
近年作品集が続々とリリースされたことで、あまり知られていなかった制作活動が鮮明になってきた、イタリアを代表する写真家、ルイジ・ギッリ(1943-92年)のアジア初の美術館個展。
イタリア北部のレッジョ・エミリアを拠点としたギッリは、絵画的とも言われる静謐に満ちたカラー写真によって、自身と周囲の関係性の考察をし続けた写真家だ。1978年に出版した初の写真集『コダクローム』によて、欧州におけるニューカラーのパイオニアのひとりとして注目され、80年以降は美しい景色や歴史的な建造物が残るレッジョ・エミリア周辺の風景をおもにテーマとしていた。なかでもギッリの代表作をひとつ挙げると、やはり「ジョルジョ・モランディのアトリエ」となるだろう。
ボローニャに生まれ同地で亡くなったジョルジョ・モランディは、静物画を中心に自己の芸術を探求し続けた。の没後25年もの間、制作の途中でひっそりと残されていたアトリエを、89年11月から半年間通い撮影したのがこのシリーズで、その点数は約400にも及んだ。孤高の画家モランディの葛藤や試行錯誤の痕跡が残された空間を独特の色のセンスによって捉えた、実に味わい深いギッリ最晩年の傑作だ。
モチーフとした瓶や花瓶、水差しはもちろん、絵の具が飛び散った壁やイーゼルや椅子が、画家のすぐ背後からそっとのぞくように撮られていて、何度も何度も並べ替えられた卓上の静物たちを前にして、モランディがなにを考え筆を進めていたかを見る者に想像させる。同シリーズは、作家でイタリア文学の翻訳者としても知られる須賀敦子の全集にも使われ、その装丁でギッリのことを好きになった人も多いはず。ギッリ、そして須賀のファンにとっても待望の展示となるだろう。
『総合開館30周年記念 ルイジ・ギッリ 終わらない風景』
開催期間:7/3~9/28会場:東京都写真美術館
TEL:03-3280-0099
開館時間:10時~18時(木、金は20時まで。ただし8/14~9/26までの木、金は21時まで) ※入館は閉館の30分前まで
休館日:月曜日(祝休日の場合は開館、翌平日は休館)
料金:一般¥800
www.topmuseum.jp
※この記事はPen 2025年8月号より再編集した記事です。