアクションにさっと移っていく。

「クイックさがJCWモデルの命」と、シャーシ開発を担当したミニ本社の技術者が言う通り、アクセルペダルの踏み込みに対して敏感な加減速のフィーリングと、たいへん相性がよい。
一般的には「スタンダードモード」に相当する「CORE(コア)」モードをドライブモードセレクターで選んで走っても、ダイレクトな操縦感覚をたのしめる。さらにスポーティな走りを求める人は「ゴーカート・モード」を選択するとよい。

ICEモデルと同様、アスリートが眼を覚ましたような、さらにクイックな加減速やステアリングフィールが味わえる。ホイールベースが短い3ドアモデルで、JCWの核にある楽しさがより強く感じられる気がした。
2モデルとも、ステアリングホイールに「ブースト」ボタンを持つ。これを引くと、10秒だけモーターを駆動する電圧が高くなり、20kWのエクストラパワーが発揮される。加速力はなかなかのものである。サーキットの直線での仕様がイメージされるが、日常生活ではそもそも速いクルマなので、あまりご縁がないかもしれない。

3人以上で乗る機会が多い人は、JCWエースマンがいいだろう。ドアが4枚あるのと同時に、日本の都市部に多いタワー式駐車場にも入れられるし、3ドアより車体は余裕がある一方で、全長が4mを少々超えるぐらいなので市街地で扱いやすい。
JCWが2台のエレクトリック・ミニに設定され、しかもスポーティで乗りやすいため、ミニの購入にあたっては選択肢が豊かになっている。喜ばしいと感じる向きも少なからずあるはず。

外観デザインは、ハイパフォーマンスモデルであるが、やたら鬼面人を驚かすような強烈な要素はあえて採用されていない。オーナーシップの適度な喜びを与えつつ、悪目立ちしないことで、都市内にすんなり溶け込む。ミニとは本来、都市の住人向けに開発された。そのルーツに思いを馳せてしまった。
ダッシュボード中央に据え付けられた円形モニターの表示が、選ぶドライブモードに合わせて変わるのは、ベース車と同様。ユニークな表示される遊びもなかなかよい。
ナビゲーションシステムを使うとき、矢印のアイコンを指で長押しすると、自車のアイコンに変わる。本質的な走りの機能と関係ないけれど、プロダクトの色や手触りが生活の彩りになるのと近いものを感じる。

Mini John Cooper Works E
全長×全幅×全高:3860×1755×1460(4080×1755×1515)mm
ホイールベース:2525(2605)mm
電気モーター 前輪駆動
最高出力:190kW
最大トルク:350Nm
一充電走行距離:421km(403km)
乗車定員:4(5)名
価格:616(641)万円
問い合わせ:MINI
www.mini.jp/ja_JP/home.html
(カッコ内はJCW Aceman E)